福島、和歌山、宮崎・・・。公共事業の入札をめぐる官製談合事件で、現職知事・県幹部職員の逮捕が相次ぎ、暮らしの足もとの政治が大きく揺らいでいる。

 いずれの事件も容疑段階では、知事が特定の業者に落札させるよう「天の声」を県幹部に発し、知事の後援者が談合の仕切り役や運び役を担い、落札した“外様”の東京の業者から謝礼金などを受け取っていたという構図だ。

 有権者の一票で地域の未来を信託された知事がなぜ腐敗に陥るのか。「脱ダム宣言」に基づく大型事業に頼らない治水対策や、政官業の癒着を防ぐ入札改革など長野県知事として2期6年にわたり取り組んだ田中康夫氏に聞いた。

── 腐敗の背景となっている知事を取り巻く環境というのはどういうものなんですか。

 全国の知事の約6割が霞ヶ関や地元の自治体出身者。なぜ公務員がなるのかというと、地元の国会議員や県議のドンや有力者に都合のいい、「操り人形」にふさわしいってこと。政官業に御用学者、報道機関を加えた「現状追認のペンタゴン(五角形)」の上に座りのいい人が知事になる。

 議会と知事は「クルマの両輪」と言われるけど、議会の連中にとって都合がいい人をオール与党で知事を選んでくるわけだから、改革のポーズで出てきても、もともと“一輪車”で同衾(どうきん)しているわけ。

 それに対して、橋本大二郎・高知県知事や私のように議会が選んだわけではない知事だと予算や人事や条例の否決が相次ぐ。長野は私の前の41年6カ月は役人出身者が知事だったけど、ひとつも否決も修正もされたことがなかった。「全知全能の神」のようだが、全国ワースト2位の財政状況を作ったのだから、罪作りだよね。でも、「シャンシャン議会」なもんだから、地元のメディアは何も書かなかった。対立が続くと「停滞」とか「混乱」とか書き立てる。

── しかし、「反原発」の佐藤栄佐久・福島県知事も、木村良樹・和歌山県知事も、いわゆる「闘う知事会」の改革派メンバーとして知られていた。

 小泉さんと同じで闘うふりをしていただけだったんじゃないですか。

 福島も和歌山も、もっと地元の業者が仕事を請け負えるようにしようとしていたけど、入札制度を抜本的に変えはしなかった。福島なんかは「地産地消の公共事業」「地元の会社に直接卸す」と言ったら、知事の周りに仕事の欲しい業者が集まって、ますます利権構造になってしまった。

 木村氏にしたって、時計とかもらっちゃったみたいだから困ったもんだけど。でも、40代で知事の人が「自民党の言うことに従わなければ次の選挙は応援しないぞ」と言われたら、落選したら外郭団体の顧問にもなるわけにいかないからどうしようと思ってしまう。

── 逮捕・辞任に追い込まれた現職知事に共通する構図とは。

 制度を抜本的に変えないで少し変えようとするから、旧知事の時代になかなか入れてもらえなかった亜流の人が、次の知事にくっついて新たな利権が生まれる。すると、前の人脈の人たちは仕事が来なくて食いっぱぐれているので、チクリ出すと言う構図。

 さらに、統一地方選に向けては「与党の言うことに従わないような知事は推薦してやらねえぞ」とか恫喝(どうかつ)される。検察は一生懸命やっているけど、中央の政治の側がそれを利用している側面はある。

── その状況を変えようとすると・・・。

 例えば、故・小倉昌男氏(元ヤマト運輸会長)を迎えて県の外郭団体の統廃合をやろうとしたら、バブル期に融資したものまでクローズされることになるから、地元の金融機関が、弁護士が怒り出す。天下り先がなくなるから公務員が、就職の斡旋(あっせん)ができなくなるから議員が怒り出すわけ。