出版を夢見て、無邪気なあおい(26)
あおいは白馬の王子様を夢見るかように、目をキラキラさせている。
そんなあおいを無視して、タケシが聞く。
「ところで聡美先輩、自費出版の情報ってどこから入ってきたんですか?」
「私は、よく読む料理ブログの運営者がレシピ記事を自費出版した、っていう記事がきっかけだったけど、出版社主催のコンテストもたくさんあるわね。自費出版を重要視している出版社は、1冊のメガヒットが出るより、より多くのアマチュア作家が本を出すことによる自己革命を、体験してもらうことに喜びを感じているようなところがあるわね。
私の担当編集者も、こんなことを言っていたわ…。
『ヒット作の裏には何百もの非ヒット作がある。
しかし、自費出版は、一攫千金を狙ってするギャンブルや宝探しじゃない。
僕は、1冊を多くの人に売るより、多くの著者のそれぞれの1冊を、それを必要としている1人に売りたい』
まぁ、こういう迷言は、営業部門の人によく怒られるらしんだけどね(笑)」
聡美はそう言って無邪気に笑う。
しかし、こういう血気盛んな言い回しこそ、グッと心にささったに違いない、とタケシは思った。
出版を夢見る、
聡美・タケシ・あおい
あおいの理解は、相変わらずスピーディだ。
「言われてみればそうだなぁ。大手出版社主催の有名な文芸賞なんかは、あくまでヒットを目的とした一本釣りだと思うけど、自費出版社のそれはニュアンスが違う気がするなぁ」
タケシの意見も、読書家ならではの実感がこもっている。
「もちろん、ベストセラーを夢見てアメリカンドリーム的に自費出版に一歩を踏み出す人も多いみたいなんだけど、編集者とじっくり話していく中で、ヒットすることより大事なものを見付けるケースも少なくないみたい。そうなると、手のひらを返したように、ヒットを拒む作家も出てくるらしいわね(笑)」
聡美の出版までのいきさつも興味深いが、様々な著者のそれぞれの出版ストーリーもまた、人それぞれで味わいがある。
「いずれにしても、未だ見ぬ読者との出会いの前に、著者自身としっかり出会っておくこと、それこそが、ヒットという意味だけではない、成功する出版の秘訣だって、ずっと言われていたわ」
出版社が大事にしていることは、出版物が出版人それぞれの形をしていること、という。
開催するコンテストは鉱脈探しではなく、1億人の1億通りの文化を肯定することである。
自費出版という“手段”は、そのためのサポートの一つに過ぎない、と多くの編集者は語る。
(第6話につづく)
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