[画像] 「育成でもプロに行くべきか」「大学に進んでプロを目指すべきか」 ドラフト候補がリーガ・サマーキャンプで出した答えは?

 プロ志望届を提出して秋のドラフト会議を待ち、たとえ育成枠でもいいからできるだけ早くプロの世界に飛び込むべきか。もしくは育成選手ではチャンスが限られるので、大学や社会人で力を蓄えてからプロ野球で勝負をかけたほうがいいのか──。

 高校3年夏の大会を終えて進路に迷う野球部員にとって、北海道で8月7日から18日に開催された『リーガ・サマーキャンプ』は貴重な機会となった。

 高卒でプロ入団を見据える者、大学経由で上の世界を目指す者、卒業後に野球を続けるのかどうか迷っている者など、全国から多様な選手が集まり、刺激を与え合いながら意見を交換する場にもなったからだ。


最速147キロを誇る帯広農業の左腕・澁谷純希 photo by Nakajima Daisuke

【もし育成指名だったら...】

「高校野球に新しい価値をつくりたい」

 一般社団法人『ジャパン・ベースボール・イノベーション』の阪長友仁代表がそう考え、甲子園に出られなかった高校3年生たちに新たな価値創造の場として用意したのがリーガ・サマーキャンプだ。

「今はプロ志望届を出す方向です」

 開催地の栗山町民球場でそう語ったのが、最速147キロ左腕の澁谷純希(帯広農業)だった(8月30日にプロ志望届を提出)。高2の春に左ヒジの尺骨神経を痛めて手術し、高3で復帰してから4試合しか投げられずに高校野球を終えた。

「夏は支部予選で負けてしまったので、もっと投げて、自分らしさを出してアピールしたくてこのキャンプに参加しました。不完全燃焼をなくすために頑張りたいと思って......楽しく試合をできています」

 澁谷は中学時代、新型コロナウイルスによる部活動の自粛期間中に毎日米を5、6合食べていたら肉体的に大きく成長し、現在は身長181センチ、89キロ。ストレートだけでなく、ナックルカーブ、スライダー、チェンジアップ、ツーシームを操る大型左腕投手だ。

「もし育成指名だったら、どうするのがいいと思いますか?」

 プロのスカウトから視線を浴びるなか、澁谷はこの質問をするのに絶好の相手とリーガ・サマーキャンプで出会った。指導者として招かれた元ロッテの右腕投手・荻野忠寛氏と、オリックス、日本ハム、ヤクルトで内野手としてプレーした大引啓次氏だ。

「荻野さんや大引さんに聞いたら、『育成でも選ばれたら行ったほうがいい』と言われました。『プロに行くだけでもつながりが持てて、絶対いい経験になる』と。そういう話をしてもらったので、育成でも行くという感じがしています」

 澁谷から相談を受けた荻野氏は、「その答えはなかなか難しい」と率直に語りつつ、プロを勧める理由を明かした。

「育成でもプロに入れば、トップ選手を間近で見ることができます。たとえば自主トレの期間、勇気を振り絞れば、憧れの選手や参考にしたい選手と一緒に練習できる。育成でもプロの世界にいるから可能なわけで、アマチュアではそんなこと絶対にできません。トップ選手の生活や野球に向き合う姿勢は、アマチュアには絶対にないレベルです。そういうのを見るのは必ずプラスになる。高校生たちにもそう伝えました」


プロ志望届を提出するかどうか悩んでいると語る八幡商業の田上航 photo by Nakajima Daisuke

【プロ志望届を出すか迷い中】

 ある私立大学から内定が出ているなか、プロ志望届を出すか否か、悩んでいるのが右腕投手の田上航(八幡商業)だ。

 中学時代は軟式野球部でプレーし、全国大会にも出場した。当時の球速は130キロ程度だったが、八幡商業で食事やウエイトトレーニング、投球メカニクスなど「すべての面」で教えてもらい、最速144キロでプロ注目投手に成り上がった。

 内定の出ている大学には「プロ待ちでOK」と言われているが、田上は迷っている。ゴールを見据えた時、どちらの道がいいのか明確な答えはないからだ。

「育成の契約期間は(長くて)3年じゃないですか。育成で行って3年間頑張るか、大学で4年間頑張って支配下でプロに行くのか。プロで活躍するためには、どっちがいいんだろうと思っています。育成から支配下に上がるのは、本当にひと握りというのが現実だと思うので......。そう考えたら、大学で実力を磨いて、支配下でドラフトにかかるように頑張るのもひとつなのかと思っていて。本当に迷っています」

 田上が迷うのは、ここまでのキャリアとも関係がある。中学から高校に進む際、関西の強豪校から声をかけられた。だがその学校に進んで、はたして出場機会を十分に得られるのか。自信がなかったことに加え、八幡商業に進めば宮地穂高氏などメカニクスの指導に優れるコーチがいることも魅力だった。そうして自ら決断し、現在に至っている。

 卒業後の進路に迷うなかでリーガ・サマーキャンプにやって来て、貴重な情報も得られた。第一候補に考えている大学の評判を、その地域の選手たちに聞くことができたのだ。

「『ピッチャーの育成がいい』という話でした。野手は年によってばらつきがあるみたいです。自分はピッチャーとして行きたいと思っています。自分の実力に見合わないチームに行き、もし投げられずに埋もれてしまったら、目指すものも目指せなくなる。プロに行くなら、大学で投げてナンボだと思っています」


大学に進み、4年後のドラフトを目指すと語る甲南の横田心大 photo by Nakajima Daisuke

【ドラフト候補から受けた刺激】

 兵庫県の甲南高校で左腕投手&強打の外野手として活躍し、系列の甲南大学に進学予定なのが横田心大だ。

「高校に入学して2週目くらいにヒジの手術を受けて、今年の3月までずっとケガしていました。試合に出たのは代打の1打席くらいで、柔道部に行こうかと迷った時期もあります。ピッチャーの場数を踏めていない状態で、そのまま大学に行くのもどうなのかなと思って、リーガ・サマーキャンプに来ました。実戦で投げられるので、次へのステップアップという意味でもいいなと。みんなのレベルも高くてよかったです」

 高校の公式戦に登板したのは最後の夏だけだったが、リーガ・サマーキャンプでは1番ピッチャーで先発するなど二刀流として躍動した。イキイキとプレーする横田を見ながら、リーガ・サマーキャンプの運営担当で大阪府立門真なみはや高校の藤本祐貴監督は"上"への意識を高めたのではと見ている。

「横田には漠然とプロに行きたいという思いもあったかもしれないけど、リーガ・サマーキャンプに来てさらに強くなっていると思います。ピッチャーでプロをはっきりと意識して来たのは3人くらいだったと思いますが、ほかの選手たちもコミュニケーションを取るなかで『オレも行きたい』となったはず。『育成だったらどうする?』という会話もありましたし。プロのスカウトが視察に来るなど同級生があれだけ注目されている姿を見て、周りにも刺激になっているはずです」

 実際、横田はどう感じたのだろうか。

「田上くんも澁谷くんもすごくいいピッチャーなので、刺激を受けました。考えていることのレベルが高いので、負けてられないと感じました。マウンドさばきを見ていると、やっぱりエースやなと。ものすごく感じましたね」

 リーガ・サマーキャンプを"次のステージへの架け橋"と捉えて参加した横田は、その先がより明確になった。

「もちろん4年後、プロに行きます。それを一番の目標にしてやっています」

 高校卒業後、たとえ育成でもプロに行くべきか。大学に進んで力を蓄えてから上の世界を目指したほうがいいのか。人生の大きな決断は簡単に下せないだろう。だからこそ、多くの立場の人に話を聞いたほうがいい。

 そうした意味でも、高校3年生たちにとって多種多様な人たちの集まるリーガ・サマーキャンプは貴重な機会になった。