小堺一機がおすすめ映画をナビゲートする、CS映画専門チャンネル「ムービープラス」のオリジナル番組『プレミア・ナビ』。この番組の5月のゲストとして、フリーアナウンサー徳光和夫が出演する。ふたりが語り合う作品は、モーガン・フリーマン主演、クリント・イーストウッド監督作の『インビクタス/負けざる者たち』(2009年)。本作は、南アフリカ大統領ネルソン・マンデラと、同国のラグビー代表チームの主将との人種を超えた友情を描く感動作だ。 番組の収録後、自身もイーストウッドの大ファンだという徳光和夫にインタビューし、本作の見どころを語ってもらった。

――まずは、映画を見たご感想から聞かせてください。

この映画を見て、初めてこの史実を知りました。ラグビーを通して、黒人と白人を結びつけるなんてすごいことです。白人にとって、ラグビーは英国のスポーツの代表で、象徴じゃないですか。でも、アパルトヘイト政策の下、黒人たちにおけるラグビーは、屈辱、侮辱、憎悪と一緒の意味なんです。その象徴と憎悪を、マンデラが見事に融合させました。“災い転じて福となす”で、スポーツを通じてお互いが自然に歩み寄りを見せる。すなわち、彼はスポーツで国家をまとめていくんです。アメリカンフットボールやサッカーではなく、ラグビーでまとめることが最大のチャンスであると考えたマンデラは本当に偉大です。

――ラグビーでなければいけなかったということですね。徳光さんが考えるラグビーの魅力はどんなところですか?

ラグビーというスポーツにはヒーローがいないんです。ただ、隣を走っている人間のために良いボールを投げるというスポーツですから。そういえば、昨年のジャイアンツは、ラグビー野球でした。次の打者に対して、自分が何をすればいいのかを考えてプレイし、それがつながって、勝ち進んでいく。まさにそれは、ラグビーの精神だと思いました。

――ネルソン・マンデラ役のモーガン・フリーマンが素晴らしかったです。

モーガン・フリーマンは名優だけど、これほどまでネルソン・マンデラになり切れるとは! マンデラがモーガンに乗り移ったんじゃないかと思うくらい、彼は崇敬の念を持って、マンデラになりきる以上のものを見せてくれました。そして、監督がクリント・イーストウッド! モーガンがイーストウッドに監督を頼んだらしいですね。

――ネルソン・マンデラはまさに理想的なリーダーですね。

リーダーは、時代と関係がないってことをマンデラが教えてくれます。マンデラは27年間投獄されたことで、全てを超越したんじゃないかなと。「私が私の運命の支配者である」というマンデラの名セリフがありますが、これって日本で言うところのある意味“悟り”だと思います。南アフリカを変えるために、自分がリーダーとして76歳で帰ってきた。でも、あの投獄生活がなければ、ここまですごい人にはなっていなかったんじゃないかなと。本来なら憎むべき白人たちの心をも動かしたわけですから。彼は勇気ある決断ができる、本当のリーダーだと思います。だから、この映画は中間管理職の方や政治家に見てもらいたいし、学校でも上映してほしいです。

――イーストウッドが監督したことにより、非常にバランスの取れた感動作となりました。

他の監督が撮ったら全然違う映画になったかもしれないです。本作は、見事なほどにヒューマニズムのドラマとなり、同時に歴史的な事実もちゃんと伝える映画になりました。中にはフィクションなんじゃないかと思える部分もありますが、資料を読んでみるとすべてが史実に沿っていて、しかもあまり加工せずに伝えているんです。でも、ちゃんとヒューマンタッチの映画に仕上がったのは、モーガン・フリーマンやマット・デイモンの演技力もさることながら、イーストウッドの演出力によるものが大きかったんじゃないかと思います。