「タダより高いものはない」とはよく言われることだが、それでもAmazonの「送料無料」をはじめ、「無料ゲーム」、「書籍の無料公開」など、無料で提供している商品やサービスをよく見かける。

オフラインでも、以前マクドナルドが期間限定で行った無料コーヒーキャンペーンは最高益を更新するなど、「無料」という言葉が与える消費者に対するアピール度は群を抜いているのだ。

こういったサイトが存続するためには色々な仕組みが隠されている訳だが、共通して言えることは商品(サービス)自体がお金を出しても欲しいような品質の高いものであることが大前提である、ということだ。

今回紹介する「WunWun」も無料を売りにした、オンデマンドのデリバリーサービスを提供している。アプリで欲しい物を指定するだけで、どうした商品が良いかをスタッフとやり取りし、購入から配達まで一括で行ってくれるのが魅力のサービスだ。

2012年11月に創業し、NYのマンハッタン、ブルックリン、ハンプトンに限定してサービスを展開している。2013年9月時点で月の利用件数は当初の3000件から1万件に増え、1日平均2万ドル以上を売り上げているという。

ForbesやTechCrunchなどにも多数掲載、BloombergやNews12などのテレビ番組でも取り上げられている。

この「無料」という甘い蜜を上手く引き出して顧客をつかみ生き残れるか、自ら仕掛けた「無料」の罠にはまっていくか......、WunWunの試行錯誤の挑戦をたどっていこう。

地域に根差したオンラインサービスを作りたい

創業者でCEOのLee Hnetinka(写真右、以下ネティンカ)氏は現在26歳。起業家として既に12年の経験を持つベテランであり、非常にユニークな発想と人並み外れた実行力の持ち主だ。

ネティンカ氏が初めて会社をスタートさせたのは14歳の時のこと。

高校時代、車が好きだった同氏は、学業と並行して装備車関係の小売販売をはじめた。しかし、肉体労働が自分に向いていないことを悟り、休暇用の賃貸物件の仕事を行うようになった。この時も仕事をしながら大学に通い、マーケティングを学んだという。

さらに、独学でウェブデザインとプログラミングを習得し、自分で会社のサイトを作り上げた。

インスピレーションを得るものは迷わず挑戦し、地域の広告活動に関連したスタートアップやtwitterのハッシュタグのコンセプトからヒントを得て同じ職場などの同僚と情報を共有できるチャットルームを作るなど、まさに湧き出るアイディアを形にしつづけている。

ネティンカ氏はやがて、「地域に根ざしたものをやりたい」と地元に貢献するようなサービスを考えるようになる。そして広告活動のスタートアップを自腹でスタートさせたが、これが大失敗。10万ドルを使い果たしてしまった。

しかし、ネティンカ氏は「地域に根ざしたサービス」を提供することを諦めなかった。以前の失敗の教訓を糧に、ビジネスを転換することを決意する。新しいサービスのアイディアとなったのは、オンラインショッピングの浸透により、小売店の売上が減少していることだった。

同氏は小売店の買い物客を増やすにはどうしたら良いかと考え、買い物を「代行」するオンデマンドデリバリーアプリを思いつく。

たとえば利用者が「こういう品が欲しい」と考えたらアプリを開き、品物を注文してもらう。アプリ側は求められた商品を提携している小売店からピックアップし、利用者に届ける。こうしたしくみであれば、無名の小売店であっても、消費者たちに利用してもらいやすくなる、と考えたのだ。

こうして2012年11月、「WunWun」のサービスがはじまることになる。

無料サービスのからくり

「WunWun」のアプリを利用すれば、具体的な商品名を出さずとも、「欲しい商品」が何であるかを指定するだけで、注文を行うことができる。また、購入する店を限定することも、WunWunにおまかせ(Pick For Me)」することも可能だ。

利用者はアプリをダウンロード後、メールアドレス、電話番号などの基本情報とクレジットカードの登録を済ませておく。その後欲しいものが何かとどこへ届けるかを選択し、Getボタンをクリックすれば注文は完了だ。

注文後すぐにサイトからメッセージが届き、Helper(ヘルパー)と呼ばれる配達人とチャットや写真のやり取りなどで、どのような商品を希望するのかについての細かいやり取りを行うことになる。目的の商品が決まったら、ヘルパーが実店舗に出向き、希望に合致する商品の写真を撮影し、利用者に最終確認を取るのだ。

利用者がその商品に問題がないと合意したら、ヘルパーが商品の購入を行い、レシートの写真も添えてそのことを報告、そのまま顧客の場所まで届けてくれる。

ヘルパーと目的の商品についてすり合わせを行うのは、やや手続きが複雑とも思えるが、この作業には手間賃・送料を含め、一切のコストを支払う必要がない。アプリを利用し、欲しい商品を伝えるだけで、相手が目的の品を探し出し、購入から配達まで代行してもらえるというわけだ。

WunWunはこうしたコストを、提携している小売店からの手数料でまかなっている。顧客が商品名や購入店を指定しない限り、ヘルパーは提携している小売店を優先して購入を行うため、小売店はこれによって売上を得られる、というしくみだ。

では、顧客がWunWunと提携していない店や品物を指定して注文した場合は、手数料が入らずそのまま自腹を切っているのだろうか?

こういった場合、類似の商品や、同じ品でも他店ではセール品になっているものなど、より安く購入するための情報提供や、多くの選択肢を顧客に提案している。

顧客が提案を断ったとしても、よりターゲットを絞った宣伝を行えるので、こうした提携店舗より、広告料を得る事ができるのだ。ネティンカ氏によると、この広告料(CPM)も大きな収入源となっているという。

ヘルパーの質がサービスの質となる

WunWunのサービスを行う上では、ヘルパーの役割が極めて重要だ。現在同サイトに登録しているヘルパーの数は250人ほどだが、常に需要に対して従来のサービスが保てるように現在もその数を積極的に増やしている。

ヘルパーの採用には入念な経歴チェックが行われる。登録者のほとんどが空き時間を利用しやすいニューヨークの学生だという。そのため、配達には自転車か徒歩、電車を利用している。時給は12ドル(約1200円)で、デリバリー1件ごとに2ドル(約200円)ずつプラスされる。

ヘルパーには、専用のアプリが入ったスマートフォンが渡され、仕事を開始できる時はいつでもアプリを起動し登録できるシステムになっている。

「単なる買い物代行サービスではなく、小売店と顧客を結び付け、顧客とのコミュニケーションを取りながら満足度の高いユーザー体験を提供する。その一連のサービスが僕たちの商品なんだ」とネティンカ氏が話すとおり、まさにヘルパーがサービスの要であり全てでもある。

なお、サイトに寄せられるクレームも、そのほとんどがヘルパーの接客態度なのだそうだ。そのため、同サイトはヘルパーに対し、定期的に講習会を開き、顧客との接し方についてレクチャーし、接客サービスの向上に努めている。

新たな戦略、Gettとの提携

現在WunWunと競合する類似サイトとしては、TaskrabbitPostmatesなどがあるが、WunWunのほうがアプリ操作が簡単でスムーズなこと、Postmatesのように所要時間や距離によって料金が変わるのではなく、料金が一律で無料でのサービスが主であることが顧客に支持されているようだ。

またWunWunには、無料サービス以外にもいくつかのオプションがある。

通常デリバリーサービスを行っていないレストランやコーヒーショップからのテイクアウトの配達は商品の代金以外に一律20ドル(約2000円)、また、合鍵をルームメイトに届ける、ドライクリーニングを取ってくるなど買物以外のサービスも同様に20ドル(約2000円)でやってくれる。

さらに今年の春からWunWunはUberのライバルとも言われているGettとのサービス提携を開始。これにより、例えばパーティに呼ばれたがゆっくり手土産を選ぶ暇がなかった時、Gettの運転手がパーティーに行く手土産のワインも一緒に調達して迎えに来てくれるというサービスが実現した。

このサービスはWunWunとGettの登録者のみ利用でき、Gettのサービス料、ワインの代金と別に、WunWunのサービス料として10ドル(約1000円)かかる。

有料サービスに移行する兆しが?

WunWunのサービスは、多忙な人や高齢者や足が不自由な人などにとっても、便利なサービスであると言える。顧客が寄せた声の中には、「自分が店に足を運んで買いに行くより安く購入してくれて配達もしてくれるのですごく便利だ」というものも見られる。

また、利用者自身があまり詳しくないジャンルの商品を購入するときにも、かなり便利なサービスだろう。ヘルパーがそのショッピングに求めているものについて細かくヒアリングし、目的の商品へと導いてくれるからだ。

立ち上げから1年ほどで成功を収めたWunWunだが、ここに来て少々危険な賭けに出ているようだ。

これまで無料だった同サイトのサービスが、15ドル(約1500円)の有料サービスへと徐々に移行しているらしい。たとえば無料サービスにオプションとして至急配達だとプラス10ドル(約1000円)、玄関先まで(高層ビルやマンションなど)の配達でプラス5ドル(約500円)といった具合に課金されるシステムに変わってきている。

無料サービスを受けたい人は最大6時間ほど待たなければならない。その意図は明らかにされていないが、需要が高くなるにつれサービスの質を保つうえで人件費のコストとの採算が合わなくなってきたとも考えられる。もしこのまま有料という形にシフトするのであれば、「無料で買い物でき、配達まで行ってくれる」ことに魅力を見出していたユーザーの大部分は離れてしまうかもしれない。

変化したサービスのターゲットを見極め、彼らがお金を支払ってでも利用したい、と思えるサービスを持続させられるかどうかが、今後の成功の鍵となってくるだろう。

資金調達なしでここまで成長させたWunWunが「無料サービス」という看板を捨てて、オンデマンドビジネスの熾烈な競争に生き残ることはできるのか。企業家レティンカ氏の本領はここから試されるといっても過言ではない。