---たしかに、ファンの中には囲碁をヒカ碁のキャラに教えてもらったという方も多いと思います。制作のみなさんは囲碁を学ばれたうえで制作されていたのでしょうか?

神谷
 いやーそこは申し訳ありません、僕はいまだに囲碁がわかっておりません(笑)
西澤さんは非常に囲碁に通じていらっしゃいましたので、盤面の流れのようなものを効果的に落とし込んでいましたね。僕に交代するときプロデューサーから言われたのは「どこまでやってもマニアックな部分は伝わりにくいから、その分キャラクターの感情を押し出す少年マンガとしての面白さを前面に出してください」ということでした。自分は碁を知らないんですが大丈夫ですかと聞いたら、「碁を知らない人が見ても面白いように作ってください」とのことで、つまりそういうふうに作りました(笑)

---そのための光の演出なのですね。

神谷
 対局の中で「重要な一手」というのが何手かあるんですね。その一手をただの絵で表現してしまうと、白黒の碁石が置かれただけじゃないですか。それをどう派手に見せるかということで、パァンと置いたときエフェクトが舞ったり、石自体を光らせて「そこが大事な一手なんですよ」ということを見誤らないよう主張しました。
光っている盤面上でさらに石が光っているとか、石を置いたとき相手方に光がふわっと飛んで行ったり、盤面からエネルギーが湧いて「おおぉー!」となる気持ちを表現したり。その一手を打ったと強調することで、視聴者は「試合が動いた」と気づけるようこだわっていきました。

---ルールを知らなくても、その一手に注目しておくことで流れがわかる。

神谷
 その一方、囲碁の正確さは、毎週日本棋院さんに監修していただいてました。
対局シーンが出来上がるたびにスタッフが市ヶ谷へ持っていって、翌朝見て頂き間違いがあれば指摘してもらい、持ち帰って午後急いで直す。これを毎週続けてましたね。あれは厳しかったですねー。週一アニメを作るうえ修正作業で、きわめてタイトな、オンエアギリギリのスケジュールでやっていました…。

---それが数年間も続いたのですね。

神谷
 日本棋院さんも大変だったと思いますよ。
基本的に原作マンガに沿って、各試合で最も重要な「棋譜」という試合の流れが記された盤面図をいただいて、シナリオからアニメの設計図である絵コンテにうつる段階でこのシーンはココの石が動いているんだねというのを確認しつつやってはいますが、まれに描き間違えがあるんですよね。一コマ分違うとか。…やっかいですよー。
そんな最終的な確認を日本棋院さんにしていただいてました。
だから、本当に重要なシーン以外、盤面を出さないようにしていました(笑)

---(笑)

神谷
 こう、全員の首が絞まっていくんですよ! 
碁盤もね、描くの大変だったんです。今ならCGで均等な線を出せると思いますが、当時は手描きでしたからね。
CGとアニメを短期間で合成する体制は当時無く、マシンスペックも低いし慣れてなかったですから。結局手で、みんな定規を持って、線の本数や遠近法や正方形に気を使いながら一本ずつね。すっごく時間かかってたんですよ。
さらに丸い石を置くじゃないですか。碁石っていうのはふんわりした丸ですから、厚みにも気をつけないと、ヘンテコな物体になるんですよね。ぶっちゃけ涙モノの大変さです(笑)。
なので正直、盤面あんまり出したくないなぁーと。そういう意味でも避けてました。
瞬間瞬間のキャラクターの表情だったり、気持ちの流れを推していくことで作っていきましたね。