島田紳助の引退騒動は、テレビなどに大きな影響を与えている。そんななか、突然売れ始めた本があると耳にした。
電子書籍『ヤクザ的な人々に学ぶ負け知らずのススメ』(小野登志郎/太田出版=写真)だ。

内容は、組織暴力団の構成員だけでなくその周辺の人間も含む、一般市民社会の法や規範から外れた人生を送っている人間たちのしたたかさや、根性論ではない危機の乗り越え術を学ぶというもの。
あまりにタイムリーな話題のようだが、実はこれ、書籍が刊行されたのは2007年。思いがけないタイミングとなったわけだが、そもそもの書籍刊行当時の狙いや売れ行きはどうだったのだろうか。太田出版の担当者に聞いた。

「当時、弊社で真面目なアウトロー関連本を複数出していましたが、その世界の人達が見せる図太さが、ときに過剰でユーモラスでさえあったので、そこにテーマを絞って書籍化しました」
当時は少し前(2004年)に『ワルの知恵本』(門昌央と人生の達人研究会/河出書房新社)というベストセラーがあったので、それも念頭に置いたという。
「"ピカレスクな痛快お役立ち本"として読まれると期待しましたが、当時は初版の六千部止まりでした」
ところが、電子書籍化によって、発売1週間で1万ダウンロードという大ヒットに。これは太田出版の電子書籍で初快挙という。
「もともと古びない内容にしていたつもりですが、やはり紳助さん騒動でのこのジャンルへの興味増大は、無視できないかもしれません。時事的タイミングに恵まれました。また、芸能界だけでなく、政治も極度に混乱しているなか、紙書籍時よりもアウトローたちのサバイバル術にはより現実的な需要があったのかもしれません」

また、「アドベンチャー」というAppStoreの電子書籍売上に高い実績を持つ企業と取り組みができたこと、そして、アドベンチャーの販売戦略ノウハウが見事に当たったということも、大ヒットの要因となったという。

実際、テレビのワイドショーや雑誌、ネットなどで頻繁に聞かれる話題が、つい気になってしまった人は多いはず。
出版不況が叫ばれて久しいが、今回のように、タイムリーな事件が味方となり、紙の書籍から電子書籍になってチャンスをつかむ本もある。まだまだ出版の可能性は、あちこちに眠っているのかも。
(田幸和歌子)