遺伝子改変をしていない野生型マウスに生後10日から、GABAを合成する酵素「GAD」(GAD65とGAD67の2種類があり、生後発達期の小脳では後者が主に働いている)の働きを阻害する「3-MP」という薬物を小脳に与えてGABAの合成を抑えた場合も、ヘテロ欠損マウスと同様にシナプス刈り込みの異常が起こった。

一方、GAD67ヘテロ欠損マウスの小脳に、GABAの働きを増強する「ジアゼパム」という薬を生後10日から与えると、シナプス刈り込みは正常に起きたのである。

従って、生後10日頃から16日頃までの間に、小脳中でGABAが働くことが、シナプス刈り込みに必須であることが明らかになったというわけだ。

次に、小脳の神経回路の中で、登上線維のシナプス刈り込みに必要なのがどのGABAシナプスであるかが調べられた。

すると、「籠細胞(バスケット細胞)」がプルキンエ細胞の細胞体に作る抑制性シナプスが重要であることが判明。

なお籠細胞とは、小脳皮質の中のGABAを伝達物質として放出する抑制性の神経細胞の1つ。

プルキンエ細胞の細胞体にシナプスを作っており、GABAによって、プルキンエ細胞の細胞体の活動を抑えるという役割を担っている。

即ち、籠細胞からGABAが放出され、プルキンエ細胞の細胞体の活動が抑えられるため、登上線維から信号がやって来ても、細胞体の活動は高くなることができない。

すると、「電圧依存性カルシウムチャネル」が十分に開くことができず、細胞体に流れ込むカルシウムの量が少なくなる。

十分な量のカルシウムがないと、シナプスの結合を維持することができないため、やがて、プルキンエ細胞の細胞体にシナプスを持つ登上線維は除去されてしまうのに対し、プルキンエ細胞の樹状突起にシナプスを持つ登上線維は生き残ると考えられるというわけだ(画像)。

ちなみに電圧依存性カルシウムチャネルとは、細胞膜に存在するカルシウムの通り道となるタンパク質の1種である。

神経細胞が活動していない時には、カルシウムの通り道のゲートは閉じているが、強く活動した際に、ゲートが開き、カルシウムが神経細胞の中に流れ込むという仕組みだ。

GABAによる抑制は、冒頭で述べたように統合失調症や自閉症などとの関連でも注目されている。

理研では、過去に日本人の統合失調症患者でGABAによるシナプス伝達関連分子の遺伝子異常を報告済みだ。

そのほか、前頭葉におけるGABAシナプス伝達の減弱が統合失調症と関連することを示唆する報告もある。

また、統合失調症や自閉症の病因として神経回路発達の異常があり、発達の特定の時期に起こるシナプス刈り込みの異常の関与が考えられている状況だ。

今回の研究で見出されたGABAとシナプス刈り込みの関連は、あくまでマウスにおける現状ではあるが、今後モデル動物やヒトでの研究がより進むことにより、発達障害や統合失調症の病因の理解につながることが期待されると、研究グループはコメントしている。