格差の広がる先進国において貧困層の肥満率が増加

現代社会において、日本を含む世界の多くの国で肥満が大きな健康問題となっています。元来、貧困の正反対に位置するとされていた肥満は豊かさや権力の象徴でした。しかし、最近では「肥満=裕福」というイメージが揺らぎ始め、格差の広がる先進国において貧困層の肥満率が増加していると言われています。「金持ちが太っていて、貧乏人はやせている」という状態が崩れつつあるようです。

厚生労働省が発表している「国民健康・栄養調査」によると、各所得階層別において野菜や肉の摂取量に違いが出ています。高収入層、中収入層、低収入層に分けて野菜や肉などの1日当たりの摂取量を集計した結果、高収入層になるほど野菜や果物の摂取量が多く、低収入層になるほどその量が少なくなっていることがわかります。


子供の時期に肥満である人の80%は大人になっても肥満のまま

逆に考えると、飽食になった昨今では、ほんの数百円も出せば1000kcalを超えるジャンクフードや食品を入手することができるようになったのです。貧困層でも低価格の高カロリー食を容易に口にすることができるようになり、簡単にカロリー超過となってしまいます。そして、この傾向は大人ばかりではなく子供にも現れてきています。親が貧困であれば子供も自然と同じような食生活になるわけで、子供であっても高カロリーの食事を頻繁に摂取すれば、肥満になるのは当然と言えます。

それでは子供が肥満になると何が問題なのでしょうか?まず、子供の肥満は改善しにくいとされており、子供の時期に肥満である人の80%は、大人になっても肥満のままの「大人肥満」となります。また、一度痩せても小さい頃の食習慣を体が記憶しているため、再び元の食生活を始めて肥満になってしまうケースが多いのです。


小児のメタボシックシンドロームによって生活習慣病の頻発を懸念

肥満を放置すると、脳卒中や狭心症・心筋梗塞などの心臓病を引き起こす原因となる生活習慣病になる可能性が高まります。さらに肥満傾向にある子供は、運動能力が低下しやすく肥満を助長しかねません。小児肥満の子は筋力が衰えがちとなり、骨折しやすかったり、腰痛なども引き起こしやすいのです。さらに女の子の場合、思春期には月経異常になることがあります。

日本を含む先進諸国において、格差社会が生み出す貧困は子供にも確実に影響し、飽食の時代であるからこその肥満を生み出しつつあります。今後は、肥満に伴う小児のメタボシックシンドロームによって生活習慣病の頻発が懸念されるのは火を見るより明らかかも知れません。


【佐藤 浩明:消化器内科専門医】


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