浴衣姿の住民女性の司会のもと、阿波踊りが披露されマンション住民や子どもたちも楽しそうに踊りに参加する。マンションに店舗を構える飲食テナントによる模擬店では生ビールやソーセージ、イカの姿焼きなどが供され、ボールすくいやわなげ、的当てなど子ども向けの縁日の出し物は住民有志で運営されている。住民たちが大人も子どもも和気あいあいと楽しんでいる---。これは、2016年7月16日(土)、武蔵浦和SKY&GARDEN(スカイアンドガーデン)の中庭「オアシスコート」での街開きイベント「Hello!! 776 空庭祭(そらにわさい)」の様子だ。

【画像1】武蔵浦和SKY&GARDENの街開きイベント「Hello!! 776 空庭祭(そらにわさい)」。マンション住民が自ら所属する草加市の阿波踊りグループを招いた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)


【画像2】住宅棟、オフィス棟、コミュニティ棟など7棟からなる建物の中庭・オアシスコートが「空庭祭」のメイン会場となった。事業主であるデベロッパーの社員も所属する、よさこいの演舞が披露された(写真撮影/村島正彦)

入居前から“まちづくりサポーター”を募集、多世代共生型の街づくりを目指す

武蔵浦和SKY&GARDEN(埼玉県さいたま市南区)は埼京線と武蔵野線が交差するターミナル駅・JR武蔵浦和駅から徒歩3分。再開発によって生まれた776戸の大規模マンションだ。2016年3月に竣工・引き渡しされ、3〜4月から順次入居が進んでいる。

住民への引き渡しから約4カ月。マンションの街開きイベントは、入居から間もない住民らも企画・運営に関わり開催されたのだという。武蔵浦和SKY&GARDENの開発を行った新日鉄興和不動産(株)住宅事業本部都市創造部の宇津木雄一さんは「入居前から当時は契約者である入居予定者に“まちづくりサポーター”を募集します、と呼びかけ、住民らによる自発的なコミュニティ形成を考えました」と話す。

というのも武蔵浦和和SKY&GARDENは、首都圏初の「一般ファミリー向け」と「アクティブシニア向け」分譲マンションを一体的に設置した大規模複合再開発で、さいたま市の街づくり構想の理想を実現する為にコンセプトとして「多世代共生型の街づくり」を掲げる。多世代で暮らすことで、シニアの見守り、子育て世代の支援、災害時の助け合い、世代を超えた学び等が実現されることを期待する。

住宅の内訳は、ファミリー用の住宅が536戸(B・C・D棟)、シニア向け住宅が160戸(グランコスモ武蔵浦和・E棟)、SOHO住戸が80戸(A棟)という構成だ。住宅のほかにも業務棟には地元の高田製薬のほか、認可保育園やレストラン・カフェ、クリニックなど商業生活サービス機能も有する複合開発だ。

「空庭祭」のネーミングは住民主導での打ち合わせで決定

宇津木さんは、大学時代に都市計画を専攻し住民参加によるまちづくりについて学んだことがあり、自らの仕事に活かす機会をうかがっていたという。

「私たちデベロッパーは、お客様にマンションを引き渡すと手を離れてしまい、そこで仕事としては終わってしまいます。住民のみなさんは、そこから見ず知らずの住民同士で、新しい暮らしがはじまります。この物件のコンセプトである“多世代共生型の街づくり”を実現していくうえで、デベロッパーができることとして、住み始める前から住民のみなさんへまちへのかかわりを促し、住み始めてからも住民自らの手でより積極的にまちづくりに参加してもらえるよう考えました」と打ち明ける。

そこで、宇津木さんは分譲マンションのコミュニティ支援を行う会社・フォーシーカンパニーの協力を得ながら、入居より約1年前の2015年4月、契約者向けにサポーター募集の案内を送った。5月の似顔絵講座をはじめに、8月には写真塾、9月には建設地仮囲いを利用した街づくりプレアートイベントを有志サポーターの参加を得て行った。

11月には第1回街開きパーティー企画会議を実施し、入居後も住民主導での打ち合わせを複数回重ねながら今回の「 空庭祭」の開催に至っている。「空庭祭」のネーミングも物件名である「武蔵浦和SKY&GARDEN」を住民の意見で和名にしたものだ。さらに、マンション住民だけでなく、この街の一員である高田製薬、半田屋、エスプレスカフェ、あおば保育園、日鉄コミュニティ、コスモスライフサポート、近隣のロッテにも街づくりのスタートに協力をしてもらった。

【画像3】JR武蔵浦和駅から徒歩3分。再開発によって生まれた武蔵浦和SKY&GARDENは、首都圏初の「一般ファミリー向け」と「アクティブシニア向け」の分譲マンションからなる全776戸。2016年3月に竣工した(写真提供/新日鉄興和不動産)


【画像4】武蔵浦和SKY&GARDENの開発を行った新日鉄興和不動産(株)住宅事業本部都市創造部の宇津木雄一さん。マンションという建物・ハードの開発のみならず、住民によるコミュニティの形成というソフト面にも配慮したという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

入居前から友人・知人をつくりやすい、新生活への不安が払しょく

■マンション内で国際交流のサークルを立ち上げたい
共に60歳代で一般ファミリー向けのタワー棟に入居する石原晴次さん、みわ子さんご夫妻は、隣接する川口市からの転居だ。

「まちづくりサポーター」の案内を知って、すぐに参加してみようと考えたという。晴次さんは「定年退職して、第二の人生は仕事も好きなことをやっていこうと、前職での海外経験を活かして外国人に日本語を教える仕事をはじめました。駅から歩いて20分ほどの一戸建て住宅では何かと不便だったので駅から近いことが第一条件。それから住民の多い大規模マンションが第二条件。買い物に便利で共用施設も充実している、友人も得やすいと考えました。ここは、その要望にピッタリでした」と話す。

また「まちづくりサポーターの呼びかけに参加する人たちは、友人・知人を得たい同じ思いの人たちだろうと入居前でも積極的にかかわろうと思いました」と言う。妻のみわ子さんは「これからマンション内に国際交流のサークルを立ち上げ、活動をはじめます」と笑う。

【画像5】「一般ファミリー向け」の高層棟を購入し入居した石原晴次さん、みわ子さんご夫妻。退職後の新しい住まいとして、「駅から近いこと」「友人・仲間が得やすいのは大規模マンション」という希望は譲れなかったという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

■同じ小学校のお母さん方と入居前から知り合いに
草加市から移り住んだ40歳代のHさんは、「息子が小学校2年生になるタイミングでもあり、こちらの小学校にお子さんを通わせるお母さん方と入居前から知り合えたことは心強かった。また、ここの街の性格上、子育てを終えた上の世代の住民の方とお付き合いができることも良かった」と、入居前からの住民交流を好意的に受け止めている。

■小学生のお子さんの企画が夏祭りで実施できた!
地元、近隣から転居してきた30歳代のMさんは、以前の住まいでも自治会活動に参加していたという。「まちづくりサポーターは、住まいが近かったこともあり、魅力も感じて参加しました」という。「街開きのイベントには、小学校4年生になる娘も企画段階から参加しました。子どもたちから“的当て”をやりたい、という要望が出たところ、その道具を準備してもらい、私も運営にかかわりました。娘も思いが実現して喜んでいます」と話す。

【画像6】広場の一角では「こども縁日」が行われた。縁日の出しものは「まちづくりミーティング」に参加した子どもたちの希望が取り入れられた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

■シニア棟に入居しつつ、若い世代とも交流できる点が魅力
この日の「空庭祭」の司会を務めたのは、長谷川悦子さん(63歳)だ。夫と二人、シニア向けのグランコスモ武蔵浦和に移り住んできたという。
「私も、ほかの方々と同じく、まちづくりサポーター募集の呼びかけに応じて参加しました。ここを選んだのも、シニアだけでなく若い世代とも交流できることを評価したからです。入居前の昨年11月、はじめて参加した集まりは30人ほどで、シニアからの参加は2〜3人だけでした」と話す。

ただ、入居後5月のミーティングには、シニアや子どもたちも含め50名ほど、多様な住民の参加があったという。長谷川さんは「街開きのイベントが、こんなに住民主体で行われるとは正直思っていませんでした。司会はどうしよう……ということになって、仕事でイベント司会をやった経験もあり、成り行きで私が引き受けることになってしまいました」と笑う。「みんなの今日のユニフォームも、ブルゾンにするかハッピにするか、私たちがみんなで選んだんですよ」と話す。

【画像7】「空庭祭」の司会を務めた長谷川悦子さん。音楽教室で働いていることもあり、イベントの司会はおてのもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)


【画像8】まちづくりサポーターを中心としたこの日の運営スタッフは、みんなでアイデアを出してつくったユニホームの「はっぴ」をまとった(写真撮影/村島正彦)

「空庭祭」は、広場でのイベントのほかにも、コミュニティハウス棟のジムやマルチスタジオ、ダンススタジオ、クラフトルーム、ライブラリーなど多数あるマンション共用施設を巡るスタンプラリーを行った。入居間もない住民に共用施設に親しんでもらいたいと、「まちづくりミーティング」に参加した住民サポーターたちが提案した。

【画像9】「まちづくりミーティング」では、参加した住民たちが付せんに意見を書き出すワークショップ形式で行った(写真提供/新日鉄興和不動産)


【画像10】住民のまちづくりサポーターで企画を練り上げた「空庭祭」を知らせるニューズレター。「まちづくりミーティング」の運営やニューズレターの編集発行は、コミュニティ支援を行う会社・フォーシーカンパニーが行っているが、ゆくゆくは住民自身で運営できれば理想的だ(資料提供/新日鉄興和不動産)

新築マンションを購入するということは、誰もが見ず知らずの人たちと、いきなり一つ屋根の下に暮らしはじめるということだ。マンションの開発者が、住民の交流やコミュニティづくりに活用してもらおうと、広場などを整備しても、住民のまちづくりに対する気運が低いと、例えば「子どもの声がうるさいから広場での遊びを禁止しよう」という一部の住民の声にマンション管理会社が流されてしまうケースもあると聞く。こうした、入居前から住民同士が顔見知りになって、コミュニティを築いていくしくみがあれば、新しい地での暮らしへの不安が解消され、豊かな暮らしが紡いでいけそうだ。

●取材協力
武蔵浦和SKY&GARDEN