東京金融取引所は11月22日から、「日経225」「FTSE100」「DAX」などの株価指数を対象とした証拠金取引「くりっく株365」の取引をスタートする。「外国為替証拠金取引『くりっく365』と同じ取引環境で、日経225のような身近な株価指数を取引いただけるようになる」と、同取引所営業部次長の大房弘憲氏は市場の拡大に期待を寄せる。株価指数の証拠品取引として先行した店頭CFD(差金決済取引)は、「ポストFX」と言われながらも普及していない。「くりっく株365」は、新しい投資サービスとして根付くのか? 大房氏に、取引の特徴や今後の普及活動について聞いた。(全2回の1)

――「くりっく株365」を始める経緯は?

 日本で初めての取引所における外国為替証拠金取引市場である「くりっく365」と同じ取引システム、同じ商品設計で、エクイティ商品を提供したいと考えてきた。これまで、金利先物とFXの市場であった当取引所が、株式関連商品を取り扱うことで、金融取引インフラをワンストップで提供できる金融デリバティブの総合取引所へとステップアップする。

 「くりっく365」は、2005年7月に始まって5年4カ月が経過し、この間、取引数量は順調に伸び、市場規模は急速に拡大してきた。現在、取扱会社は23社となり、口座数は約30万口座、証拠金残高も約1730億円に達している。FX市場に関する正確な統計数値はないのだが、これらの数字は店頭FXも含めたFX市場全体の中で、15%程度のシェアを占めているのではないかと思う。

 国内のFX業者は、一時期は200社から300社といわれた頃もあったが、現在、金融商品取引法に基づき登録されている業者数は100社を下回っており、FX業界全体の整理も進んでいる。その中で、「くりっく365」が順調に取扱数量や建玉残高等を伸ばしているのは、優れた商品性に加えて、市場全体の透明性や健全性が多くの投資家に認知されてきたことの証左ではないか。特に、口座数の伸びがここにきて加速しているのは、この市場の更なる勢いを示していると思う。

 「くりっく株365」の上場は、2007年9月に金融商品取引法が施行され、金利と為替に加え、エクイティ等、他のジャンルの商品も取り扱うことができるようになった頃からの積年の課題への答といえる。金利と為替とエクイティをひとつの取引所で取引できるようになれば、金融インフラとして使いやすいといえる。たとえば、為替情報は、海外に投資する場合には不可欠の情報であり、株価や金利と不可分に結びついている。それらの価格情報が、一つの取引所の情報として共有化できることは投資家のメリットになる。

――「くりっく株365」と同じような投資サービスである店頭CFDは、2005年の年末ごろからサービスが始まっているが、2010年9月末現在、日証協の集計で約11万口座、証拠金残高が67億円程度に過ぎない小さな市場。「くりっく株365」の成長にも限界があるのでは?

 従来のCFD取引は、個々の業者がそれぞれに取引価格を出している相対の店頭取引市場だった。取扱銘柄も、たとえば「○○○225」といった名称など、日経225との連動をうたってはいるものの、実際の価格は透明性に乏しく、良く分からないという指摘も多い。これが、公的な取引所で取り扱うことによって、イメージが一新されると思うし、是非そうしたい。取引対象になる株価指数については、各指数のライセンサーとの間でライセンス契約を結び、いわば、公認を得た上で取引を行う。

 また、「くりっく365」と同じ仕組みの証拠金取引とし、完全マーケットメイク方式を採用することで、公正かつ健全で有利な取引価格を提供できるほか、一律20%の申告分離課税の適用、3年間の損失繰越控除、他の取引所上場先物商品との損益通算など、税制面での優遇措置も受けられる。これは、「店頭FX」と「くりっく365」の関係に似ており、非常に大きな差別化のポイントだ。

 今回、「身近で」「簡単に」「少額から」という3つのキャッチコピーをあげた。「身近で」というのは、日経225など誰でも知っているような株価指数を取り扱うこと。「簡単に」というのは、例えば現在「くりっく365」を使っていただいている方々が、あたかも「くりっく365」の23通貨に、新しく株価指数が追加されたような感覚で取引していただける。証拠金は、FXと株価指数では、それぞれ口座を分ける必要があるが、実際の取引に使う注文画面などが同じような仕様になっていることで、違和感なく簡単に使いこなしていただけると思う。また、PCやモバイル端末を通じ、いつでもどこからでも、24時間簡単にアクセスできるというイメージである。

 「少額から」というのは、レバレッジ効果だ。店頭CFDのうち株価指数関連取引については、2011年1月からレバレッジの上限を10倍とする規制が導入されるが、「くりっく株365」では20倍〜30倍程度のレベレッジで取引できるため、非常に資金効率が高いと言える。

――株価指数先物取引との違いは?

 大きくは4つある。「日経225」の取引について、日経225先物が9時に始まり23時30分で取引終了することと比較して、「くりっく株365」は8時30分から翌日の6時まで(非サマータイム適用期間)、昼休み時間帯もなく、シームレスでの取引が可能になっている。たとえば、FX取引では、22時頃から翌日2時くらいの深夜時間帯に、米国経済指標の発表などがあって価格が大きく変動し取引ボリュームが増大する傾向にあるが、これは、株価指数の取引にも等しく言えることと考える。投資家にとって取引が24時間途切れなく続いているメリットは大きい。

 次に、先物取引にある「限月」という考え方が、「くりっく株365」にはない。先物取引は3カ月ごとに、決済して取引を次の限月に引き継ぐためのロールオーバーといわれる手当てが必要になるが、「くりっく株365」では、ポジションを無期限で保有し続けることができる。ロールオーバーすると、一旦は建玉を清算し、新たにポジションを作ることになるから、その際の価格変動リスクに加え、売買コストも発生してしまう。

 3つ目は、取引の成立方法が、先物はオークション方式であることと比較して、「くりっく株365」は完全マーケットメイク方式である点。4つ目は、呼び値の単位が先物取引では「5円」のところ、「1円」にしている。このことで、先物より有利な取引価格、狭いスプレッドで取引できる局面も増えるのではないかと考えている。

 また、先物の価格には配当金や金利相当額などの数値が折り込まれているが、「くりっく株365」の場合は、これらをあえて切り離すことで、その取引価格を日経225株価指数そのものとしている。テレビやニュースなどで報道される日経225の指数そのものの価格で日経225の取引ができるということで、投資家にとっては非常に身近なものになると考えている。(つづく)



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