オイ、アレ、取り直せ!

角界が総力を挙げることを決意した。全員が一体となって「全力で勝ちにきた」。大相撲九月場所四日目の取組を見て僕は確信しました。融通の利かない大横綱・白鵬が休場という千載一遇のチャンスに、角界の動きは俊敏でした。狙いはズバリ、9年ぶりとなる日本出身力士の優勝です。

その手際、まさに「あ・うんの呼吸」。

四日目のアレVS碧山の取組は、あ・うん・あ・うん・あ・うん…とまるでAVの喘ぎ声みたいなのが聞こえてくるかのような一番。土俵際、際どい体勢で土俵を割る両力士を見ながら、行司は迷いなく軍配をアレに上げ、審判部長はそっと目を閉じ、ビデオを確認する別室の担当者からは「勝ってます」という確信に満ちた報告が上がり、NHKの実況は「勝ったのは稀勢の里」と追認する。

もしコレが逆の展開なら100%取り直したであろうレベルの微妙な判定は、みんなが少しずつその微妙さへの責任を負うことで、上手いことモニョモニョになりました。この空気感はおそらく各力士にも伝わっていることでしょう。そして「やっちゃっていいんすね!」「全力でストーリー作っちゃっていいんすね!」「照ノ富士VS全員って構図でいいんすね!」という声が上がっていることでしょう。

各力士に与えられた使命は「とにかく全員がかりで照ノ富士に2つ黒星をつける」こと(※アレは直接対決で負ける前提)。そして、「自力でトットと勝ち越すかサッサと負け越す」こと。余計な憂いなく終盤戦を迎え、アレとの取組では後方に3メートルくらい飛んで負け、そのぶん照ノ富士との一番で二日分のチカラを出す。白鵬・日馬のいない間に全自動洗濯器でアレをジャブジャブ洗って、ピッカピカの優勝額にしようという寸法です。

悪いことは言わない、止めておけ。その空気感は絶対にアレ本人にも伝わってしまう。そして伝わった瞬間、アレは自分で自分の可能性を必ず消しにいく。どんなに名医でも自殺を止めることはできないのです。その空気感は自力である程度の段取りが整った上で、最後の最後に琴奨菊あたりにだけソッと伝わればよいのです。何もこんな段階から全員に広める必要などない。このまま残り十一日間もあ・うんできるわけがないのです。

もし、もしも照ノ富士がふたつ負けるようなことがあったら、そのとき初めて考えようじゃないですか。そこで全勝あるいは1敗の力士がいたら、以降の対戦力士はそれぞれ自分なりの角界への想いによって考えたらいいでしょう。「そう言えば左ヒザが痛かったなぁ」「とても相撲をできる状態ではないなぁ」「今日は休みますぅ」などと。しかし、まだ早い。まだそのときではない。

行き過ぎた友情は本人のためにもなりません。真の友情パワーとは、全力を尽くしたあとに発揮されるべきもの。もしアレが1敗程度で走り切ることができたなら、千秋楽はやってもよい。あたしゃもともと八百長だの互助会だのを非難するスタンスではありませんので、大いにやってもよいです。しかし、どんな注射も打ち過ぎればカラダに毒。注射を打つのは最後の最後生き残った誰かに1本だけ。それが土俵のお約束だと、僕は思います。

ということで、碧山に「これを日本ではえこ贔屓って言うんだよ」というご説明を申し上げつつ、16日のNHK中継による「大相撲九月場所四日目」をチェックしていきましょう。


◆三者の意見がピタリと揃えば、その判断の正しさは確かっぽくなる!


先日、プロ野球でホームランっぽい打球を三塁打と判定する事件がありました。ビデオを見てもなお間違うという体たらくに、コミッショナーも謝罪する事態に発展しました。その際、ヒュッと持ち上げられたのが大相撲のビデオ判定の仕組み。

大相撲ではまず行司が軍配を上げて勝ち負けを判定し(1次審査)、土俵下で見守る勝負審判と控え力士が異議があれば物言いをつけ(2次審査)、別室でビデオを確認する担当者からの報告を受け(3次審査)、都合3層のフィルターによって正しい判定を下す仕組みとしています。

確かにこれならば「さっき三塁打と言ったヤツにビデオを見せたらもう1回三塁打と言われた」などというバカなことは起きないでしょう。それぞれが別個に判断するのですから。ただ、忘れていたことがひとつあります。それは、3層は基本的に全員グルであるということです…!

↓全員が「勝ってるよな」というグル目線で見つめ、「勝ってるな」と確認したアレの取組!


1層目:「勝ったと思います!」
2層目:「勝ってることを確認した」
3層目:「勝ってまーす」

もう全員の「取り直しても今以上にいい状態には絶対にならない」という確信が透けて見えるwww

これで押し切っちゃえという強い気持ちwww

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まず大前提として、アレはこの碧山が大の苦手であるという共通認識をお持ちください。通算成績はアレの8勝5敗とわずかに勝ち越してこそいますが、この一年は5度対戦して2勝3敗と負け越し。アレは苦手意識のあまり、立ち会いで何度も待ったし、固まって動けなくなるということさえあったほど。NHKの実況が「前半戦の大きなヤマですね」「苦手意識を払拭してぶつかっていけるか」と緊迫感を高めるような取組なのです。アレが上位なのに、かなりの確率でアレのほうがコケるだろうという危険地帯だったのです。

今場所は白鵬という難敵がいないチャンスの場所です。白鵬以外が優勝することが決まっている場所です。「白鵬いない⇒アレいける」と短絡的に結び付ける思考は「バカばっか!」とドヤしつけたくなるくらい浅はかな考えですが、年は重ねてもやはり相撲取り。その思考が、このヤマさえ乗り切れば何とかなるんじゃないかという夢を見させ、「えーい、やっちゃおう」と思わせてしまったのでしょう。ダンジョンの途中でエリクサー使う感じの(※トータルで12個使う)思い切りのよさで。

一旦は勝ち名乗りを受け、手刀を切って懸賞金まで握ったあとで、ようやく東の式秀親方から物言いの声が上がります。「あ、コレ、俺が言わないと誰も言わない系のヤツだ」と途中で気がついたのかもしれません。テレビには映っていませんが、そのときの伊勢ヶ濱審判部長はどんな顔をしていたのでしょうか。「遅っ!!」なのか「余計なことを」なのか、どちらにせよ渋い顔だったことでしょう。

当初は「この物言いは場内のお客さんにもわかりやすいですね」と言っていたNHKの実況。現役時代はガチ力士として知られ、そのせいで横綱なのに負け越すという不名誉な記録を作ってしまった元・大乃国の芝田山親方も「碧山の足が先に出たように見えますね」と落ち着き払った反応を示していました。しかし、角度を変えたビデオを見るうちに雲行きは徐々にアヤしくなっていきます。

↓勝負が決まったと思しき瞬間、コレは本当に3層一致でOKなほど揺るぎなき勝利か!?


<雲行きアヤしくなり、一転してホッとするNHKの中継>

アナ:「館内遠くで見ていたお客さんには、碧山が勝ったんじゃないかな?と見えるお客さんもいたと思います」

芝田山:「この状況ですとね…」

(上の場面に差し掛かる)

アナ:「ん?」

芝田山:「んん」

アナ:「稀勢の里の右足も早いですね…」

芝田山:「微妙ですね…」

アナ:「2番つづけての協議、これまた長い協議になっています」

審判部長:「ただいまの協議は碧山の足が先に出たかどうかの確認であり、先に出ておりましたので軍配通り稀勢の里の勝ちといたします」

アナ:「軍配通り稀勢の里の勝ちです!」

アナ:「稀勢の里4連勝です!」

関係者一同:「ホッ…」

芝田山:「……」

ここで注目したいのは芝田山親方の動向。このガチ親方は、「微妙ですね…」の発言を最後に判定自体については、何も言わなくなりました。審判部の判断を尊重するのは当然なので、あえて異を唱える必要はないわけですが、「ま、碧山が先に出てますよね」という追認をするわけでもない。相撲の内容については解説を加えるものの、判定についてはスーッと流していく。「無反応」という反応。「取り直し」という選択肢は十分に考えられた一番ですが、あえてその辺はスーッと流した。何故ならば…

↓その直前の豪栄道の取組で芝田山親方は「あっ…(察し)」となっていた模様!


<何か大きな流れを察する芝田山親方>
アナ:「芝田山さんいかがでしょう?」

芝田山:「何ともちょっと難しい判定かもわかりませんけど」

芝田山:「ま、豪栄道のカラダも跳んでますしね」

芝田山:「逸ノ城のカラダは土俵の中にいた形でもたれかかってる状況もありましたからね」

芝田山:「ここでは何とも申し上げにくいですね」

芝田山:「行司さんとしてもですね、攻めてるほうに軍配を上げるのは鉄則ですから」

(向正面からの映像)

芝田山:「豪栄道の左の足が返ってますけどね…」

芝田山:「逸ノ城もね右の手をしっかり引きましたからね…」

芝田山:「難しい判定に持ち込まれていると思いますけどね…」

審判部長:「軍配差し違えで豪栄道の勝ちとします」

アナ:「映像を見た限りで言いますと非常に微妙な一番でした」

芝田山:「……」

アナ:「豪栄道のカラダも跳んでますけどね?」

芝田山:「うーん、まぁ、取り直しになってもいいような感じも受けますけどね。まぁ流れっていうのはビデオ室の意見を聞きながら、5人の審判が協議してるわけですけれどもね。まぁ、土俵下で見ている流れと、モニターで見る流れとですね、違ってきますからね」

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誤解なきように言うと、僕の見立てでも碧山の足のほうが先に出ていたと思います。しかし、相撲ではこのぐらい微妙なときは、取り直しで白黒つけるのが基本線。そのための「取り直し」という選択肢です。豪栄道の一番では「取り直し」に言及した芝田山親方に、「これ言うてもしゃーないな」と気づかせた大きな空気の流れがあった。これは「風」と呼ぶべきものなのだろうか。もし風だとして、こんな序盤からエアコンを全開にして大丈夫なのか。アヤういバランスを保っているだけのヨットが、風でひっくり返りやしないだろうか。吹けば吹くほど心配しか浮かんできません。

本当に稀が熟したのなら、僕もエアコンのスイッチを入れることには賛成です。すべてのエアコンをつけてやらねば、アレがアレすることなど想像できません。自分でどうにかできるようなチカラはアレにはない!しかし、エアコンによってバランスを崩し、沈没させてしまっては元も子もないのです。序盤を4勝1敗、中盤を4勝1敗、終盤を4勝1敗、コレがアレのベストエフォート。それ以上の成績を自力で出すメドが立ってこそ、恥も外聞もなくエアコンをピッする甲斐もあるというもの。今から始めたらピピピピピピピピピピピピですよ!

アレと照の取組は十三日目あたりでしょうか。そこまでエアコンとか注射とか友情パワーは全部しまっておくべき。角界の総力によって、もし残り二日でまだリードあるいは同点という状況であれば、初めてそこで封印を解くことが許されるのです。最低でもその程度までは頑張ってもらわねば、生涯に1回あるかないかであろう優勝も黒歴史となってしまいかねません。「全部はいかん、ちょっとにしろ」を合言葉に、しっかりと段取りを整えてもらいたいものですね。



なお、最終的に誰に風を吹かすかは今日の栃煌山との取組で決めます!