――また、キン肉マンといえば読者がオリジナル超人を考え、それが本編で採用されてしまうという、当時では珍しい形で先生と読者のコミュニケーションが実現していました。

嶋田先生:あれは初代の編集者で“アデランスの中野さん”っていうのがいたんですけど、その人が考えた企画なんですよ。僕らファンレターの返事を書かなかったんですね。それで、それに代わるものっていって、当時読者の考えた怪獣を漫画に採用したんです。採用するのは、できるだけ小さい子(の作品)にしようとか色々考えました。

――ちなみに、先生が客観的にキン肉マンを見て、一番好きな超人は?

嶋田先生:僕はですね、ラーメンマンです。ちなみに、うちの相棒はテリーマン。

――中井先生は、博識のテリーマンファンですか!

嶋田先生:テリーマンって、一番人間に近いじゃないですか。だから漫画家として描き甲斐があるみたいですよ。異形なもんばっかり描いてるから「普通の人の顔が描きたい」って。

――先生がラーメンマンを好きな理由というのは?

嶋田先生:単純なところで子供でも落書きしやすいですから。考えてみたら変なキャラクターですけどね。三つ編みのドジョウ髭で……。でもカッコイイんですよ。

――ラーメンマンとウォーズマンはよく落書きしましたね〜。

嶋田先生:コンセプトというのは、やっぱり子供に描きやすいということなんです。僕らの小さい時も、ニャロメ(赤塚不二夫作)とかをみんな描いてましたからね。

――先生が一番好きな技はなんでしょうか?私はバックドロップだと思っていました。ミート君がミキサー大帝に決めたシーンは、先生の本音が作品に投影された部分だったのではと感じましたから。

嶋田先生:あ〜、なるほどね。好きな技というのは実在の?作品中の?

――全て含めてですね。

嶋田先生:それは、やっぱりキン肉バスターですよ!綺麗!

――後にキン肉バスターが様々なバリエーションに変化するのは圧巻でした。

嶋田先生:変形は色々考えたんですよ。まだまだあると思いましたね。

――それでも、最初のキン肉バスター自体、なかなか思い浮かばないですよ!

嶋田先生:二人で技を掛け合ったりしましたね。プロレスとか格闘技をずっと見てたからか、突然パッと浮かんでくるんですよ。持ち上げて、ここで足とったらどうなるかなって。

――そこでのこだわりというのは?

嶋田先生:出来そうな技を考えるんですよ。なんか宇宙まで吹っ飛ばすとか、そういうことではないんですよ。

――確かに出来そうですよ。学校のプールとかでやってましたしね。

嶋田先生:出来そうで出来ない技。それを考えるのが難しいんです。

――ウォーズマンのパロスペシャルは、教室でみんなやってましたよね。あれはもともと、イギリスの“なんとかパロ”って人の技なんですよね?

嶋田先生:それは2代目の担当編集者に聞きましたね。「ジャッキー・パロっていう選手が使う、パロスペシャルっていう技がある」って。それで(実際に)技をかけてもらったのが今(作品中)のパロスペシャルなんですけど、4年くらい前に『レディースゴング』の編集者から電話があったんです。「実はパロスペシャルって、形が違うんですよ。本当のパロスペシャルっの写真を送るから」って。

――それが……。

嶋田先生:オラップ(キン肉マンII世、ケビンマスクの必殺技)なんですよ。ちょっとは似てるんですけど、全然違う技だったという……。

――でも、世の成人男性の誰に聞いても、パロスペシャルはウォーズマンのパロスペシャルを思い出しますよ。キン肉マンには事実をも変えてしまうパワーとエネルギーがあったんですね。

嶋田先生:本当ですね。ウォーズマン(旧ソ連)の技で、何故パロスペシャル(イギリスの技)なのかってね。当時の読者も不思議だったと思いますよ。

――しかし、ウォーズマンにパロスペシャルを授けたのもバラクーダ(ロビンマスク=イギリス)ですから、ルーツを辿るとおかしくない!

嶋田先生:ああっ、本当だ(笑)それは考えたことがなかった。しかし、普通だったら「ウォーズマンスペシャル」とかって技名にするんでしょうけど、“パロスペシャル”っていう語感がいいなぁ〜って、そのままにしました。やっぱり、全てがその場の思いつきなんですよ(笑)

――先生が影響を受けた漫画というのは何になりますか?

嶋田先生:あの頃の子供の王道『巨人の星』、『あしたのジョー』、『タイガーマスク』ですかねぇ。

――また、影響を受けた漫画家とは別に、先生の師という方はいらっしゃいましたか?

嶋田先生:それはいないんですよね。

――なるほど。今までのお話しから、先生独自のスタイルがキン肉マンブームを生み出したというのはよく分かりました。独自という意味では、キン肉マンII世が前例の少ないリバイバル漫画の先駆け的な存在となりました。

嶋田先生:最初はちょっと嫌だったんですよ。キン肉マンを(歳とって)ヨボヨボで登場させるのは。でも、そうしないとただのリバイバル漫画で終わってしまうし、やっぱり新しいドキドキした漫画にしなければいけないので、意識的にやったんですよね。

――確かにそれはとても感じました。テリーマンとか(他の超人は)は結構いい歳のとり方をしているのに、キン肉マンだけは対照的に年老いている。そこに先生の覚悟というか、腹をくくったなという気持ちの表れを感じます

嶋田先生:最初、「続編は絶対描かないぞ」って思っていたんですけどね。だからこそ、スグルをああするしかなかったんですよ。

――かつてのキン肉マンフリークと、新たな読者の狭間で、ターゲット設定はどのように考えられたのですか?

嶋田先生:新しい読者にII世を気に入ってもらわなければいけませんし、昔からの読者は旧作の超人が好きだったり……。バランスが難しいですよね。毎回考えながら闘っています。

――初代を知らない読者というのも大勢いる訳ですよね。

嶋田先生:でも、やっぱり当時の読者に分かってもらわないといけませんから、そのサービスとして当時はあまり活躍しなかった超人を全面的に出していこうということはしてますね。ブロッケンJrとかザ・ニンジャとか。そういうところをII世では拾っていく。

――闘いの移り変わりも顕著になりました。プロレスだけではなく、総合格闘技の要素も取り入れるようになったりと。

嶋田先生:そうですね。総合的な要素も入れてますが、かといって、出来そうで出来ない闘いというのはやっぱり変わらないんですよね。

――今のプロレス界に対して、先生なりの想いがあるのかなとも感じました。

嶋田先生:でも、僕たちはプロレスをそこまで意識している訳ではないんですよ。キン肉マンの読者って、全員が全員プロレスファンではないですから。

――もともと先生がプロレスを見始めたきっかけというのは?

嶋田先生:小学校の時、クラスメイトにプロレス大好きな奴がいて、テレビを見せられたんですよ。そしたら当時、とんでもない外人レスラーがいて、ブルート・バーナードとスカル・マーフィー(注)っていう名前なんですよ。本当に怖いな〜って思いながら、見始めたんですよね。そしたら、(日本にも)猪木と馬場っていうのがいるって知ったんです。

――では、最初は外人レスラーに興味を持って見始めたんですか?

嶋田先生:そうなんですよ。スカル・マーフィーは頭もツルッツルで、眉毛もなくて、ブルート・バーナードはすごい凶暴なんですよ。角材で大木金太郎の耳を削ぎましたからね。

――当時に比べて、今のプロレスに感じる部分は?

嶋田先生:なんか、怖さがなくなりましたよね。ハンセンやブロディとか、メッチャ怖かったですもんね。怖さとか迫力……。

――日本人vs外国人というのは、いつまで経ってもプロレスの基本というか原点ですよね。

嶋田先生:僕は、外国人選手が豪華だったので新日よりも全日を観ていたんですよ。今ではそういう(日本人vs外国人)ところは、PRIDEに受け継がれているのかなって気がしますね。豪華外人。

――ちなみに、先生ご自身も格闘技を実践されていますが。

嶋田先生:単純にやってみたかったっていうのもあるんですが、やっぱり技を考えていくにつれ限界を感じたというか、やらないと分からないなって思って。で、II世始まる前に、次の作品の構想を練りながらも、一年くらい仕事をしていなかった時期があったんです。その時に、正道会館の柔術クラスっていうのが出来たんで通ってみたら、練習中に道衣掴んだ際に指が折れて、相棒に「二度とやるな」って言われました(笑)

――やったことがあるのとないのとじゃ全然違いますもんね。自分も前に人に言われたのが「三角絞めがなぜ極まっているのかが分からない」って。

嶋田先生:そうなんですよね。それだけで描き方も変わってきますよ。例えば、腕十字を取られたときの相手の指の向き一つにしてもね。

――さて、最後に、嶋田先生が現在進行形の読者に一番伝えたいことって何でしょうか?

嶋田先生:やっぱり、僕らは友情がテーマなので“友達がいっぱいいる”ってことなんですよね。楽しくて、助け合えることも多い。だから、昔から言っていることは“友達を沢山持ってください”ってことなんです。

――キン肉マンの作品シリーズや時代の移り変わりの中でも、核の部分の全く変わることなかったんですね。

嶋田先生:そうですね。実際、そうだったと思います。キン肉マンみたいなキャラクターは僕にとっても憧れですよ。でも、どうしてか、キン肉マンとブロッケンJrが二人きりになるとあんまり話すことがないんです(笑)

――アハハ(爆笑)

嶋田先生:誰々がいると話せるとか……。そういうことも考えてやっていますから。一回、そういうのも描いてみたいなぁ。間が持たないところとか(笑)

(文=川頭広卓)