31日(水・現地時間)、ニューメキシコ州アルバカーキのサンタアナ・スターセンターで開かれるBellator 97。メインの世界ライト級選手権マイケル・チャンドラー×デヴィッド・リッケルス以外にも、同大会ではウェルター級の世界戦=ベン・アスクレン×アンドレイ・コレシュコフの一戦が組まれている。

北京五輪フリースタイルレスリング米国代表から、2009年2月にはすでにMMAデビューを果たし、同年9月のアブダビコンバット世界大会に出場しているアスクレン。ダブルレッグ、シングルレッグ、ボディロックにベリートゥベリー・スープレックスと、あらゆるテイクダウンをケージ内で披露し、キャリア4戦目からベラトールで戦うようになり、6戦目でシーズン2ウェルター級トーナメントを制すると、7戦目でライモン・グッドを破りベラトール・ウェルター級の頂点に立った。

以来、ニック・トンプソンとのノンタイトル戦を挟み、ジェイ・ヒエロン、ドゥグラス・リマ、カール・アモゾーを相手に防衛戦に成功してきた。前述したようにアスクレンはテイクダウンには絶対の強味を持つ。シングルレッグでは前方に押し倒す、引き抜いて倒すだけでなく、相手の足を挟んでいない時でも、重心移動を察知し、どの方向にもテイクダウンを奪うことができる。ボディロックも腰をコントロールし、リフトして落すケース、インサイド&アウトサイド・トリップでも倒すなど、非常に豊富なテイクダウン・レパートリーの持ち主だ。

そのテイクダウンと並んでアスクレンのMMAキャリアを支えているのは、スクランブルの攻防の強さだ。彼自身、五輪出場を果たしたフリースタイルよりも、フォークレスリング(いわゆるカレッジスタイル)の方が体に馴染んでいることを公言している。NCAAを2度制し、オールアメリカンは4度、つまりアスクレンはミズーリ大在学中、常にオールアメリカン・レスラーに選出されていたこととなる。

スタンドの打撃をまるで重視しておらず、その発言もファンの好みを逆なでするような発言も少なくないために、退屈なファイターという烙印も落されていることも否定できないアスクレンだが、グラウンドではポジションを変え、パスやマウントから肩固めの移行など、実は積極的な動きを見せている。故にポジションを譲ることもイメージよりは、少なくない。

ただし、寝技で下になったり、ガードからの関節技の仕掛けに対し、攻め込まれたところからのエスケープ能力はまさに一級品だ。サイドを取られてなお、上体を起こしワキを潜ってバックに回る動きなど、早々目にできるモノではない。キムラの潰し、オモプラッタへの対応など、危機管理能力こそアスクレンの最大の長所といえるだろう。

そんな難攻不落の王者に挑むコレシュコフ。MMA13連勝のストライカーだ。パンクレーションでの実績も持つが、バックグラウンドは明らかに打撃だ。後ろ回し蹴りやヒザ蹴りも駆使し、ワンパンチKO能力も持つ。接近戦でも遠い距離も、試合を組み立てることができるコレシュコフだが、アスクレンのテイクダウン能力の高さの前には、これまでのように自分のスタイルを貫くことは難しいだろう。

倒されて、いかに立ち上がることができるか。そして、その繰り返しのなかで自らが疲弊しながらも、組み際や間合いを覚え、パンチや蹴りを入れる必要がある。テイクダウン+スクランブルという現代MMAの軸の部分でスバ抜けて強く、打撃に色気を出さないからこそ、アスクレンの強さは際立っている。その強さに対して粘ることができ、一発ヒットさせればコレシュコフは一気に試合の流れを自分のモノにすることができる。それだけの威力を彼の打撃は秘めている。博打のような戦略かもしれないが、博打をするにも組まれたなかのでベースとなる技術を身に付けているかどうかで、半か丁か――さいころの目の出方は変わってくる。