「どんな人生でも、逃げたい自分と向き合うしか成長はない」BiSH・モモコグミカンパニーの夢を掴む力

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ステージ上で輝くアイドルは、多くの人を魅了する。「自分もアイドルになったら、何か変われるかもしれない」――そう思い、アイドルのオーディションに臨む人も少なくないだろう。

BiSHのメンバーであるモモコグミカンパニーもそのひとり。苦手なことに背を向け「変われるかも」と飛び込んだ芸能界で彼女が感じたのは、結局、避けていたものに向き合うしかないということ。「キラキラして見えるアイドルも、ただの人間でしかないんです」――悩み、苦しみ、傷つきながら、邁進してきた彼女だからこそ、その言葉に説得力がある。

撮影/川野結李歌 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.

オーディションに落ちるのも良い“運”かもしれない

1月11日から公開されている映画『世界でいちばん悲しいオーディション』は、BiS、BiSH、GANG PARADE、EMPiRE、Waggなどのグループを抱える音楽事務所・WACKが行った、合宿オーディションの模様を収めたドキュメンタリー。「アイドルになりたい」と夢を持った子たちがオーディションに臨む。現役メンバーであるモモコグミカンパニーも参加し、その過酷さに苦しみ、傷つき、涙する参加者たちを目の当たりにしてきた。
映画をご覧になっていかがですか?
合宿に参加した身としては、当時体験したまま映画になったなという感じです。受かった子だけじゃなくて、落ちた子にも焦点が当たっていたのでうれしかったですね。
6泊7日で行われた、「WACK合同オーディション2018」では、毎日数人の参加者たちが脱落していきました。夢と覚悟を持ってオーディションに臨んだ子が、目の前で落とされていく姿を見てどう感じましたか?
合宿のときも、個人的には受かった子より落ちていった子が気になっていました。ニコ生配信をしていたんですけど、カメラに映らないところで落ちた子と「この先どうするの?」とか話していたんです。

人生を変えようと思って合宿に参加した普通の女の子たちが、夢を断ち切られてこの先どういう生き方を探すんだろうと気になって。落ちた子のなかには就職の内定を蹴ってきた子もいたので。 

落とされた子のなかには、私よりも歌やダンスがうまい子が何人もいたんですよ。でも、歌とダンスができたからといって受かるわけじゃない。何か人を惹きつけて、視聴者に支持される子もいる。頑張ればいいわけじゃないなって感じました。ただ、受からないのも“運”だと私は思います。
活躍するのはこの場じゃなかった、ということ?
はい。WACKの色ではないから、落ちたほうがいいんだろうなっていう子もいました。その子はWACKに入りたかったかもしれないけれど、この先、別のところで大成して、WACK所属の女の子たちより有名になるかもしれない。だから落ちたのも“運”だなって。
改めて、BiSHとして活動している身であるモモコさんが、「アイドルになる」と覚悟を持ってオーディションに臨んだ子たちと触れていかがでしたか?
自分的に収穫だなと思ったのは、BiSHのオーディションを受けた頃の「こうなりたい!」とか「どうして自分はオーディションを受けたのか」という気持ちを思い出させてくれたこと。私がオーディションを受けたときはこの子たちと同じ気持ちだったんですが、4年くらい経った今、そのことを忘れてしまっていたんです。
必死な姿に触発されたんですね。
ちょうどその時期、横浜アリーナ(2018年5月のワンマンライブ「BiSH “TO THE END”」)に立たせていただく前で、重圧を感じていたんです。
重圧?
私は、素人からオーディションを受けてBiSHのメンバーになったから、歌もダンスも人よりできない。強力なメンバーのなかで、BiSHの名前ばかりが売れて…「このなかで私は何が残せるんだろう」と、活動していくなかで迷いや劣等感を感じていたんです。

そんなときにオーディションの参加者たちと触れ合って、オーディションを受けた当時の気持ちを思い返させてくれたのは、自分にとって大きな経験でした。私はBiSHで頑張っていくしかないと再認識させられました。

女の子たちがいじめられているように見え、怒りを感じた

そもそも、モモコさんはこの合宿オーディションに反対の気持ちがあったと聞きました。
前回もオーディションをやっていたんですが、見ていてただツラいだけのオーディションだなと感じたんです。女の子たちがデスソースを食べて苦しんでいる…それを見ている大人たち…。女の子たちがただいじめられているように見えたんです。「こんなことする意味あるんだろうか」って思っていました。
オーディションでは、視聴者投票などのポイントも重要であり、デスソース入りの食事を食べることでポイントが獲得できるというルールでした。
だからオーディションは反対派で。今回の合宿には、最初BiSHからアイナ・ジ・エンドが参加する予定だったのですが、参加するアイナもかわいそうで、渡辺(淳之介/WACK社長であり、WACK所属のアーティストのプロデューサー)さんに「もう(オーディション)辞めませんか? 見ていられないです」って意見したんです。そうしたら「そんなに見ていてツラいならお前が行け」って言われて私が行くことに。
反対の気持ちで合宿に参加されて…。
デスソースで苦しんでいる子を目の当たりにして、合宿中も渡辺さんにすごく怒っちゃいました。そのときは、“いじめられている女の子と、それを笑って見ている大人”に見えていたのと、私は変に正義感が強いところがあって。…そこは自分の性格の難しいところでもあるんですけど、「許せない!」って思ったんです。
渡辺さんに「許せません!」とおっしゃったんでしょうか?
うーん。ちゃんとしゃべれなかった記憶があります。渡辺さんも怒って部屋から出ていってしまって。私もただただ泣くしかない…みたいな。

普段、渡辺さんに怒ることってあまりないんですけど、そのときはすごい悪い人に見えていました。でも、渡辺さんも悪役を演じてくれていたんですよね。それをわからず、自分の反発する気持ちを抑え込むことができなかったんですが、渡辺さんと真正面からぶつかれてよかったなとも思っています。
厳しくすることで「芸能界は甘くない」と伝えていたんですね。モモコさんは渡辺さんとぶつかることができましたが、今、たくさんいるアイドルのなかで、社長やプロデューサーに自分の意見を伝えることができる方は少ないのでは、と思います。
BiSHに関していえば、結成して1年くらいは渡辺さんといる時間が多かったんです。それは大きいと思います。当時はよくコミュニケーションも取っていたし、今回は距離が近かったこともあって、ちゃんとぶつかることができたのかなとも思います。

アイドルになっても、現実に向き合うしか輝ける方法はない

モモコさんも夢を追いかけてBiSHになりました。今、「アイドルになりたい」と思っている方に向けて言葉をかけるとするならば?
「アイドルになりたい」って思っているときが一番幸せ。参加者の子たちも、この合宿でわかったと思うんですけど、人前に立ってキラキラして見えるアイドルも、ただの人間でしかないんです。

学校が楽しくない、友人関係がうまくいかない、ここ(WACK)に入ったら(アイドルになったら)キラキラできると希望を持って、オーディションを受けた子もいるかもしれないけれど、事務所に入っただけでは何も変わらない。結局、自分が現実で避けてきたことに向き合うしかないんですよ。
それは、モモコさんが事務所に入って感じたことでもあるのでしょうか?
まさに私がそれだったんです。人間関係を築くのも苦手だったし、運動もやりたくない。でもWACKに入ったら何か変われる気がするって気持ちだけで、BiSHのオーディションを受けたんです。

でも実際人間関係や、ダンスなどに向き合わなければいけない。モモコグミカンパニーになれたからといって終わりではないんです。結局は、自分が頑張るしか輝ける方法ってないんですよね。それを、参加した子たちもわかってくれたらいいなって。
どんな肩書きがあっても「人間」であり、生きていくうえで自分と向き合うことに変わりはないということですね。
私はとくに、歌もダンスも…スキップすらできないっていう本当に素人以下の状態でBiSHに入った身なので、グループに入ってからすごく苦しんで苦しんで。私、BiSHに入ってから歌とダンスって注意されたことしかないんです。ライブのリハーサルでも私しか指摘されないくらい。

だからこそ今回の合宿でも、的確に教えることはできないけれど、できない子の気持ちになって教えることはできるなと思っていました。
何だか、むしろBiSHになってからのほうが苦しむことが多そうですが。
BiSHとして活動するなかで思ったのは、わかりやすい特徴がないと自分を見てもらえないこと。歌がうまい子だったら「歌がうまい子」として見てもらえますよね。私は、多く作詞をしていると言われているけれど、だからといってとくに何があるわけでもない…って苦しんでいた時期もありました。

「素人くさい」とか「ヘタ」とかたくさん言われて、自分でもわかっているからこそ傷ついて。やっぱり普通の女の子でいたほうがよかったんじゃないかって、数えきれないくらい思いました。BiSHは個性が強いメンバーが多いからこそ、そのなかで自分は何が武器なんだろうって何度も考えて。
ほかのメンバーと自分を比べてしまうこともありましたか?
<最初のレコーディングで、みんなと同じだけ歌ったはずなのに、完パケの音源を聞いたらどの曲でも「あれ? 私、一行分しか歌ってない」ってことがあって。最初はすごく落ち込んだんです。でも、悲しがっていたら次に進めないし、アイナやチッチなど、歌がやりたくて入ってきた子と張り合ってもしょうがない。

メンバーと自分を比べて、同じ土俵で戦うとすごく苦しいんですよ。私の場合、曲も一行しか歌えていないのでむしろ苦しいとか、悔しいどころじゃない気もしますが。張り合ってお互いを高めていくのもいいと思うんですけど、私は平和主義だしバチバチしている空気には耐えられなくて。

もちろん歌も頑張るけれど、一緒のところで戦わなくてもいいんだ、別のところで頑張ろうって考えになってからはすごく気が楽になりました。
そう思えるようになったのは…。
『目を合わせるということ』(シンコーミュージック・エンタテイメント)という本を出してからですね。普通の何もできないヤツが、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出たり、大きいステージに立ったり…その過程の自分の心情やBiSHの雰囲気などを書いています。

私は今でも、自分は普通の人だと思っています。本も普通の女の子目線で、どう思ったかを素直に書けたし、私の強みはお客さんの気持ちに寄り添えることなのかなって。

もちろん、素人くさいのはダメだけど、そういうところはグループのなかで魅力になると思っているし、方向転換して考えられるようになりました。

大切なのは、目の前の1時間にしっかり向き合うこと

改めて、たくさんの苦しいこと悔しいと思うことを、モモコさんはどう乗り越えていらっしゃるのでしょうか?
難しいですね…。でもやっぱり、目の前のことをひとつずつやっていくしかない、っていうことですかね。
「アイドルになったって、自分と向き合うことには変わらない」という先ほどのお話につながりますね。
アイドルに限ったことではなく、ほかの仕事でも同じですよね。自分は自分でしかないし、結局、自分がどう生きるかでしかない。…人生にはいろんな道があるじゃないですか。私だって明日からOLになることもできる。そう考えたこともあるんですけど、どの道に行ったって結局変わらない。変わらないんだったら、今の道で頑張ったほうがいい。

私は夢見がちな人間で、BiSHに入るまで未来を見すぎていたんですね。今日、明日よりも「将来はこうなりたい」って、そういうことばかり考えていました。でも、そうなるためには目の前のことをキチンとやるしかないって気づいたんです。今は目の前の1時間ごとをムダにせず、新鮮な気持ちで生きています。
取材の丁寧な受け答えからも、モモコさんが目の前のことにしっかり向き合っている姿勢を感じます。最後に、「アイドルになりたい」だけでなく、何か夢を追いかける方にモモコさんの言葉でアドバイスをいただけますか?
遠い夢を見るより、今ちょっと避けているようなことに臨んでみてほしいです。一歩進めなくても、半歩進められればいいんです。そうして、1日1日を大切に過ごしてほしいなと思います。
モモコグミカンパニー
9月4日生まれ。東京都出身。O型。2015年3月に結成された、BiSHのオーディションに合格し、オリジナルメンバーとして活動する。同年5月に1stアルバム「Brand-new idol SHiT」をリリース。2016年5月に「DEADMAN」でメジャーデビュー。BiSHのなかでも数々の作詞を手がける。2018年3月には、著書「目を合わせるということ」(シンコーミュージック・エンタテイメント)を発売した。2019年4月からは、全国14カ所を周る、ライブツアー「LiFE is COMEDY TOUR」を開催する。

映画情報

映画「世界でいちばん悲しいオーディション」
2019年1月11日(金)からテアトル新宿ほかにてロードショー中
http://sekakana-movie.jp