――本作は、マイケルが留学先で誘拐される所から物語が動き出しますが、我々が留学先や海外旅行で気を付けるべきことは何ですか?

テレンス・リー:本作にもジャンカルロ・ロッシというインターポール捜査官が出てきますけど、私はインターポールの資料を読んだことがありまして。よく海外旅行に行って、試着室に入ったまま出て来なくなったとかいう都市伝説があるじゃないですか。あれは都市伝説じゃなくて、ヨーロッパでもアジアでも、本当にそういう事件があるんです。試着室とかトイレの個室とか、女性がこつ然と姿を消すことが意外と多いんですよ。

実際に日本ではバブルの頃、一番多い時で年間2千何百人かが帰って来てなくて、海外で行方不明になっているんですよね。遺体が上がれば、殺人事件なので地元の警察も動くし、日本の大使館にも連絡が行って、すぐニュースになりますけど、消えた者に関してはニュースにならないんですよね。未だに年間何百人とか、多い時には千の桁の日本人が帰って来てないんです。「海外って怖い」とか言うと旅行代理店に怒られちゃうけど(笑)、気は抜いちゃいけないと思います。

――誘拐されないようにするためには、どうすればいいですか?

テレンス・リー:日本人は呼吸が合ってないから、絶対に狙われますね。例えば日本人も、同じ東洋系で中国人と韓国人は見分けがつかないじゃないですか。彼らが観光客だと分かる場合は呼吸、リズムが違うからなんです。でも、海外の人って割とその場所のリズムに合わせるのが上手いので、韓国人とか中国人が日本に来ても、言葉を発しない限り分からないんですよ。でも、日本人はリズムが違うから、すぐバレますね。

NYにはNYの、ロンドンにはロンドンのリズムがあって、それに合わせていると、地元に住んでる日系人か東洋人にしか見えないから、絶対に日本人観光客だってバレないです。街には街の流れがあって、それと違う流れをしていると目立つんですよね。海外で犯罪に巻き込まれたくなかったら、半日は無駄にした方がいい。カフェでも、ホテルの部屋の窓からでもいいけど、ずっと街を眺めていると、その街のリズムがつかめてくるんです。人の歩き方のテンポが分かるんですよね。それに合わせて歩いていると、絶対に犯罪に巻き込まれないですね。

――「リズム」とは、具体的には何でしょうか?

テレンス・リー:これも抽象的ですけど「呼吸」ですね。その国独特のリズム感ってあるんですよ。例えばアメリカ人の歩き方は、リズム&ブルースとかジャズのリズムですね。日本はどうしても演歌か民謡なんですよ(笑)。朝のバタバタしている新宿とか品川だって、アップテンポの「会津磐梯山」か「津軽じょんがら節」なんです。自分達の生活に根ざしたリズムで生きているから、ロックの中にいきなり「じょんがら節」が入ったら、テンポは似てても目立ちますからね。

――危機管理コーディネーターのテレンス・リーさんから見て、我々現代人はどんなことに気を付けて生活すればよいでしょうか。

テレンス・リー:現代社会で最も難しいことの一つは、人間関係なんですよ。防災にも防犯にもつながるんですけど、マンションでも、戸建ての住宅街でもいいですけど最低限、隣近所と仲良くしてないと、何か起こった時に本当に困りますよね。例えセールスマンでも、知らない人が来れば、外部からの侵入者として分かるので、泥棒も賊も容易に入ってこない。「挨拶をしましょう」とか「ご近所付き合いを大事にしましょう」とか昔から言われていたけど、安全に生きられるから、防犯と防災のために必要なんです。今の人はそれを分かってないと思う。ご近所トラブルを避けるためとか、本当はそういう意味じゃないんです。

私が子どもの頃は、隣近所で夫婦喧嘩やっていたら誰かが仲裁に行きましたよ。音もダダ漏れの時代だったし、今みたいに音が漏れない住宅の設計ではなかったので。でも、そのおかげで事が大きくならない訳です。今、隣の家で奥さんが旦那さんを刺して殺しちゃったとか、そういうことが起こるのは、現代社会の病巣だと思います。

そういうことが日々ニュースで取り上げられるのは、人間関係が希薄だからです。濃ければいいものでもないから、上手な間合いも必要で、あまり土足で入り込むような真似をしても、トラブルの原因になってしまうけど。頃合いをつかんだ人間関係があれば、おそらく犯罪や、色んなネガティブな要素が減ると思いますね。だけど、隣近所も全然知らないで、地震が起こった時に「広域避難場所はここです。この体育館でみんなで生活しましょう。」と言われても、3日と保たないです。「そういうことを考えて、生きているのか?」と言いたいですね。

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