[J1リーグ27節]磐田 2-1 大宮/9月23日/ヤマハ
「え? 俺の? 俺なんだ」
 
 中村俊が、前半の先制点が自分のゴールだと知ったのは、試合後のインタビューで『ご自分のゴールを振り返ってください』という質問を受けた時だった。
 
 自身が持つJ1最多記録を更新する24本目の直接FK弾は、ちょっとした珍事に彩られたことで、サポーターにとっても自身にとっても、より記憶に残るものとなった。
 
 先発出場を続け、毎試合90分間の総走行距離でチームトップを争う39歳は、この日もキレのある切り返しや、狭いエリアで囲まれても難なくキープするテクニックで相手を翻弄した。“俊輔劇場”で満員のスタンドを沸かせながら、何度も敵陣で相手のファウルを誘った。
 
 20分のFKも、自らが得たもの。放ったキックは、ゴール前に走り込んだ郄橋の足に当たり決まったように見えた。電光掲示板に得点者として表示されたのも、郄橋の名前だった。
 
 しかし、当の郄橋はゴール直後に掲示板上の自分の名前を見て、苦笑いをしながら腕でバツ印を出していた。
 
「触ったと言いたいけど、触ってないですね。正直者なんで」と、試合後に郄橋。
 
「俊さんの狙いが分かっていたので、前に走り込んだらどうなるかな、低い軌道だったので当たれば何か起こるかな、と思ったけど『スルー』しました(笑)」
 
 実際は、郄橋についた相手選手にわずかに触れたようだが、得点者はキッカーの中村俊と認定された。
 
 さらに、中村俊は低く速い弾道で、ワンバウンドしてゴール右隅に突き刺さった約30メートルのFKが、実はミスキックだったことを試合後に明かした。
 
「(試合前に)少しピッチを濡らしているので、ブレ球でダイレクトに狙うよりも、低いキックでバウンドさせてキーパーがとりづらいボールを、と。リバウンド(からのシュート)も狙えるように『全速力で詰めてくれ』と何人かに言っていたけど、キックは当たり過ぎてコースがズレてしまった。何と言うか、ああいうことが起こったのは僕自身初めてなので、勉強になりました」
 
 とはいえ、低く速いキックは、相手選手の意表を突くもの。ゴール前に詰めていた大宮の選手は反応できずに、天を仰いだ。状況を見て、相手にとって最も嫌な球種とコースを選ぶ力も、中村俊のFKの技量だ。
 
 今季、中村俊のプレースキックからの磐田のゴールはこれで12得点目。通算得点(40)の4分の1以上を占める。
 
 無限ともいえる球種を持つ芸術的なキックは、得点となりチームを勝利に導くだけではなく、相手が自陣でのファウルを恐れることで、チームにさまざまな優位をもたらしている点でも、大きな武器となってきている。
 
 また、「世界レベルのキックを身につける上で、俊輔が自身にどれだけの鍛練を課してきたか。その努力に感服する」と名波監督が常々語っている通り、いまも中村俊は練習の虫だ。
 
「俊輔さんを間近で見てきて、キックが上達していると思う」と言うのは上田。こまめにストレッチをしながら、練習グラウンドで延々と壁蹴りする姿、ゴールにFKを打ち込む姿に刺激を受け、技術を盗み、キックを進化させている選手も多い。
 
「前半は良かっただけに、後半少しトーンダウンしたのが残念。後半の頭に失点したことはいただけない。そこは反省点です」
 
 大宮戦後、中村俊は3試合ぶりに勝利を飾った大宮戦をそう振り返った後、こう続けた。
 
「勝点を積むことも大事ですが、今はそれ以上にジュビロのサッカーはこういうものだということを示す時期だと思う。一人ひとりの連係や、個の力が伸びる良い時期だと思うし、それをずっと繰り返すことで、反省点が浮き出てきて、また次に繋がる。そういう意味で、やりがいがある試合がこれから続くので、モチベーションが上がることしかないですね。ただ、勝点やACL、上に行くことだけを考えていると足元をすくわれるので、そういう雰囲気にはしないようにやっていきたい。そして、自分はジュビロがこの先も強くなるために、いま何をしなければいけないかを考えて、練習でも試合でもプレーをしていきたいと思います」。
 
 先制FKのゴールパフォーマンスは、今季チーム初のゆりかごダンス。宮崎に促され、自身の弟5子誕生だけではなく、「今年子どもが生まれたアダイウトンや(小川)大貴、赤ちゃんや家族に対しての敬意を評してやりました」というダンスは、フィールドプレーヤー全員が並んでのもの。
 
 その中で中村俊の笑顔は、ひと際弾けていた。