●「今やっておかなければ…」と考えた可能性
4月2日、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系、毎週日曜23:25〜)で、ダウンタウン2人によるフリートークが、8年ぶりに復活した。「傑作トーク集」のDVDが発売されるほどの人気コーナーだっただけに歓喜の声があがったが、一方で8年前との変化に不満をもらす声も少なくない。
なぜフリートークが復活したのか? どこが変わったのか? 不満の声がもれた理由は何なのか? さまざまな背景を交えつつ検証していく。
○衰えを気にしていた松本人志
まずフリートーク復活の背景から。浜田雅功は雑誌『クイック・ジャパン』(vol.104)などで、「フリートークを復活させたい」という意志表示をしていただけに、やはり鍵を握るのは松本人志。しかし松本は、「しないわけではない」と前置きしながらも、「今やっても前ほど面白ないよ。衰えてるもん」「ずっと面白いなんて頭おかしいやろ」と乗り気ではなかった(フジテレビ系『ワイドナショー』2014年9月15日放送より)。
さらに松本は、「家族ができたから、そっちをネタにするのをいったんやめる」という理由も吐露している(『ワイドナショー』14年12月14日)。フリートークは必然的にプライベートの話題が多くなるものだが、松本にとって家族ネタは、「やりたい笑いとは違うし、笑われるのも嫌」だったのだ。
しかし、昨年9月30日放送の『ダウンタウンなう』(フジ系)で漫才の再開について聞かれたときは、「しますよ。ちょっとずつ作っていけたらいいなとは思ってます」と宣言。もともとダウンタウンは劇場に出演しながらネタを作っていくというスタイルだっただけに、「フリートークから復活させて漫才につなげていこう」という考えがあるのかもしれない。
もう一歩深読みをするならば、2人の年齢にも言及しておきたい。4月6日の特番『私が嫉妬したスゴい人』(フジ系)で、先輩格のビートたけしが漫才を辞めた理由を明かして話題を集めた。「(衰えで)一番ぴったりした言葉が出なくなった」というのが理由だが、これはたけしだけでなく、多くの漫才師が口にする言葉。53歳になったダウンタウンの2人が、「今やっておかなければ…」と考えた可能性はないだろうか。
○テロップ表示が追加された理由
次に、どこが変わり、なぜ視聴者から不満がもれたのか。2日の放送を見て、ほとんどの人が驚いたはずだ。番組ロゴとタイトル映像が変わり、セットも洋館をイメージしたゴージャスなものになっていたのだ。「番組スタートから28年目で初めてセットをリニューアルした」というから、まさに気分一新のリスタートと言えるだろう。フリートークの復活は、そんな気持ちの表れかもしれない。
トークがはじまっても、面白フレーズ、CMに入る前の予告、トークテーマがテロップ表示されるなど、8年前とは異なる演出が見られた。以前は、事前の打ち合わせなし、公開収録で客席の笑い声は一切足さないなどの硬派なスタンスで知られていただけに、その変化に驚かされる。
制作サイドにしてみれば、「"笑いどころ"を分かりやすくし、CM明けへの期待感を高め、ながら見の人にも対応しよう」という視聴者サービスなのだが、これが長年のファンには邪魔でしかなかった。
これらの演出は、2人のトークに集中して聞いていれば不要なもの。というより、かえって集中力をそがれてしまうものだ。これくらいのテロップ表示はバラエティ番組のスタンダードなのだが、「ダウンタウンのトークは別格」と思っている人たちにとっては、「他の番組は許せても、『ガキ使』だけはダメ」ということなのだろう。
しかし、当然ながらダウンタウンも、『ガキ使』も、引いてはテレビそのものも、コアなファンだけのものではない。制作サイドからしたら、「『演出が説明過多だ』と言うファンの声も分かるけど、『ダウンタウンのトークをできるだけ多くの人に見てもらいたい』から、こうした演出をしている」のではないか。
実際、全盛期に20%を超えていた視聴率も、現在はその3分の1程度。「コアなファンの不満があがるのを承知で、目線を下げてもう一度視聴者層を広げていきたい」という気持ちが透けて見える。
コアなファンではない私自身、以前のフリートークは、劇場でのトークを聞いているようなライブ感があったが、「テロップによって2人が完全にテレビの向こう側に行ってしまい、距離が遠くなった」と感じた。例えば、ネット動画のようにテロップの表示・非表示を選べるようになればいいのだが、テレビ業界にとってそのハードルは高い。
●抵抗があった松本人志の"家族ネタ"も
○待たれる視聴者からの質問コーナー
あらためて2日のトーク内容を振り返ると、8年間のブランクはほとんど感じられなかった。浜田が「日テレのエレベーターが全然来ない」と不満をこぼしたあと、すかさず松本が「それよりTBSの守衛めっちゃ遅ないか?」と、話を変える自然な流れ。松本の十八番とも言える「ピッチャーが最強でゴリラにも勝てる。大谷翔平がタイムスリップしたら徳川家康にも勝てる」という妄想話。浜田が松本の頭をたたいたり、ケツキックしたり、笑いをこらえたり…「『ガキ使』のフリートークが戻ってきた!」と感じた人は多かっただろう。
さらに、家族をネタにすることに抵抗があった松本が、「娘から35-17(の計算式)をぶつけられてヒザがガクガク。『答えはない』と言った」「娘には『人をたたいたらダメ』って教育するじゃないですか。『でも、パパはいつもたたかれてるよね』って(娘に言われる)」とトークに交えていた。その心境は本人にしか分からないが、何かしらの変化があったことは間違いない。
この日はフリートークのみを放送したが、翌週の9日は「ゴルフコースに池いる?」をテーマに3分程度。16日、23日の放送ではフリートークがなかったが、きょう30日は視聴者からの質問コーナーも復活する。これが戻ってきてこそ「『ガキ使』のフリートーク」と言え、今ごろコアなファンたちは質問を考えているだろう。
○このタイミングでの復活は相応しかった
少し見方を変えると、松本は今年1月から思い切ったコメントを放っていた。『ワイドナショー』で芸能界の慣習にメスを入れるようなコメントを繰り返し、『ダウンタウンなう』でも自由な発言を連発。私のところにも、「スタッフたちが爆笑と苦笑いを繰り返しながら対処していた」という現場の声が届いていた。
一方の浜田も、『プレバト』(MBS・TBS系)、『浜ちゃんが!』(読売テレビ・日テレ系)、『芸能人格付けチェック』(ABC・テレビ朝日系)などの単独MC番組で見せるフリートークに衰えは見られない。それだけに、この春がフリートーク復活のタイミングとしては相応しいとも感じる。
かつてフリートークのトップに君臨していたダウンタウンの復活。その先に待っているのは何なのか? 「2人の動きに呼応して、とんねるずやウッチャンナンチャンも、フリートークの場を作ってくれたら…」と思っている人は多いだろう。
■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20〜25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。
(木村隆志)