8月28日、日曜日。シャルケは前節首位のボルシアMGをホームに迎えた。そのスターティングリストに内田篤人の名前があった。
 8月25日木曜日、6−1と快勝したヨーロッパリーグ・プレーオフ対ヘルシンキ戦で途中出場した内田。その試合では右サイドバックとして先発を続けているヘーガーは精細を欠いていた。コパアメリカのため合流が遅れていた右MFのファルファンを十分に生かすプレーができなかったのだ。ヘーガーに代わりピッチに立った内田は、「自分のアピールよりも、チームの勝利のことを考えてプレーした」と試合後語っている。
 そして、先発のチャンスがめぐってきた。

「先発はボルシアMG戦当日にホテルで言われました。僕は普段から力むタイプじゃないので、普通に入りました。バランスをとってプレーすることを心掛けた。攻撃よりも守備に意識をさいた。去年もやっているメンバーだし、連係に不安はなかったですよ」

 ボルシアMGは左MFアランゴを中心に内田のサイドから攻め立てた。
「アランゴは、ボールをもらうのが巧い。俺とボランチのパパ(ドプロス)の間でもらったりとか、中途半端なポジショニングでボールをもらう。だから、その対応は声をかけながらやろうと、周囲と話していた。ああいうパワーのある相手には、パワーで行ってもなかなか難しい。でも、タイミングとポジショニングがしっかりすれば、対応できる。最近は先に失点をすることがすごく多かったけど、今日はディフェンスのバランスが良くて、遠目からのシュートはありましたけど、危ないシーンはほとんどなかったので。ディフェンダーの僕が入って、ディフェンスが安定することはいいことなので、これからも続けていきたい」

 初先発の喜びを見せることもなく、憎らしいほど淡々に試合を振り返る内田。この試合は、シャルケにとって今季初めての無失点試合となった。
 試合後、シャルケのランドニック監督は「ヘーガーを休ませたかった。内田は練習からいいプレーをしていた」と先発起用について語っている。

 昨年10月下旬以降は先発として、チャンピオンズリーグ・ベスト4入りやドイツカップ優勝に貢献した内田だったが、「来季は監督が自分の気に入った選手を獲得するかもしれないし、レギュラー・ポジションが約束されているとは思っていない」とシーズン終了直後に語っていた。
 そして、その予想通り、新加入のヘーガーに先発を譲る形になった。それでも「シーズンは長いし、自分のペースでゆっくりとやりたい」と話し、筋トレなど先発ではできない自主トレに励んだ。監督からも「代表もあるし、お前のことはわかっているから、今は新しい選手を試している。タイミングを見て起用する」という話があった。

 昨季の最終盤、疲労からプレーの精度が落ち、ドイツ杯決勝戦で先発から外れた。「1シーズンを精いっぱい戦ってきた。そうしたら最後の最後でひと伸び足りなかった」とコメントしていた内田は、控えという現況の立場をうまく利用しているように見えた。

――先発出場ができて、ホッとした感じはありますか?
「いやぁ別に。もうちょっとのんびりやろうかなって思っていたくらいなんで(笑)。ふつう通り自分のペースでやります。自分のイメージ通りのプレーができたり、ちょっと違ったりはあります。まだ2、3試合ベンチに座っただけなので、ふつうですよ。これからじゃないですか?」

 あっさりと答えたが、3連勝を波に乗るチームの中で取り残されず、試合に出られたことは大きい。
「なんで、お前、試合に出ないんだ? ちゃんと監督と話せよ」
 チームメイトたちからはそんな風に声をかけてもらっているという。そして、途中出場したヘルシンキ戦後、17歳のドラクスラーが「出場おめでとう」とでもいうように、内田に水をかけていたシーンが印象深い。