駅を降りてスタジアムを目指す。この瞬間の気分は上々だ。隠しきれない高揚感に襲われるものだ。

 世界クラブW杯。この大会は日本で開催されるスポーツイベントの中で、もっとも国際的で、スケール感のあるイベントだ。ご承知のようにトヨタという日本が誇る大企業がスポンサードする冠イベントでもある。どこか華やかで、試合のグレードも高い。スタジアムに、それに相応しい魅力があれば、半端ではない高揚感に襲われること請け合いだ。

 舞台の魅力が高揚感に拍車をかける。コンサートや演劇などにも当てはまるが、これは、けっしてプラスアルファの魅力ではない。入場料に組み込まれたものだ。入場者が座席に着席した瞬間、入場料の何パーセント分満足できるか。僕の場合は50%が境界線になる。試合の内容がイマイチでも、それが50%を超えていれば、観戦に出かけたことを後悔せずにすむ。

 コリンチャンス対チェルシーの決勝戦は、両者互角。内容的には接戦で、そうした意味での満足度は高かった。エンタメ度80点と言いたくなるが、エンタメ性のベースとなるスタジアムの魅力を掛け合わせると、総合的なエンタメ度は80点以下になる。

 よいものがよく見えないスタジアム。横浜国際競技場を一言でいえばそうなる。アクセスの悪さ、ロケーションの悪さ。そして何より見にくい。観戦環境は著しく悪い。

 ピッチまで恐ろしいほど距離が遠く、スタンドの傾斜角も緩いので、1階席にある記者席からピッチを望む視角はほぼフラットだ。臨場感も味わえなければ、サッカーのゲーム性も楽しめない。これまで何百、何千(?)というスタジアムで、僕はサッカーを観戦してきたが、その中ではワースト。世界一の見にくさだと断言したくなるスタジアムだ。そこでクラブ世界一を決める大会が、何度も開催されてきたわけだ。

 何をいまさら、と突っ込まれそうだが、全国的に見れば、これは知る人ぞ知る域を脱し得ない話。実際、メディアはこの笑えない話について、これまでほとんど言及してこなかった。このすばらしいトラック付きのスタジアムで何度、陸上の国際大会が開かれたというのか。

 スタジアムの善し悪しというのは、言い換えれば、お客さんを招きする、もてなしの精神とも深い関係がある。ホテルや旅館に通じる使命がある。欧州にはUEFAが、スタジアムにホテルと同じような格付けを行っていて、チャンピオンズリーグ決勝は、5つ星スタジアムでなければできない決まりになっている。

 横浜国際もある意味で立派なスタジアムではある。5つ星に相応しい威圧感がある。だが、そこに人が集まると評価は一変。それは利用者にとって、限りなく使い勝手の悪いものになる。ホテルや旅館なら、いちばん宿泊したくないタイプといえる。

 この大会には外国人もたくさん訪れる。おもてなしの精神を発揮するにはまたとない機会だ。報道関係者も遠路はるばるやってくる。僕たちが欧州へ取材に行くのと逆のパターンなので、迎え入れられた側の視点に立ってものを見てしまうのだが、すると違いは一目瞭然。粗は目立つ。海外の取材現場では、報道陣にも食事が当たり前のように振る舞われる。試合のない日に練習を取材に行っても振る舞ってくれるクラブさえある。

 日本代表が遠征に行った場合も同様。日本の報道陣はスタジアムでその歓待を受ける。韓国、オマーン、フランス……アウェイ戦だけではない。日本が10月にブラジルと戦ったヴォロツラウ(ポーランド)でも、岡田ジャパンがガーナと戦ったユトレヒト(オランダ)のような中立地帯のスタジアムでもそうだった。お招きする側の使命、常識として浸透しているのだ。