――ベッカ役を演じたアシュレイ・ジャッドに対する印象は如何でしたか?

テレンス・リー:私、アシュレイ・ジャッドが好きなんですよ(笑)。代表作と言えば『ダブル・ジョパディー』とか『コレクター』だけど、私の世代は『ヒート』とか、デビューしたての頃は『スモーク』という映画に出ていましたよね。アシュレイ・ジャッドは、アメリカ美人の典型みたいな人ですから、年を重ねて、ますますイイ女になりましたね(笑)。

役柄の話では、劇中でCIAの人間が彼女について調べたら、情報がほとんど無くて、「大物ほど情報が少ない」というセリフが出てきますけど、全くその通りで。情報がいっぱいあるヤツは大体小物ですから、彼女のキャリアを如実に表していますよね。ドラマの中では彼女が過去にどういうミッションをやってきたかという情報がほとんど出てこないけど、にも関わらず、エピソードが進んでいくにしたがって、相当なエージェントだったというのが分かるし、色々な想像もできるから、出さないのが正解だと思いますね。

――彼女のアクションについては如何でしたか?

テレンス・リー:あれは「クラブマガ」というイスラエルの護身術ですね。スタントマンもいたんでしょうけど、アシュレイ・ジャッド自身も相当やったんでしょう。上手に出来ていましたね。

――どこの国の武術か、見て分かるものなんですね。

テレンス・リー:例えば、相手の殴り方とか銃の奪い方は、大体どこで教わったか分かるんですけど、これは間違いなくイスラエルですね。諸説あるんですけど、いわゆる諜報機関員と特殊部隊員が使っている護身術には出発点が2つあって、1つがイギリスの特殊部隊SASで、もう1つがイスラエルの諜報機関モサドと言われています。諜報機関員が身に付けるべき護身術と、特殊部隊員が身に付けるべき護身術は被っている部分もあるんですけど、割と違うんですよ、使う場所が違うから。早く言えば室内で使うか、戦場で使うか、相手との距離が違うので。本作はその辺でもリアリティがありますね。

――元傭兵のテレンス・リーさんから見て、ベッカに共感したことはありましたか?

テレンス・リー:“人は信用できない”というのが、すごく共感しましたね。

――ベッカはマイケルを自ら救出すべく行動しますが、もしテレンス・リーさんがベッカの立場に置かれたら、どうしますか?

テレンス・リー:私は年齢的にも肉体的にもベッカと同じことは出来なくなっているから、自分の出来ることはするけど、それ以外は自分の持っている世界中の全ての人脈を総動員するでしょうね。

――やっぱり警察には頼らないですか?

テレンス・リー:ベッカと同じで、スキルと人脈があったら多分、自分でやると思いますよ。彼女の個性を際立たせる意図があったか分からないけど、こういう仕事をしていたら、人を信用しないでしょ。捜査機関に委ねたり、仲間に任せて「息子を救ってくれ」という発想は、私も出てこないと思いますね。

――夫を亡くし、愛する息子のために孤軍奮闘する母親のベッカは、女性の活躍が目覚ましい現代社会にも通じる部分があると思いますが、戦う女性たちに向けてメッセージを頂けますか?

テレンス・リー:今でこそ言われなくなったけど「お局様」とか、「結婚適齢期」という言葉がありますよね。この国の不幸な側面って、社会が女性像を決めつけ過ぎている所だと思うんですよ。教育制度もそうなんですけど、例えば欧米では、高校を卒業した後に、就職をして、ある程度落ち着いた所で大学に入ったりしますけど、日本では絶対に許されないでしょう。中学2〜3年の3者面談で「進路」と言いながら、高校に行くことを相談して、職人になる選択肢は全く無いんです。でも、欧米諸国は選択肢が極めて多いから当然、女性に対する選択肢も沢山与えられますよね。その違いだと思います。日本は、“こうあるべき”という“べき論”が多すぎる。

今の日本の女性は“べき論”で生きていたら、絶対に幸せにはなれないと思うんですよ。いつまでに結婚すべきとか、結婚相手はこういう人であるべきとか、何歳ぐらいに35年ローンで家を買って、子どもをお受験でこういう所に行かせるべきとか、そういうことを言っている内はダメ。アメリカ人だからと言えばそれまでだけど、ベッカは多分そういうこと言わないから、マイケルのような良い子が育つ訳です。

――テレンス・リーさんは、身の周りにベッカのような強い女性はいますか?

テレンス・リー:みんな怖いですよ。女性は怖くないと面白くないと私は思っています。猟奇的なぐらいの方が、女性って可愛いじゃないですか(笑)。

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