今日ご紹介する「Lorna Jane」は、オーストラリアに第1号店がオープンして約20年という老舗ブランドだ。

大型ショッピングセンターや都心の繁華街に店を構え、アクティブでヘルシーな生活を送る女性向けのスポーツウェア・ブランドとしての地位を獲得している。

同社は老舗らしく従来の小売店スタイルを保っている一方で、ソーシャルメディアにも注力してきた。ブランドのファンに共感されるようなコンテンツを日々配信し、多くのユーザーの注目を得た。2011年には実店舗で試着した姿をfacebookで報告できる、実店舗を生かしたシステムも作っている。

現在、facebookについた「いいね!」は95万以上。今回は、多くのフィットネスに興味を持つ女性たちに愛される、同社のソーシャル・メディア展開と、その戦略を見ていってみよう。

古くなった水着の端切れなどを使ってスポーツウェアをデザイン

Lorna Janeの創業者は、自分の名前をそのままブランド名にしたLorna Jane Clarkson(以下クラークソン)氏。

同氏は1990年当時、デンタルセラピストとして働くかたわら、アルバイトでエアロビのインストラクターをしていたが、エクササイズの時に着るスポーツウェアをどうするかで悩んでいたという。市販品には、自分が求めているような品物が見つからなかったのだ。

クラークソン氏は、店にないなら自分で作ってしまおうと、古くなった水着の端切れなどを使ってデザインすることにした。そのウェアはクラスの生徒たちの目に留まり、次第に彼女のデザインしたウェアを欲しがる人が増えていった。

クラークソン氏はこの経験から、自分のデザインしたウェアに需要があることを感じ取る。そして、自分で製品をつくってみることにした。そこでも多くの注文が舞い込み、製作業務に時間を費やすために、やがてデンタルセラピストの仕事を辞めざるを得なくなった。

その後クラークソン氏は経営に力を入れるようになり、フィットネスウェア・ブランド「Lorna Jane」を成長させていく。1993年には、豪州ブリスベン市に第1号店をオープン。後に夫となるBill Clarkson氏とともに店舗の経営をはじめた。

その後はスポーツウェア、ヨガやライフスタイルの衣類だけでなく、下着やアクセサリーも取り扱うようになり、現在では豪州と米国合わせて150店舗、2013年の売上が1億3800万ドル(約138億円)を誇る人気ブランドとなったのである。

「Move」「Nourish」「Believe」を掲げるブランド戦略

Lorna Janeで取り扱っているウェアのデザインは、飽きのこないスタンダードなものがほとんどだ。ボディラインを強調しながらも、スポーツジムでセクシーすぎないフィットなスタイルもあれば、隠したいところをふんわりとカバーするようなルースなスタイルなどもある。

「ダンス」「ヨガ」「ジョギング」用など、用途によってデザインと素材を選んでいる。ジム帰りにカフェによってもおしゃれな普段着っぽく見えるところも女性には嬉しい点だろう。

これらの商品展開の一方で、Lorna Janeは「Move」「Nourish」「Believe」という3つの指針を掲げている。毎日体を動かし、体の内と外から栄養を与え、努力すれば何でもできると自分自身を信じる、という意味だ。

同社は上記の指針に沿って、facebookなどでファンとの交流を目的とした、強力なコンテンツ・マーケティングを展開している。以下では、Lorna Janeのコンテンツの例と、その戦略を見ていってみよう。

質のよい個性的なコンテンツが共感した顧客を呼び込む鍵

Lorna Janeのソーシャル・メディアの戦略を担っているのは、同社のデジタル・ストラテジストとして活躍するSam Zivot(以下ジボット)氏だ。

同氏はその活躍から、デジタル業界で功績を認められた個人や団体に送られる賞、AIMIA(オーストラリア・インタラクティブ・メディア・インダストリー・アソシエーション)でソーシャルメディア関連の賞2部門で最優秀賞を受賞している。

ジボット氏はコンテンツ・マーケティングのあり方について、このように語る。

「ソーシャルメディアに情報を掲載するとき、新商品の宣伝だけで顧客の心をつかむことはできません。ビジュアルを通して共感できるコンテンツを定期的に掲載することが、顧客とエンゲージできるための重要な鍵といえるでしょう」

ジボット氏のいう「共感できるコンテンツ」とは、一方的に商品の情報を提供するのではなく、読み手が思わず答えたくなる質問、友達に今すぐ教えたくなるような励ましのメッセージ、欲しいものリストに追加したくなる写真などを指すという。

たとえば、約95万人のファンを持つ同サイトのfacebookでは、ブランドが新製品やセールについての情報を発信するだけでなく、心に残る言葉や、スポーツしても乱れないヘアスタイルのヒントなど、女性にとって嬉しい情報が魅力的な写真と共に毎日平均3〜5回投稿されている。

ソーシャルメディア内でファンと仲良くなれば、意見を求めることもできる。意見やアイディアをなにげなく聞き出す参加型のコンテンツを発信することで、どんな商品が人気があり、どんな所に欠点があるかなどをモニタリングすることもできるようになる。

コメントを求めたいときは、「あなたはどちらのタイプ?」などのように、一言で答えが返せるような質問を投げかけている。ファンが自分の好みをコメントしてくれる確率が高くなるからだ。

facebookの場合、企業が発信する情報は友人や家族が発信する近況や写真の中に埋もれてしまうのが現実だ。堅苦しい商用目的のコンテンツばかりを発信するのでなく、友達のような感覚で親しみのあるメッセージを投げかけることが、ファンの気を引きシェアしやすくしている。

Lorna Janeでは、これらのコンテンツを取り扱うとき、「Move」「Nourish」「Believe」(毎日身体を動かし、身体の内と外から栄養を与え、自分自身を信じる)というサイトの3つの指針に沿うことを原則としている。

たとえば同サイトのfacebookでは料理のレシピも掲載しているが、せっかくはじめたフィットネスに影響が出ないようと、低カロリーのヘルシーフードを選んでいる。

ジボット氏によると、このように一定の指針に従ったコンテンツ展開を行う事で、商品宣伝のコンテンツも、確実に結果を出すようになるのだという。なお、同SNSにおける、「指針に沿ったコンテンツ」と「宣伝のためのコンテンツ」の割合は5対1くらいとのことだ。

また、実店舗を持つ強みを生かして、ソーシャルメディアと実店舗の長所をうまく掛け合わせ、実際に店に足を運びたくなるような工夫も行っている。

それが、「ソーシャルアイズ」といわれるシステムだ。利用者は店舗に備えられたデジタルミラーで自分の試着した姿を撮影し、そのままタグ付けしてfacebookページに写真を送信し、友達に意見を聞くことができる。試着や購入をより楽しみ、その面白さを他者とも共有できる取り組みだ。

心のこもったコンテンツは共感を呼ぶ

これらのソーシャルメディア戦略を成功させてきたデジタル・ストラテジストのジボット氏は、それぞれのプラットフォームには、そこでしか出せない良さがある、と語る。

「facebook、Instagram、Piterest、twitter、それぞれ個性がちがうプラットフォームなのに、すべて同一の写真と情報が同時にアップされているブランドをよく見かけますが、あれではせっかくついたファンも退屈してしまいます」

その独自の特徴を生かしたコンテンツを発信することが望ましい。いくつかの変化を加えファンを楽しませ、まったく異なる経験をそれぞれの場で味わってもらう。それこそが見込み客である根強いファンを維持する鍵だ。

だからといって、全てのソーシャルメディアを制覇したほうがよいとは限らない。「もし、どれかひとつに絞るのであれば、facebookのコンテンツに集中することをお勧めします」とジボット氏はアドバイスしている。

「何をするにせよ、最終的にものをいうのはコンテンツです。ソーシャルメディアを活用したマーケティングには、企業の大きさは全く関係ありません。想いをこめてつくったコンテンツはファンの共感を呼び、大きな報酬となって帰ってくるでしょう」(ジボット氏)

ファッショナブルにエクササイズしたい女性達の共感を呼び成功を収めているLorna Jane。今後も、顧客というチアリーダーがどんどん活躍してくれそうな予感がする。