「ブンデスリーガはお客さんがいつもいっぱいなんですよ」
 そんな話を聞いたのは、1999年のことだ。当時カールスルーエにレンタル移籍していた永井雄一郎の取材に訪れた際、現地の日本人の方が語っていた。2006年ワールドカップドイツ大会開催を機に、その観客数はさらに増加。数多くのスタジアムが改築されたことも大きい。今では1部の平均観客動員数が4万人に達した。1部のクラブ数が18だから、毎週末40万人近い人たちがフットボールを楽しむ。

 ブンデスリーガは基本的に土曜日を中心に、金曜日、日曜日に開催される。金曜日以外はほとんどが15時半キックオフのデーゲーム。ホームゲームのある町の中央駅には、お昼前からサポーターが集まってくる。ここから、バスやトラム、地下鉄でスタジアムへ向かう。
 スタジアムへ行くドイツの男性サポーターはカバンを持っていない。首にマフラーやスカーフを何枚も巻いていても、ポケットにビール瓶が何本も押し込まれていても、だ。ジーンズにゲームシャツというのが定番で、年齢に関係なく手ぶら。手がふさがっているのは、ビールの6本入りパックを持っているときくらい。

 ドイツでは小瓶のビールなら100円ほどで買える。ソフトドリンクよりも安い場合もある。だから、とにかくビールを飲む(安いだけが理由でもないだろうけど)。20分くらいの移動の間に何本も栓が抜かれる。ドイツでビールといえば、瓶ビールが基本。マイ栓抜きを持っている人も多いが、ライターや椅子の角っこでポンと巧みに栓を抜く人も少なくない。

 サポーターを満載にしたトラムがスタジアムに到着する。プラットホームでは大きな紙袋や段ボール箱、スーパーのカートが待ち構えている。ビールの空き瓶を回収し、現金化しようと目論む人たちのそんな姿は、試合の日には欠かせない。空き瓶を渡すとさらにビールを取り出すサポーター。乗り物から降りると、即座に木陰で用を足す人も。エコにうるさく、リサイクル国家のドイツだが、スタジアム周辺でのこういう光景をとやかくいう人はいないようだ。

 アルコールが流し込まれた巨体のドイツ人が何万人も集まり、どんな騒ぎになるかといえば、とにかく歌う。叫びに近い歌声が、駅構内に響き、車内を揺らす。そんな中にひとりでいても、不思議と恐怖感は生まれない。デーゲームということもあるだろうが、殺気が漂ってはいないから。

 たとえばイタリアでの試合。ナイトゲームだったユヴェントス対インテル戦では、スタジアム近くに立っているだけで「怖い」と感じた。イタリア人は外ではよっぱらうほど酒を飲まない。ビールが流行っている昨今、酔っぱらう若者が急増し問題になっているらしいが、スタジアムでのアルコール摂取量は、ドイツと比べものにならないくらい少ないはずだ。しかし、素面のサポーターたちが無言で集まっているだけで、いたたまれないほどの殺気が伝わってくる。

 ブンデスリーガの試合では、実に大量の警官が警備にあたっている。民間の警備員ではなく、ホンモノが、いたるところで目を光らせる。ドルトムント対シャルケのような試合では、二つの町を結ぶ列車の中にまで、複数の警官が配置されていた。彼らの威圧感が、スタジアムの安心感につながっているのかもしれない。ちなみにイタリアではドイツほどの警官はいない。
 警官の配置は試合会場近辺だけにとどまらず、国鉄の主要駅などでもその姿を見かける。アウェイでの試合観戦へ出かけるサポーターたちが乗り換えなどで駅を利用するためだ。

 スタンドの大半はホームのサポーターが埋めているが、もちろんアウェイチームのサポーターもいないわけじゃない。ドイツ国鉄には決まった金額を支払えば、1年間乗り放題や50%オフ、25%オフで利用できるパスがあるので、それを購入しドイツ国内のアウェイ戦を回るサポーターも多い。ICEという特急列車には、週末さまざまな色のシャツを着たいろんなクラブのサポーターが乗り合わせる。一昨季のリーグ最終節後の車内では、優勝やCL出場権を逃したり、残留を決めたり、降格してしまったりと、試合結果によって違った表情を浮かべるサポーターが座り、まさに呉越同舟といった感じだった。落胆しているサポーターが言葉を交わすことなく、お互いを気遣う姿をほほえましく見た。