室屋義秀の今季第2戦は、わずか20秒足らずであっという間の終わりを迎えた。

 もう4月も終わろうというのに気温が5度以下にまで下がり、雪が降り出したシュピールベルグ(オーストリア)。冷たい風がレーストラックに強く吹きつけ、コース上のパイロンを揺らすなか、スピードに乗ってスタートした室屋が快調に飛ばす。

 そして第4ゲートを通過し、寒風を切り裂くように大きくターン。だが、次の瞬間、室屋に非情の判定が無線を通じて伝えられた。ターンする際のオーバーGによるDNF(Did Not Finish)。つまりは、記録なしの失格である。

 レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップの2016年シーズン。室屋はかつてないほどの自信を胸に、「年間総合順位で3位以上」を目標に掲げて新たな戦いに臨んだはずが、これで開幕戦から2戦連続でオーバーGによる失格となった。

 直後、会場内の大型画面がコックピット内の室屋を映し出す。憮然とした表情には失意がありありと浮かび、同時に、明らかな怒気がにじんでいた。

 無理もない。室屋はアブダビ(UAE)での今季開幕戦でも、ラウンド・オブ・8でオーバーGによるDNFの判定を受けた。室屋の経験と体感からいえば、ギリギリセーフどころか、まったく問題がないはずのターンで、である。

 「G計測の間違いとしか考えられない」

 室屋は同じように感じていた他のパイロットたちとともに、レッドブル・エアレースのテクニカルディレクターに何度も確認を求めた。

 当初は「計測は正確だ」の一点張りだったテクニカルディレクターも、結局、パイロットたちの意見に耳を貸さざるをえなくなった。

 その結果、第2戦を前に計測に使われるコンピュータープログラムの入れ替えが行なわれることとなった。事実上、エアレース主催者側が開幕戦でのミスを認めたと言ってもいい(公式に認めたわけではないが)。

 これで問題は解決されるかに思われた。実際、他のパイロットたちは、明らかにおかしなGの数値が出なくなったことで、不満の矛を収めた。

 ところが、室屋だけは違った。いつまでも決定的な改善が見られない。そのシステムが何を基準にどのような数値を計測しているのかを分析し、開幕戦から約1か月を費やして機体のセッティングを変え、自身もそれに合わせるべくトレーニングを重ねてきた。

 だが、そんな努力にも限界があった。現状の計測システムに合わせて飛んでいたのでは、どうやっても勝負にならない。プログラムに問題がなくなったのであれば、機械自体が壊れているのではないか。そう考えた室屋は計測機器本体の交換を願い出た。

 なかなか首を縦に振らないテクニカルディレクターがようやく求めに応じたのは、室屋がシュピールベルグに入ってからのことだった。

 機械を入れ替えて飛んでみると、Gの数値には明らかな変化が起きた。昨季までと完全に一致はしなかったが、それに近い数値が計測されるようになった。室屋の予想通りだった。しかし、第2戦に間に合わせるには、あまりにも交換のタイミングが遅すぎた。

 「開幕戦が終わってから何度も(テクニカルディレクターに)問い合わせたが、向こうは『合っている』と言う。それに合わせようと1か月間やってきたが、どうにもおかしいのでユニット自体を替えたら、案の定、Gの数値はほぼ元に戻った。一応、昨年最終戦のセッティングに戻して飛んだけど、その結果がオーバーGで......」

 そう語る室屋は、険しい表情を崩さずに続ける。

 「トレーニングセッションは何とか飛べていたが、今日のレースは風の関係で予選よりもスピードが出るのも分かっていて、ちょっと危ない(オーバーGになる可能性がある)とは予想していた。だから、そこで適応し切れなかった僕のミスと言えばそうかもしれないが、『ちょっと、それはないんじゃないの』と言いたくもなる」

 室屋が新しい計測機器を搭載して飛んだのは、実質3回のトレーニングセッションだけ。これでは必要なデータを取り切ることができず、オーバーGになるかならないかのリミットを完全に把握できたはずがない。

 加えて運が悪いことに、余計なトラブルが重なったのも痛かった。予選の数時間前に行なわれた最後のトレーニングセッションの途中、室屋の飛行機から突然スモーク(煙)が出なくなったのだ。

 飛行機から噴き出るスモークは、ワックスのようなオイルを排気に噴射し、その熱によって白く目に見えるようになるのだが、その噴射ポンプが電気系統の故障により動かなくなってしまったのである。

 スモークを出して飛べなければ1秒のペナルティタイムが加算される。室屋はこれが響いて、予選を10位で終えることになった。その結果、ラウンド・オブ・14で対戦することになったのが、マティアス・ドルダラー。結果的に第2戦で優勝する難敵である。

 「ラウンド・オブ・8に進むには、マティアスに勝つか、ファーステストルーザー(敗者のなかの最速タイム)になるかしかない。今季、マティアスの機体が速いのは分かっていたので、とにかく攻めるしかなかった。ソフトに飛べばオーバーGは避けられても、それでは勝てないから」
 
 果たして勝負に出た室屋は、必然とも言えるオーバーGによって、自らの戦いに幕を引いた。

 何ともやりきれない、2戦連続の不完全燃焼である。室屋が「全体に歯車がかみ合っていない感じ」と話すのもうなずける。

 次回、6月4、5日に行なわれる第3戦は、千葉県千葉市の幕張海浜公園でのレース。否応なく室屋に大きな注目が集まる一戦を前にして、ここまでの結果が高まる熱気に水を差しかねない。

 だが、室屋は「たまたまトラブルがそのタイミングに当たっただけ。それを気にしても仕方がない」と、第3戦が地元でのレースになることを意識する様子もなく、こう語る。

 「飛行機のポテンシャルが高いことは分かっているし、今日もセッティングがうまくいっていたので、機体はかなりパワーが出ていて、すごく調子がよかった。フライトも昨年後半と遜色なく安定している。だから、とりあえずはG対策。まずはそこを固めたい。半分壊れていたような計測機器を交換してもらったことで数値は正常になっているので、G対策さえできれば、次は勝負にならないはずがないから」

 思わぬ外的要因に阻まれ、スタートダッシュに失敗した今季の室屋。だが、本人も語っているように機体自体の調子は非常によく、余計なトラブルにさえ悩まされなければ上位を争えることは間違いない。残り6戦で、室屋が巻き返す可能性は十分にある。というより、ようやく外的な阻害要因が取り除かれ、その条件が整ったと言ってもいいだろう。

 地元・日本での第3戦から、いよいよ室屋の逆襲が始まる。


レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第2戦(シュピールベルグ)最終順位
1位マティアス・ドルダラー(ドイツ)
2位ハンネス・アルヒ(オーストリア)
3位ナイジェル・ラム(イギリス)
4位ピート・マクロード(カナダ)
5位マット・ホール(オーストラリア)
6位カービー・チャンブリス(アメリカ)
7位ニコラス・イワノフ(フランス)
8位ピーター・ポドランセック(スロベニア)
9位マルティン・ソンカ(チェコ)
10位マイケル・グーリアン(アメリカ)
11位ペトル・コプシュタイン(チェコ)
12位フランソワ・ルボット(フランス)
13位フアン・ベラルデ(スペイン)
14位室屋義秀(日本)

浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki