「なにかとね、みんなが今まで以上に絡んでくる(笑)。だから、(先発を外れても)チームの中に居場所がちゃんとある」
先発落ちという不遇の中であっても、コツコツと淡々と自分のペースを保ち、トレーニングする内田をチームメイトが認めてくれているということだろう。
内田と同じく開幕から控えに甘んじていた岡崎。開幕戦では途中出場からゴールを決めたが、直後の韓国戦で負傷したことも災いした。
「(先発ではなかった間)自分としてはゆっくりコンディション作りもできた。なおかつ練習からアピールしなくちゃいけない状態を監督に作ってもらったので、そういう意味ではプラスじゃないですかね。練習でもしっかり自分でやらなくちゃいけないと思っているし、1対1でもしかけることができている。まだまだ、これからの戦いだと思う」
ゴールを決められたこと、そして昨季からの監督やチームメイトとの信頼関係が岡崎から焦りを取り除いたのだろう。
長谷部誠は言っていた。
「ドイツに来て、今、試合に出られなくなっている選手も多い。試合に出ることの難しさを痛感しているはず。でも、試合に出ていないときのほうが得られるものが大きいこともある。苦しい立場に立ったときこそ、いろいろと考えるだろうし、感じることは大きい。だから、試合に出ている出ていないだけで、選手を判断するべきじゃない。チームの状況やクラブの多さ、メンツや戦術など、千差万別なだから。でもいきなり大きなクラブでのプレーは大変だし、宇佐美は良く決心したと思う。俺にはできないぞって思うもの。ただ……」
自身もドイツへ来てから優勝を経験した一方、先発落ちや残留争いなど難しい状況を戦い抜き、生き残ってきた。国内有数の資金力を誇るヴォフスブルグは、積極的に補強できるだけにチーム内競争も激化する。
「苦しいときのほうが成長できるってことを経験しているから、残留争いしているときも『もし落ちたら何を感じるんだろう』って、妙な好奇心があったんだよね」と笑う。
確かに彼の言葉通り、苦境を乗り越えたとき、人間としても選手としても成長するケースは多い。しかし、「苦しい苦しい」とつぶやいているだけでは、成長はできない。そのとき、何に気がつけるか、感受性が、重要になってくる。ただ、漠然と現実を見ているだけでは、壁は越えられない。
「ドイツに来て、物事を多方面から考えられるようになった。一人でいる時間が長いからさ。いろいろ考える。それで精神的に変われた」
長谷部はドイツでの孤独な生活こそが、人間としての成長を促したと話している。
「なぜ、今、結果が出ないのか?」「なぜ、試合に起用されないのか?」
そんな疑問も自分中心で考えるのではなく、自身の立場を俯瞰し、監督の目、チームメイトの目から見ることもひとつの術だ。また、周囲の声に惑わされないことも大切だと思う。
選手の入れ替わりが激しく、常に競争にさらされている欧州のフットボールシーン。だからこそ、誰もが孤独や危機感と戦っている。それは日本人選手に限らない。
しかし、そういう環境だからこそ、日本人の繊細な観察力や感じるとる力、周囲を思いやる目が生かされることもあるはずだ。
どんなに苦しく、納得ができない現実だとしても、それを受け入れなければ、目の前の壁を打開することはできない。現状を許容したうえで、「何をすべきか」を考え、悩み、実行し、模索する。
そんな行動する姿をチームメイトは見ている。そして指揮官もつぶさに観察している。“見られている”という意識を持つことが、信頼関係を強くするのかもしれない。
木曜日の内田、金曜日の岡崎、土曜日の香川、そして日曜日の内田。それぞれが刻々と変わる状況の中で、戦っていた。彼らがぶつかっている壁の種類も違えば、とらえ方も打開する考え方も違う。