2013年9月20日に、アップルの最新のiPhoneとなる「iPhone 5s」と「iPhone 5c」が、NTTドコモを含め、ソフトバンクモバイル、auの国内3大通信事業者(以下、キャリア)から販売開始されました。日本では、ついに“ドコモからもiPhoneが出る!”ということで大きなニュースになりました。

2008年の夏に初めて日本に登場したiPhoneは、シリーズ2世代目となる「iPhone 3G」で、アップルおよびソフトバンクモバイルから販売されました。

それから5年・・・

確かにiPhoneはスマートフォン需要と相まって新モデルが登場する度に人気を増している印象ですが、世界市場に目を向けるとグーグルのAndroidが低価格なモデルのラインアップを強化することでトップシェアを獲得し、マイクロソフトのWindows Phoneも地域によってシェアを大きく伸ばしはじめています。

また、世界市場ではFirefox OSやTaizen(タイゼン)といった新しいプラットフォームも産声を上げつつあり、iOSとAndroidの2強に見える世界のスマートフォン市場は、まだまだ大きな変動がおきても不思議ではない状態です。

そうした背景もあり、一見好スタートを切ったように見えるiPhone 5sやiPhone 5cについても厳しい見方をする人も多く、もう5年前とは違い、"iPhone 一択"という時代は終わっています。


■世界の開発力がデバイス性能でアップルのiPhoneを追い抜く
iPhoneの新モデル発表で、モバイル市場にお祭りと狂想曲が流れている間に、ライバルであるAndroidスマートフォンは凄まじい勢いで進化し、成長してきました。

アップルが年に1回しか新モデルを発表しないiPhoneに比べ、世界中のメーカーが各国で新機種を年に何回もリリースしているAndroidスマートフォンとでは、その開発と進化スピードにおいて天と地ほどの差が生まれるのも当然でしょう。

デバイスの性能だけを見れば、Androidスマートフォンは既にiPhoneを抜き去っていると言えます。事実、Androidスマートフォンで搭載されているトレンド機能などの一部は、iPhoneも後追いで追加している状況です。

もちろんiPhone は、OSとハードウエア性能のバランスを調整した“最良の製品”を提供し続けてきたと言えますが、逆に進化のスピードの違いによりOS機能の一部やハードウエア面での差が生まれることにもなりました。


■世界動向とシンクロしていた?NTTドコモ
これまでiPhoneを取り扱わなかったNTTドコモは、結果的に“国内では最もAndroidスマートフォンの普及と進歩に貢献したキャリア”となり、世界のAndroid市場の動向と似た歩みができていたとも言えます。

つまり、これまでAndroidスマートフォンで勝負してきたNTTドコモは「iPhoneじゃなくていいじゃん」という地盤を作りあげてしまったのです。

デバイスの性能や世界市場の動向を考慮すれば、国内の契約者数トップを誇るNTTドコモがAndroidスマートフォンでの世界動向にあわせた展開で勝負していれば、いくら日本でiPhone人気が高いとは言っても、いずれは日本においても世界市場に近い状況に移行する可能性は高かったという見方もできます。


■MNP転出対策で万策尽きてiPhone販売を選択するしかなくなった?
世界の動向と似たようなAndroidスマーフォンをメインに展開していたNTTドコモですが、大きな課題もあります。

Androidはグーグルが開発を手がけるオープンなプラットフォームです。そのため、オープンとは言え、アプリのマーケットやAndroidの仕様などはグーグルの方針で変わりますし、機能面の制約も発生します。平たく言えば、“グーグルの都合の良い仕様と環境”の中で、ドコモは自社に必要な機種開発やサービス展開を行わなければならないことになります。

通信キャリアであるとともにスマホサービス提供元であるドコモは、毎月の利用料などによる収益のほかにも、自社の独自サービスの収益拡大のための拡充も自由に展開できる環境を欲しています。

その答えの一つが、NTTドコモやサムスンなど多数の企業が参加して進められていた新しいプラットフォーム「Taizen(タイゼン)」です。NTTドコモは国内展開を踏まえた開発と製品化を計っていました。

しかし仮に、このTaizenを搭載したスマートフォンが製品化できたとしても、iOSやAndroidがそうであったように、デバイス自体が戦力となる製品になるまでには、少なくとも2〜3年の期間が必要となるでしょう。そして、もちろん本体だけでなく、アプリマーケットの構築や開発環境を成熟させiOSやAndroidに追い付くこと自体が高いハードルとなります。さらに、現時点においてこのTaizenは、詳細な展開が見えていません。

こうした状況を踏まえ、少なくとも向こう2〜3年、現在と同じような状況が続き、MNP(番号持ち運び制度)による転出(ポートアウト)に歯止めがきかなかった場合、いくらドコモとは言えども、相当な痛手となることは間違いありません。

加えて、投資家や株主からMNPによる転出に歯止めがきかないのはiPhoneを取り扱っていないことが要因ではないのか?と指摘されても、実際に取り扱っていなければ明確な回答はできません。

しかし、企業としては、できる限り投資家や株主の要求に回答を出す必要もありますし、その回答がTaizenではなくiPhoneになったのが今回のタイミングということでしょう。


■弱り始めた2社のタッグにシナジーは生まれるのか
こうしてアップルとNTTドコモはタッグを組むことになったのですが、少なくとも、アップル、NTTドコモのどちらとも、一時期の強い勢いがあるとは言えない状況です。そもそも、お互いに勢いがあれば、歩みよって手を組む必要もない両社が手を組んだことからも両社の勢いの陰りを感じさせます。

未来への大きな展望やチャレンジが見えないあたりが、“今さら”感を漂わせています。

9月30日に開催されたソフトバンクモバイルの新製品発表会で登壇した孫社長は「(ドコモがiPhoneを取り扱う時期が)2年前、3年前と早ければ早いほど我々も苦しかったかもしれない」というコメントを残していますが、この発言はまさに“今さら”を指摘していると言えるでしょう。

NTTドコモの目線で見れば、iPhoneは初動で安定した供給ができない製品で、専用サービスやアプリ開発という新規の対応が必要な製品でもあり、さまざまな部分で“特別扱い”しなければならないiPhoneは、できることなら扱いたくはなかったでしょう。

さらに何年もかけて“ドコモの仕様”にあわせてきた国内外のAndroidスマホ開発メーカーへの打撃も大きく、デメリットも目立つ印象です。

見方を変えれば、NTTドコモは、そこまでしても“今さら”iPhoneを取り扱わなければならいほど、危機的状態に陥っていることを、NTTドコモ自らが露呈してしまったようにも見えます。

いずれにしても、“ドコモのiPhone”は、当面、注目すべき製品なのは間違いないでしょう。


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