ゴールデンウィークに行なわれた第66回黒鷲旗(くろわしき)全日本男女選抜バレーボール大会で、「ポスト・木村沙織」の呼び声が高い東レアローズの黒後愛(くろご あい・18歳)が公式戦デビューを果たした。チームは準決勝で敗退し3位に終わったが、大会中はすべての試合でスタメン起用。攻守にバランスのとれた活躍で、新人らしからぬ存在感を見せつけた。


東レで公式戦デビューを果たした黒後愛 大会初日には6得点を挙げ、レセプション(サーブレシーブ)の要としてもチームの勝利に貢献。4月に入社してすぐのデビューで、しかもフル出場という大役を担ったが、「あまり緊張はしなかったです」と笑顔で振り返る。

 高校時代との違いについては、「下北沢成徳は、あえてゆっくりとした高いトスでスパイカーの能力を活かす方針なのが、東レに入ってからは速いトスも打たなければならなくなり、少し戸惑いがあった」という。

「速いトスも、嫌いでも苦手でもないんですけど、最初は『自分の打ちやすいトスを要求していい』ということが分からずに、セッターを困らせたこともありました。でも、本数を打つうちに、お互いにどんなトスがいいかが分かってきて、今は対応できていると思います」

 サーブのスピードや前後の揺さぶりの質の高さにも驚いたというが、それにも試合中に慣れ、レセプション後に攻撃に入ることもスムーズにできるようになった。東レのチームメイトで、リオ五輪代表にも選ばれたセッターの田代佳奈美は「トスの好き嫌いがあまりなくて、どんなトスでも打ってくれるので、セッターとしては助かりますね。勝負強いので任せられます」と高く評価する。

 グループ予選最終日の日立戦では、第1セットを先取された後、2、3、4セットを連取。第4セットは30-28の大接戦だったが、20点以降の勝負どころで黒後の鋭いスパイクがクロスに炸裂した。2枚ブロックがついても、ものともせずに打ちこなしていく姿には観客席からもどよめきが起きていた。

 父親は宇都宮大学バレー部を一部に昇格させた名将で、母、姉もバレー経験者という「サラブレッド」の黒後が全国に名を広めたのは高校時代だ。3月に引退した木村をはじめ、荒木絵里香や大山加奈らを輩出した名門・下北沢成徳で1年生からレギュラーとして活躍。主将・エースとして出場した今年1月の春高バレーで連覇を達成し、2年連続で大会MVPに輝いた。

 身長180cmながらレセプションもこなすサイドアタッカーで、今年度は全日本にも選出されている。プレースタイルや東レに入社するまでのバレー人生も木村沙織と似ていることから、早くからその後継者として期待されていた。

 東レの菅野幸一郎監督は、「育成を目的として我慢して出しているわけではなく、ご覧になっていただければ分かるように、即戦力として見ています。『ポスト・木村』と言われていることは知っていますが、木村とは時代もやっているバレーも違うので、一概には比べられませんね。ただ、木村と同じように全日本を背負って立つ選手になることは間違いない。この大会でも予想以上に頑張ってくれましたし、今後はウチでも全日本でも主力となってくれるでしょう」と期待を込めて語る。

 黒後自身も木村を目標としていたが、「私が最初に練習参加した、ちょうど前日に沙織さんの引退会見があったので、1日だけしか一緒には練習ができませんでした」と、残念そうに話した。

「(木村には)入社前に練習を見に来た時と、カテゴリ別の代表に呼ばれてシニア全日本を見学に行ったときに声をかけていただきました。『私のこと、覚えていてくれたんだ』って嬉しかったんですけど、後からリオさん(迫田さおり)に、『沙織さん、愛のこと名前間違えていたんだよ』って笑いながら教えられて、『あれ?』ってなりました(笑)。

 でも、沙織さんはバレーをやっている誰もが憧れる人で、もちろん自分の憧れでもあります。自分の中では、リオ五輪の最終予選で、『自分が決めるんだ』『自分がオリンピックに連れていくんだ』という気持ちが前面に出ていて、胸を打たれました。沙織さんを目指して、あれくらいのレベルの選手になりたいです」

 全日本でのプレーが最初に見られるのは、7月14日から16日に仙台市体育館で行なわれるワールドグランプリになる。鮮烈デビューを飾った黒後の活躍に注目したい。

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