北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル発射と核実験に対し、国際社会の制裁圧力が強まるなか、北朝鮮当局が「生活が苦しくなったのは中国の制裁のせいだ」というプロパガンダを行っているという。この影響により、北朝鮮国内で反中感情が高まっていると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

人身売買の被害も

北朝鮮国内では制裁の影響で、市場の物価が一斉に上昇している。これについて当局の幹部は「中国も、米国や日本と同じ朝鮮民族の仇敵」と触れ回り、反中感情を煽っているという。

RFAの咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、道の貿易局は靴、カバン、衣類などを生産する中国企業に、労働者を派遣する計画を進めていたが、突如として中止になった。このため、中国に派遣される予定だった労働者たちが厳しい口調で中国を非難しているという。

彼らは北朝鮮当局の外貨稼ぎの一環で派遣される予定だったと見られるが、海外に派遣された北朝鮮労働者の人権が著しく侵害されていることはすでに国際社会の知るところとなっている。

昨年にはロシアのハバロフスクで、ある北朝鮮労働者が現場から逃走する事件が発生。逃亡は失敗し、労働者は見せしめのためひどい暴行を受けた。

それでも北朝鮮国内で働くよりお金を稼げることから、海外へ行くことを希望する人々はいる。一方、彼ら以上に悲惨なのが、やむえなく越境して中国で働く人々、つまり脱北者たちだ。

中国当局からすれば脱北者は違法越境者に過ぎず、法的な保護の対象にはならない。そのため、とりわけ脱北者の女性らは、中国で人身売買の被害に遭ったり、ブローカーに監禁され性的搾取を受けるなど、悲惨な状況に置かれているケースが多い。

(参考記事:「中国人の男は一列に並んだ私たちを選んだ」北朝鮮女性、人身売買被害の証言

北朝鮮で流通する商品の多くは中国製であり、経済的に中国に支配されていることを北朝鮮の人びとはよく知っている。北朝鮮当局は、内部の不満を外部にそらすために、人びとが中国、そして中国人に対して持つ羨みと妬みの入り混じった対中感情を利用しているものと思われる。

中には「70年あまり続いた血盟を、古くなった履物のように捨て去った奸臣の輩」であると中国の習近平国家主席を罵ったり、「経済的利害関係で朝鮮に付いたり、米国に付いたりする中国などとの親善関係など最初から妄想だ」などと吐き捨てる人も出てきたという。

さらに、国内在住の華僑が、中国国籍であることを利用してヤミで商売を行い、いざとなったら中国大使館の保護を受けるということを繰り返してきたことが、反中感情の増大に拍車をかけている。

一方、中国当局は北朝鮮に対する経済的な締め付けをさらに強化している。咸鏡北道の別の情報筋は、北朝鮮が外貨稼ぎのもう一つの柱として掲げてきた観光を、中国が禁止したと伝えた。

情報筋によると、中国政府は9月15日前後、北朝鮮への観光目的の渡航を禁止する指示を下し、10月1日から北朝鮮観光が中止になった。

清津の朝鮮国際旅行社は、中国吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉にある旅行会社と合弁で、景勝地として名高い七宝山(チルボサン)を訪れる日帰りツアーを販売し、多額の外貨を稼ぎ出してきたが、紅葉の季節を控えた時期なのにツアーが中止となり、莫大な損害を受けた。

この件と関連し、中国の国家旅游局のウェブサイトに、10日午前の時点で一切の通告などは掲載されておらず、現段階での真偽の程は不明だ。

ちなみに、延吉の大自然旅行社のウェブサイトを見ると、七宝山ツアー日帰りツアーの募集ページはないが、七宝山を含む北朝鮮3日、4日ツアーの募集ページは掲載されている。中国最大手の旅行サイトである途牛も、同様の状況だ。

さらに、中国商務省は来年1月までに北朝鮮との間で設立した合弁企業を閉鎖せよとの通告を出したことを受け、各企業は年内の閉鎖に向けて残務整理に追われている。

中国当局が今後も対北制裁を強化すれば、北朝鮮国民の反中感情はますます高まるかもしれない。