NHKのスタジオは松尾キャスター、解説は山本昌邦。この人は「泣きの山本」。苦しいときには悲壮な声になる。的確な解説は随一だが、鼓舞することができない。だからスタジオにいるのかなと思う。

中継もNHK。注目の34歳差コンビ、工藤三郎アナ&山岸舞彩。肩幅は山岸の方が広い。山岸は少し風邪気味か。鼻が詰まった声。スタジオの53歳の山本昌邦に「マサクニさん!」と呼びかける。テンションが変な方向に行っている。

ピッチの実況はNHKの曽根優アナ。解説は長谷川健太。
曽根アナは物事を正確に伝えることが出来る技術力の高いアナ。長谷川健太は、当たり前のことしか言わないが、べらんめぇ調(静岡出身だが)で聞かせる。

キックオフ。日本とスペインの体格差はそれほどない。

長谷川「スペインのフル代表は、真ん中、潰しきる力あるが、U23その力ないですね。中締めることが大事です」

この時点で誰も勝つとは思っていなかったのだ。

17分、ゴールに攻め込んだが一転、スペインの攻勢に。

長谷川「ここ、ちゃんと切り返せよ!」

ついつい解説を忘れる。

しかし、序盤から日本の動きはすばらしくいい。再三スペインゴールに襲いかかる日本。

長谷川「こんな堂々と試合に入った大会って、無いんじゃないかなあ、どこか少しビビッて試合に入ることが多かったですから」
曽根アナは、優秀でわかりやすい中継だが、やや口数が多い。NHKの大先輩たちのように、間を作ることが出来ない。名セリフがないのが惜しい。

そしてついに、34分、大津のゴール。 
曽根アナ「中央に来た、決まったー!」

初めて熱くなる。でも次の瞬時にはふつうの口調に。驚異の冷静さだ。もう少し喜んでもいいと思うが。
長谷川「これは関塚監督、うれしいんじゃないですか」
大津を起用した采配をたたえる。
長谷川「いやー、日本が先制するなんて誰も思ってないんじゃないですかね」

その通り。41分 永井に対するラフプレーでレッドカード イニゴ・マルチネス退場。

長谷川「これは完全にレッドですよ!」完全にサポーターの乗り。

ハーフタイム。

山岸「永井選手のスピードが生きているなあ」
工藤「そうですね、長いが裏側に入るのをスペインは本当に嫌がっています」

本格的に解説したくて仕方がない工藤アナだが、持ち時間はこれでおしまい。今回は肩幅のでかいお姉ちゃんの相手をするだけ。気の毒な役割だ。

後半戦、いきなり東のシュート、GKデヘアがスーパーセーブ。
長谷川「もう少し上なら入ってましたね」
近所のおじさんでも言えるコメントだが、気分はそれほど上ずっているのだ。

57分。永井、落ち着いてシュートするもわずかに外れる。

長谷川「シュートは悪くないんですがね、決めたいなー」
長谷川「このチームはここにきて、ぐっとよくなってきましたね」
また東のシュートが際どく外れる。
長谷川「こういうチャンスを外しているとスペインもワンチャンス決める精度がありますからね」

60分。齋藤学にイエローカード。
長谷川「疲れが目立ちますからね、踏ん張らないと」
最終ラインが下がってくる日本 疲れが見えてくる。
75分。長谷川「あと15分ですよ、15分」

このころから、長谷川健太は頭に浮かんだことをそのまましゃべるだけになる。でも、日本人はみんなそんな感じになっているので、違和感はない。
83分。
長谷川「スペインに国際大会で勝つのは初めてですか」
長谷川健太、それを言ってはいかんのだ。その瞬間に勝利の女神が逃げるのだ。会場から「おー日本」の声援と手拍子。日本は次々とスペインゴールに襲い掛かるが、きわどくゴールを外す。

ストレスがたまりまくる。
90分。ロスタイムは4分
長谷川、曽根「長いですね」
その通りだ。

日本のA代表はこういうタイミングから、勝利を何度も逃してきた。信用できないのだ。ベンチで祈る大津の顔。関塚監督は声をからす。清武がボールを持って時間稼ぎをするうちにホイッスル。スタジオも大喜びだが、山本昌邦は、沈鬱な顔。これでも喜んでいるのだ。

現地に画像が切り替わる。
しかし、音声が切れている。
それと知らずに工藤アナは、胸を押さえて感に堪えたように話し続ける。59歳のこの名アナウンサーが、今回の勝利の大きさを一番知っているのだ。その表情を見ているだけで、十分に満足した。