■実用ロボット:ヒットの火付け役は共働きファミリー

米国アイロボット社製のロボット掃除機「ルンバ」が日本にお目見えしてから10年たつ。円盤型で、ボタン1つを押すと、触角のようなブラシを震わせ、部屋中を動き回り、床をきれいにする姿はなかなか愛嬌がある。

こうした「あったらいいな」という電気製品を“オプション家電”と呼ぶ。だが、ルンバが身近な実用ロボットになっていることは、04年から日本での正規総代理店を務めるセールス・オンデマンドが、昨年8月までに35万台を売ったことでもわかる。

最初、同社はルンバを百貨店の外商部に売り込んだ。当時は1台10万円ほどで、富裕層を狙う戦略だった。それがいまでは家電量販店の掃除機売り場にも並び始めている。

「珍しい外見なため『これ何だ?』と思われるなか、アーリーアダプターといわれる情報感度の高い人たちが購入した。彼らはインターネットをよく利用しており、クチコミサイトに『出かけている間に部屋がきれいになっている』などと書き込み、それがきっかけで憧れの家電として火が付いた」と営業部販売企画課長の二木晋氏はいう。

そのアーリーアダプターのメーンが共働きや小さい子供のいるファミリー層で、そこには団塊ジュニアも含まれる。インターネットの普及と大学生時代が重なる彼らは、ネットを情報収集手段として活用しており、ピタッとはまったわけだ。

「電気掃除機の市場は年間550万台といわれており、できればその1割を取りたい。人口の多い団塊ジュニア世代は、これからもターゲットであり続ける」と二木氏は強気の姿勢を見せる。

■子連れ母の財布:表参道ヒルズを賑わすベビーカーマダムたち

オープンから7年余りがすぎた「表参道ヒルズ」。ファッションの中心地という好立地も手伝って、30〜40代の女性たちで賑わっている。そのなかで目を引くのが、ベビーカーを押す子連れの母親の姿だ。森ビル営業本部の穐山壮志館長は、そのことに開館2年目から気づき始めた。

「本格的なトレンドになるという手応えがあり、09年の春に『キッズの森』を開設した。彼女たちのニーズに応えるべく、空間の一部に明るく広々とした授乳施設や遊び場を置き、子供向けブランドのテナントを誘致した」

キッズの森のリアルターゲットはまさしく“ベビーカーマダム”だ。考えられる集客エリアとしては、施設のある東京都渋谷区を含めた港、千代田、中央、目黒、品川の6区。面白いことに、この6つの区の子供の数が増えているのだ。団塊ジュニア世代が結婚して、この地域に住まいを購入し、子供が誕生しているからである。

場所柄、女性利用者は30〜44歳の年齢層が多く、男性客を含めた全体の3分の1に達する。しかも、彼らはほぼ例外なく富裕層に属する。実際、そうした母子連れは外車で来て、買い物や食事を楽しむ。「来店頻度は月に1、2回といったところ。自分のファッションと同じように子供服にもこだわりを持ち、自分たちと同じ10万円前後のものでも購入していく」(穐山氏)。

子連れ母の財布の紐は緩いうえに、買い上げのリピート率も高く、会員カードのデータからの推計では年間約8回という結果が出ている。将来にわたって有望な顧客層であり、穐山氏は近隣の子供向け商業施設ともタイアップしたイベントの開催も決めている。

■磨けば光る自分:氷河期世代が頼る資格の取得

不惑の40歳をはさむ団塊ジュニア世代は「氷河期世代」ともいわれ、過酷な就職戦線を経験してきた。それだけに、仕事を維持することへの危機感を少なからず持っている。そのことは、管理職に登用されても「このままでいいのか」といった自問自答につながり、「磨けば光る自分」を探そうとキャリアアップへの意欲を高めている。

社会人向けの通信教育がメーンのユーキャン教育事業部の加藤肇部長は「自己研鑚をしているといっても成果は測れない。その点、公的資格を取得できれば過去の成果や現在の努力などが裏付けられる。社内での評価につながり、転職、独立にも役立つ」と話す。

そうはいっても、仕事と家庭があるので、学生時代のように十分な勉強時間は取りづらい。そこで比較的合格を狙いやすく、社会的認知度もある資格に挑戦する傾向が強い。例えば、ユーキャンで人気のある講座を男女別に列記すると、まず男性は社会保険労務士、宅地建物取引主任者、行政書士、マンション管理士。一方の女性はケアマネジャー、介護福祉士、介護事務、保育士といったところである。

「男性はサムライ系、女性は福祉系の資格志向が強いともいえるが、社労士は男女ほぼ半々、行政書士も6対4でやや男性が多い。ケアマネジャーあるいは介護福祉士は、看護や介護に従事している人たちが、現場での必要性を感じて取得している」(加藤氏)

ここでも団塊ジュニアの意欲が目立つ。いずれの資格も35〜44歳の層の占有率は3割前後に達する。しかも、人気講座の対前年申し込み数比率は、社労士が12%増、ケアマネジャーが7%増。今後、団塊ジュニアが年を重ねたとしても、このトレンドはしばらく続いていくと見ていいだろう。

■イクメンの財布:抱っこ紐にバギー。惜しむことのない出費

公園やショッピングセンターなどで、積極的に育児に関わっている男性たちがいる。俗に「イクメン」と呼ばれるが、その大半は30代で比較的晩婚な団塊ジュニア世代だ。そんな彼らに好評なのが、ダッドウェイが08年から市場に投入している抱っこ紐「エルゴベビー」である。幅広のウエストベルトが幼児をしっかりと支えるので、父親でも抱きやすく、ここ1、2年は対前年比150%も伸びている。

「赤ちゃんのお尻をすっぽりと包みこんだうえ、幅広のウエストベルトでホールドするので、抱っこしたときに安定感があるなど機能的であるところが、とくにイクメンのお父さんたちに評価されたようだ。ママとは別に自分専用のものがほしいからといって購入されていく方も多い」

このように語るのは、同社経営企画室広報チームリーダーの日丸邦彦氏だが、当初から「商品ありき」の姿勢を貫いてきたという。共通するキーワードは「快適化」と「楽しさ」であり、それらを使うことで子供と一緒にいる時間を長くして、コミュニケーションも図れる。

欧米のグッズを輸入して紹介する商品のラインアップも、玩具、哺乳瓶や離乳食用の食器、ベビーバギーなど約2000アイテムに及ぶ。なかでも、エアタイヤ仕様の英国製のバギーは4万〜7万円と高め。ライトなどのオプションを組み合わせてオリジナルにするためには金を惜しまない。やはりイクメンの財布の紐も緩みがちだ。

今年20周年の同社では「お父さんの子育てをもっとおもしろく楽しくしたい!」をモットーにしている。物だけでなく、イベントも含めた情報発信をしていく計画だ。そのことは、父親の笑顔を呼ぶ戦略でもある。

■6ポケッツ:小学校での英語必須で高まる祖父母の応援熱

日曜日午前中の川崎市内の公共施設のホールの舞台で、未就学から小学校低学年の子供たちが楽しそうに動き回っている。言葉はすべて英語。ドラマを通して英会話を学ぶモデル・ランゲージ・スタジオ(MLS)の12年度バイリンガル発表会の光景である。

その主旨について語学事業教務部ジェネラルマネージャーのジェフ・フチーロ氏は、「英語を話す自信と勇気を持ってもらうことが目的。舞台では、大きな声で発表する、自己紹介をきちんとする、元気に楽しみながら演技をすることが目標だ」と説明する。

この日、子供たちは幼稚園の仲間と遠足に行き、なんとバスが不思議な国に着いてしまったという想定で、日頃から学んだ英語のフレーズを一生懸命声に出していた。それを観客席から熱心に眺める両親と祖父母たちがいる。

そのなかには、4歳になる孫を観るために世田谷区から足を運んだ祖父母の顔もあった。いま62歳だというA氏は団塊シニア。孫の晴れ姿を一目見ようということなのだろう。そんなA氏は「英会話教室の受講料はけっして安いものではない。うちの孫の場合、ワンレッスン2時間、年72回でひと月2万4420円になる。子供たちの家計もそう余裕があるわけではないので、可愛い孫のために私が全額払っている」と当たり前のようにいう。

このA氏の場合は1人の祖父だが、一般的に両親と4人の祖父母で、財布が6つあることを「6(シックス)ポケッツ」という。その潤沢な資金が孫の教育や稽古事、高額玩具やレジャーに回される。特に英語学習は、国際化が叫ばれ、11年度からは小学5、6年生で英語が必須になった。MLSのような幼稚園からの英会話教室には追い風で、6ポケッツのサポートも大いに期待できそうだ。

■「子供」を突破口に消費を活性化

団塊ジュニア世代とは一般的に71〜74年に生まれた人たちを指す。この4年間は毎年の出生数が200万人を超え、「第2次ベビーブーマー世代」とも呼ばれる。そして、この世代は団塊の世代と同様に、人口の“ボリュームゾーン”となっている。それゆえ、現在、そして将来の消費も動かす魅力のある人たちといっていい。

三菱総合研究所は毎年「3万人調査」で日本の生活者市場を読み解いており、主席研究員の高橋寿夫氏は「就労環境が厳しく、特に男性では非正規社員が11%に達しているので、団塊ジュニアを『氷河期世代』と定義付けた。所得も低く、ひと月の小遣いも男女含めて3万3000円ぐらいで、切り詰め型の消費になっている」と語る。

しかし、それはあくまでも平均像でしかない。中堅の管理職に就いていく時期を迎え、それなりの年収も得ている団塊ジュニアたちも少なくない。こうした層に目を向けないとビジネスチャンスを見逃すことになる。

具体的なターゲットは独身者や共働きの団塊ジュニアたちだ。この世代の未婚率は意外と高く、男女合わせると30%台後半という数字が出る。独身は生活コストが夫婦で子供がいる世帯ほどはかからず、共働きなら収入は夫婦2人分で、可処分所得が高い。

高橋氏も「最近、東京の有楽町にオープンした『阪急メンズ館』などは、40代男性をメーンターゲットにしている。高級ゴルフクラブや20万円ぐらいするマウンテンバイクが売れている。団塊ジュニアといっても、収入、既婚・未婚といった要素を細分化して市場戦略を考えるべきだ」という。

マーケティングの活路を探すなら、団塊ジュニアたちの小学校に入る時期を迎えている“子供”になるだろう。そこから出てくるのが「親子2世代消費」とか「食育」「習い事」といったキーワードである。そこで彼らの消費をいかに活性化させるかということが、企業の必須戦略になる。

(野澤正樹、岡村繁雄=文)