さらに試合開始早々、ドイツにとっては痛恨のアクシデントが起こる。

セットプレーの際の接触で、中盤の要だったキム・クーリッヒが負傷退場。
将来は男子で言うところのミヒャエル・バラックのような選手になることを期待される注目の 21歳が、わずか8分でピッチを去ったことで、ドイツはさらに力強さを失ってしまった。

そして序盤は互角の試合を展開していた日本は、徐々に攻撃でもボールを繋ぎ、主導権を握れるようになっていく。

快心のゲームを見せるなでしこジャパン

先のイングランド戦での最大の敗因は、なでしこジャパンの代名詞とも言える「パスワーク」が分断されてしまったことだった。
そしてその大きな要因の一つが、中盤でパスの起点となる澤穂希、阪口夢穂の2人が激しいマークにあい、なかなか生きたボールを供給できなかったことにある。

このようにイングランドは日本の急所をしっかりと研究してきていたけれども、ドイツはそこまで日本を警戒していなかった。
そのため、イングランド戦に比べれば自由にボールをさばくことを許された澤と阪口を起点に、日本はワンタッチ、ツータッチを絡めた持ち前のパスサッカーを展開することに成功する。

また、この日の日本はディフェンスも見事だった。

澤、阪口のボランチコンビは守備面でも多大な貢献を果たしていたけれども、この日は特にディフェンスラインの集中力が光った。

熊谷紗希、近賀ゆかりは何度となく決定的なピンチをカバーし、岩清水梓、鮫島彩も非常に集中した守りを見せる。
ボランチも含めたディフェンス陣の集中力が、敗れたイングランド戦と比べて最も変化した部分だと僕は感じた。

こうして良いフィーリングを得たまま前半が終了。

迎えた後半、日本は永里優季に代えて丸山桂里奈を立ち上がりから投入してくる。

前線で体を張るタイプの永里に対して、丸山は裏へ抜け出す動きと縦への突破力が持ち味。

そして結果的に、この交代は当たった。

前半からディフェンスラインの裏への対応に危うさを見せていたドイツだったけれども、縦に強い丸山の投入によって、日本はその弱点をさらに突けるようになる。
積極的に裏を狙う丸山の動きが効果を発揮して、日本はさらに攻勢を強めた。

続いて日本は 65分、スーパーサブの岩渕真奈を投入。
前線に丸山、岩渕、安藤梢と機動力のある3人を並べ、ドイツの弱点である背後のスペースを狙い続ける。

受身の態勢になったドイツはストロングポイントであるフィジカルの強さを発揮することができず、逆にトラップなどの基礎技術の低さを露呈。
ミスを犯して自らチャンスを潰す悪循環にはまっていく。

前後半の 90分間を通じて得点こそ生まれなかったものの、日本にとっては大きな手応えを感じた 90分間だった。

そして試合はスコアレスのまま延長戦へと突入する。

延長に入ってもペースの落ちない日本。
対して、相変わらずチグハグなプレーの続くドイツ。

この試合でどちらも大会4戦目。しかも季節は夏。
両チームとも体力的にはギリギリのレベルで臨んだ延長戦。
ここから先はまた、両チームの精神力も試される 30分間となった。

そして延長前半もスコアレスのまま迎えた後半3分。
日本についに、「運命の時」がやってくる。

日本の迎えた「運命の時」

格下と見られたチームが格上と見られたチームに勝つことを、サッカーの世界では “ジャイアント・キリング” と呼ぶ。

これまで日本のサッカー史上最大のジャイアント・キリングは、おそらく 1996年のアトランタ・オリンピックで、ロナウドやロベルト・カルロスのいたブラジル代表を破った『マイアミの奇跡』になるだろう。
ちなみに僕はこの時も、「日本は絶対に勝てない」と思っていたっけ…。