かの世界的自動車メーカー、フォルクスワーゲンの城下町として知られる街だけれども、日本のサッカーファンにとっては長谷部誠の所属する VfLヴォルフスブルクのホームタウンとしても有名だろう。

そしてなでしこジャパンはその VfLヴォルフスブルクのホームスタジアム、フォルクスワーゲン・アレーナを埋めた 2万6000人の大観衆の中、地元ドイツ代表と対戦することとなった。

おそらく、日本のファンの大半は敗戦を覚悟し、ドイツのファンの大半は勝利を確信していただろうこの試合。

しかしそんな微妙な心の機微が、試合の結果に大きな影響を及ぼすことになる。

決戦のホイッスルが鳴った直後から、日本はドイツに猛烈なハイプレスを仕掛けた。

そしておそらく、この作戦は非常に効いた。

ドイツはイングランドに 0-2と敗れた日本を見て、気持ち的に多少の余裕を持ってこの試合に臨んでいたように思う。
そしてそれは同時に、大会2連覇中の王者に「過信」を生む結果にもなっていたはずだ。
その隙を突いた日本のハイプレスに、序盤のドイツは気持ちの上で圧倒されることになる。

ドイツの迎えた世代交代期

またドイツは、メンバー的にも世代交代の端境期に差し掛かっていた。

女子サッカーの世界でも、「列強」と言われるようなチームにはワールドクラスのスターが存在する。

日本の場合なら澤穂希になるだろうけど、ブラジルなら現在世界ナンバーワン選手のマルタがいる。
そしてアメリカならエースストライカーのアビー・ワンバック。
さらにアメリカはひと昔前なら、全米に女子サッカーブームを巻き起こしたミア・ハムというスーパースターを擁していた。

そして、そんな「チームの象徴」とも言うべき選手のドイツ版がビルギット・プリンツである。

プリンツは得点力に長けた大型のセンターフォワード。
過去2大会でのドイツのワールドカップ優勝の原動力となり、ワールドカップ通算得点数は歴代1位となる 14得点。
2003年から 2005年にかけて FIFA世界最優秀選手賞を3年連続で受賞するなど、輝かしい経歴を誇っている。

ちなみに日本サッカー界の伝説的ストライカー、釜本邦茂がこのプリンツを見た際、現役時代の自分と変わらない身長と体格を持つことに驚いたと言われるほど強靭なフィジカルを持つ選手だ。

しかしそのプリンツも既に 33歳。

プレーに全盛期ほどの迫力は無く、この大会でも緒戦と2戦目で先発出場したものの、後半の早い時間帯に途中交代を命じられている。
第3戦のフランス戦ではついに先発を外れた上に出場機会も無く、ここまでノーゴールと不振にあえいでいた。
そしてこの日本戦でも、プリンツは先発を外れることになる。

かと言って、代役のインカ・グリンクスにも全盛期のプリンツほどの爆発力があるわけではない。
その点ではむしろ、昨年の U-20女子ワールドカップでドイツ優勝の原動力となり、大会 MVPと得点王をダブル受賞したアレクサンドラ・ポップに期待がかかるけれども、ポップもまだ 20歳になったばかりと若く、A代表で前線の軸になれるほどの力は無い。

結果的にドイツは、前線で相手を恐怖に陥れるストライカーを欠いていた。

またドイツには、永里優季が所属する一昨シーズンのヨーロッパチャンピオンクラブ・ポツダムのエース、ファトミレ・バイラマイというワールドクラスのドリブラーもいるのだけれども、この大会ではコンディションの問題なのか、チームにフィットしていないという理由からなのか、先発はわずか1試合に留まり、この日本戦でも出場することはなかった。

これによってドイツの前線は明らかに、以前ほどの迫力を失っていたと言えるだろう。