[画像] 大阪ガス投手陣の育成メソッド「大会でベストピッチングができるための調整法とトレーニング」(3)

 第2回では、ここまで時期によっての調整法、ランニング、ウエイトトレーニングの考え方を紹介しましたが、最終回では、持久力を身に付けるための練習法としての縄跳びの効果や、調整するうえで考えてほしいことなどを教えていただきました。

大阪ガス投手陣の調整に欠かせない「縄跳び」

大阪ガス・緒方 悠投手

 うちの投手陣が年間を通し、ほぼ毎日行っているメニューが「縄跳び」です。具体的なやり方としては、

・ノーマルなスピードで5分間跳び続ける・ノーマルなスピードで10分間跳び続ける・30秒間フルスピードで跳んだ後、1〜2分のインターバルを挟みながら数セットをこなす

 の3パターンがあり、このどれか一つを1日の中で行うことになっています。縄跳びの効果としては、

・小円筋という肩にあるインナーマッスルに刺激を与えることができ、故障防止につながる・ふくらはぎ、ハムストリングスを小さなジャンプの連続で刺激することで、バネのある質のいい筋肉にしていける。・全身運動のため、バランス感覚が向上する。・ピッチャーとして必要なスタミナの養成につながる。

 といった点が主に挙げられます。縄跳びは安価で手に入れられる上、場所をほとんど選びません。全国の高校球児にもぜひお薦めしたいメニューです。

選手の数だけ調整法の正解は存在する

 時折、「先発登板に向け、調整をする上で、どこにノースローデーをもってくればいいのかがわからない」という質問を受けることがありますが、仮に日曜日に試合があるとしたら、三日前の木曜日にノースローデーを思い切って持ってくるのが失敗しにくいやり方だと思います。水、木曜日に練習の強度を下げ、しっかり休養をとった上で、金、土曜日にギアを上げていくと、日曜日の試合でトップの状態にもっていける確率が高くなります。

 ただし、厳密にいえば、正しい調整法というのは選手の数だけ存在すると思っています。本当の正解はひとりひとり異なると言っていい。うちの主軸の一人である、酒居 知史は試合前の三日間をノースローで過ごしても試合本番で結果を出せる投手です。その三日間はせいぜいキャッチボールしか行わない。そのかわり、短距離ダッシュ、縄跳び、インナーマッスルのトレーニングなどはしっかりと行っており、肩は休めても体はしっかりと活性化させている。

 試行錯誤の末に行き着いた彼にとってのベストの調整法です。大事なことはすぐに正解を求めないこと。試行錯誤を繰り返すことを厭わず、根気よく、いろんなやり方にトライしながら、自分にとってのベストの調整法を探し当ててください。見つけることができたならば、ピッチャーとしてこれほど心強いことはありません。

[page_break:主力投手陣からのメッセージ]主力投手陣からのメッセージ

左から小畑 彰宏投手、緒方 悠投手、酒居 知史投手(大阪ガス)

 萩原 健吾投手コーチのインタビュー終了後、練習を終えた直後の主力投手3人に「高校球児に向けてのメッセージ」をうかがうことができたので、最後に紹介したい。

◆緒方 悠(徳島・鳴門第一高出身)高校時代はピッチャーとしてどういう練習をしていいのかがわからないまま、ただやみくもに長い距離を走ったり、ダッシュを延々と繰り返したりしていました。今、思えば、同じダッシュをするのでも、距離にメリハリをつけたり、インターバルの時間をきちんと設定するだけでも成果は変わったと思う。社会人に入り、正しい知識の下で練習することの大切さを学んだ気がします。

 大事な夏の大会に向け、お薦めしたいのが自分の調整計画表をきちんと立てることです。チームの全体練習があるため、なかなかその通りにはいかないかもしれませんが、「自分にはこのやり方が合うはず!」という軸を作っておくと周りに流されにくくなりますし、結果に対しての悔いも残りにくくなります。「このやり方でダメなら仕方がない」と思えるやり方を自分で考え、計画し、夏に臨んでみてください。

◆酒居 知史(大阪体育大出身)ぼくは同じ球数を投げるのなら、ブルペンよりも打者の反応が見れるシートバッティングやフリーバッティングの方が好きで、調整法としてもその方が自分に合っていると思っています。正解はひとつじゃないかわりに、自分に合った調整法は必ずある。試行錯誤を繰り返しながら、根気よく見つけていってほしいと思います。

 そして、今年の夏が高校最後の大会となる3年生は試合への出陣前に、一番の味方である両親に言葉をかけてあげてください。高校球児の調整は、生活面でサポートしてくれる親の力なくしてはなかなか成り立ちません。ぼくも試合前に「2年半、ありがとう。どんな結果になるかわからないけど、精一杯やってくる」と伝えました。親はそんな言葉を特に求めているわけではありませんが、感謝の気持ちがあるのなら、ぜひ言葉にして伝えてみてください。

◆小畑 彰宏(青山学院大出身)高校時代はやみくもに長い距離を走ったりすることが多かったですね。今思うと、長い距離をそこまで走る必要はなかった気はします。そして常にオーバーワーク気味でした。一日のスケジュールに余裕がないため、食事も慌ただしく、睡眠時間も満足にはとれなかった。常に疲れている状態だと、体も大きくなりにくいですし、故障もしやすくなる。食事と休養も練習のうち、という意識を持てた上で、もっと計画的に調整スケジュールを立てていれば、練習の成果も変わっていたような気がします。

 高校時代の野球部の仲間は一生付き合える仲間です。しかし、共に高校で野球をする時間は限られています。ベストの調整法を高校生の間に見つけることは非常に難しいことですが、「自分の信じたやり方をきちんとやり切った!」と思える過程を経た上で、かけがえのない仲間と悔いのない夏を迎えてほしいと思います。

(取材・文/服部 健太郎)

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