5月11日の日経平均株価が8953円と、終値で9000円割れをした。2月14日に事実上のインフレターゲットを導入し、1カ月後の3月14日には1万円を超えた株価が完全に元に戻ってしまった形だ。
 メディアは、フランスで社会党党首のオランド氏が大統領選挙に勝利したことなどで、欧州債務危機再燃するとの懸念が株価を下げたとしている。まったくその要素がないわけではないが、3月14日から5月11日までの株価の変動率は、日本がマイナス10.9%なのに対して、アメリカは2.8%に過ぎない。つまり、日経平均が下落した大部分の理由は、日本に原因があるのだ。もちろん、原因を作ったのは日本銀行だ。

 日銀は4月27日に「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を発表した。これによると、生鮮品を除く消費者物価の上昇率は2012年度がプラス0.3%、13年度がプラス0.7%との見込みだ。1%という目標を掲げながら、今年度も、来年度も、その達成ができないという見通しを出したのだ。あまりに無責任というべきだが、日銀は「有言実行」だった。
 2月に前年同月比11.3%増だったマネタリーベース(現金+日銀当座預金)の伸び率は、3月はマイナス0.2%、4月はマイナス0.3%だった。日銀は金融緩和でデフレ脱却を図ると言いながら、実際に行ったのは強烈な金融引き締めだったのだ。インフレターゲット導入宣言で為替は大きく円安に向かい、株価も1万円台まで上昇した。日銀は、「これはマズイ」と思ったに違いない。

 何故なのか。その答えは、野田総理の口から語られた。
 社会保障と税の一体改革関連法案の審議が、5月11日の衆議院本会議で始まり、この日最後の質問に立ったみんなの党の江田憲司幹事長が、1000兆に達した国の借金を持続的に返済していくためには、経済成長をしていくしかないと野田総理に呼びかけたのに対して、総理が驚愕の答弁を行ったのだ。
 「経済成長した場合、成長に伴う金利上昇により国債費が増加することにも留意をすることが必要であり、経済成長による増収等に頼るのみでは、毎年1兆円規模になる社会保障費の自然増などに対応し、財政の持続可能性を確保することは困難と考えております」
 つまり野田総理は、経済成長によって税収を増やそうとすると、金利が上昇して国債費が増えてしまうので、経済成長だけで財政再建はできないとしたのだ。

 それが真っ赤なウソであることは、アメリカが証明している。アメリカ財務省は5月10日に、4月の財政収支が591億1700万ドル(約4兆7000億円)の黒字になったと発表した。黒字は3年7カ月ぶりだ。もちろん歳出削減の効果もあるが、景気回復で所得税収などが大きく増えたことが主な原因だ。
 アメリカはリーマンショック後に世界最大の財政赤字を抱え込んだ。しかし、財政と金融の緩和による景気回復で、財政黒字を取り戻したのだ。それと同じことはできないと野田総理は言うのだ。しかも、日銀の白川総裁は5月13日の朝日新聞に掲載されたインタビューで「通貨の安定を支えているのは財政の持続可能性だ」と述べて、政府に財政再建を強く求めた。
 結局、財政・金融引き締めによるデフレは、野田政権と財務省と日銀の意向の下で続いていくのだ。