オランダは前半、日本の両サイドバック(内田、長友)に圧力を掛けてきた。ファンデルファールトの先制ゴールはその産物。内田がバウンドボールの処理にもたつき、真ん中に返してしまったところを狙われた。
 
 なぜそこに圧力がかかったか。相手の人数が多かったからだ。しかもオランダ人の身体はでかい。足も長い。両サイドバックは相手ボールをはじき返すことで精一杯。少なくとも前半、彼らに活躍の機会はほとんど訪れなかった。
 
 眺めのいいゲンクの「クリスタル・アレーナ」の最上階から、ピッチを俯瞰で見下ろせば、そうなってしまう理由がよく理解できた。
 
 4─3─3を敷くオランダの両ウイング(ロッベンとレンス)は、とても高い位置に張っていた。右のロッベンが足下でボールを受けることが多かったのに対し、左のレンスは、内田の背後に再三走り込んだ。
 
 日本の両サイドバックが、相手を警戒し活動エリアが狭くなると、オランダは2人目、3人目の選手が、その周辺に集まり、さらにプレッシャーを掛けた。オランダの狙いがサイドバック潰しにあることは明白だった。
 
 さんざん振り回されていた内田が音を上げるのは、時間の問題だった。大袈裟に言えば、彼はその時フラフラだった。その結果、ミスを犯してしまったわけだが、それはもちろん、彼一人の責任ではない。
 
 内田、長友の両サイドバックは、オランダの両ウイングが、タッチライン一杯に開いて構えたので、それに合わせたポジション取りを強いられた。すると、4人の最終ラインの間隔は自ずと開く。真ん中はスカスカになる。今野、吉田の両センターバックの負担は増す。その一列前で構える守備的MF(山口、長谷部)が、その状況を危惧し、ポジションを下げるのは当然の成り行きだった。
 
 こうなってしまうと、高い位置でボールを奪えなくなる。相手が意図的にボールを運ぼうとするタッチライン際は、真ん中と違い、相手のプレッシャーを片側からしか浴びないので、ボールを奪われにくい場所だ。無理な突破を試みなければ、ボールを保持する時間は自ずと増す。 
 
「ボールが、高い位置で構えるウイングに渡った瞬間、我々は中盤を広いエリアで制圧したことになる」と語ってくれたのは、ヨハン・クライフだが、前半のオランダのサッカーを見れば、その理屈は手に取るように理解できた。

 オランダは、前半終了間際の44分、大迫にゴールを許したことをきっかけに、ペースを乱すことになった。後半の頭から香川、遠藤がピッチに登場すると、それはさらに加速。前半とは別の顔になった。

 前半44分。大迫にラストパスを送った長谷部は、守備的MFナイジェル・デヨングがボールを奪いに来るところを、クルッと反転して前を向いた。瞬間、前方にパット視界が広がった。この入れ違ったワンプレイと、大迫の決して簡単ではないシュートが決まったことで、日本は自信を回復。後半に繋がったわけだ。

 ファンハールは試合後、ナイジェル・デヨングのプレイを「時間帯を弁えない迂闊なプレイ」と断罪。そして後半のピッチに、ナイジェル・デヨングが立つことはなかった。ファンハールは怪我だと説明したが、いずれにせよ、オランダは後半、この攻守の要を失ったことで、すっかりリズムを崩した。逆に香川、遠藤を投入した日本に中盤を支配されることになった。

 ナイジェル・デヨング。この選手が、後半44分、長谷部とのマッチアップで、リスクを負ったプレイをしなければ、後半も出場していれば、2対2という結果にはならなかったと僕は見る。一方的な結果に終わったのではないかと。

 善戦を喜ぶのはいいが、オランダに圧倒的な支配を許した前半の内容に着目しないと、次戦ではやられると僕は思う。