クライマックスシリーズ敗退後、渡辺久信監督と涌井秀章投手の間に話し合いが持たれ、来季、涌井投手が再び先発に復帰することが確認されたようだ。当然と言えば当然の流れだとは言えるが、しかしこうして明言してもらえることでファンとしては安心感を覚えることができる。今季は最初から最後までエース不在で戦わざるを得なかったライオンズではあるが、しかし来季は同じ轍を踏むことはないだろう。ローテーションはエースを中心として回され、シーズンもエースを中心にして勝ち星を増やしていくはずだ。

細かいことを話す前に、まずは今季の涌井投手の成績を確認しておきたい。トータルでは1勝5敗30Sで防御率は3.71だった。3.71という数字は涌井投手としては物足りない数字ではあるが、しかしシーズン途中から守護神を務めたということを考えれば、30Sというのは本当に素晴らしい活躍だったと言える。今季セーブ王に輝いたファイターズ武田久投手が32Sだったことを踏まえれば、もし開幕当初から守護神を務めていれば、間違いなく32Sは超える結果となっていただろう。

30Sという立派な数字を挙げて、これから気になってくるのが涌井投手の年俸の変動だ。涌井投手は今季2億1千万円をもらっていた。今オフの年俸は今季の数字、つまりインセンティブによる振り幅が大きくなると予測されるが、しかし昨オフ、涌井投手に付けられたインセンティブは先発投手としてのものがほとんどだったはずだ。これを考えると、30Sという数字を挙げていたとしても、大幅な年俸アップは期待できないだろう。そして場合によっては年俸がダウンすることも考えられ、上がったとしても微々たる額であるはずだ。結果的には恐らく現状維持付近で金額は落ち着いていくと思う。

普通に考えれば30Sという数字は、年俸が大幅に上がって然るべく数字だ。しかし涌井投手の場合はエースとしてチームに貢献することができず、それどころか先発としても失格の烙印を捺され、さらにはプライベートでのトラブルにより長期間のファーム降格、そして試合出場禁止処分が球団から課せられた。これらを振り返ってみれば、今オフは現状維持でも御の字と考えるべきだろう。

今季の先発投手としての涌井投手の成績は、0勝3敗、14回、12失点、防御率7.74というものだった。開幕戦は4回5失点KO、2戦目は7回3失点、3戦目は3回4失点KOと、投げては打たれるの繰り返しだった。この3試合に関しては、エースとしての涌井投手の姿はまったくなく、まるでローテーションの谷間の投手が投げているかのような空気感が漂っていた。だが結果云々ではない。問題は涌井投手のボールにまったく力感がなかったということだ。渡辺監督も結果云々ではなく、ボールのひ弱さを見て涌井投手の2軍降格を決断した。

しばらくして1軍に戻ってくると、涌井投手は先発としてではなく守護神として起用された。筆者個人としてはボールに力が戻ってきたオールスター明けから、涌井投手は先発復帰するのではないかと見ていた。しかしここはさすが忍耐力のある渡辺監督だ。エース不在という苦しいチーム状況にあるにも関わらず、起用方法を二転三転させず、涌井投手を最後の最後まで守護神として起用し続けた。シーズン途中、渡辺監督は幾度も涌井投手の先発復帰の可能性を口にしていた。シーズン最後までリリーフで使うことはない、と明言していた。つまり渡辺監督としては、1日でも早く涌井投手を先発に戻したかったはずなのだ。だがそれに待ったをかけ、渡辺監督を説得し、涌井投手を最後まで守護神として起用し続けたのは杉本正投手コーチだったのではないだろうか。