[画像] 「石丸新党」の都議選挑戦は“消去法”の選択か…戦況を占うポイントは“候補者の顔ぶれ”と“カリスマ性の維持”

 前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏は11月12日、公式のYouTubeチャンネルで“石丸新党”を結成する考えを明らかにした。新党は国政選挙ではなく、来年の7月に任期満了を迎える東京都議選に照準を合わせた地域政党になる。石丸氏は番組内で「都議会議員になろうという方は準備を始めておいてください」と候補者を募集する考えを示した。

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【写真を見る】「石丸人気ってこんなにすごいの?」 都知事選で、銀座の路上を聴衆で埋め尽くした石丸伸二

 地域政党と聞いて、意外に思った方も多いのではないだろうか。石丸氏は7月の東京都知事選でブームを巻き起こし、約166万票を獲得して2位となった。結果を受けて記者から国政選挙への考えを質問されると、「選択肢としては当然考えます。たとえば衆議院広島1区。岸田首相の選挙区です」と答えていた。担当記者が言う。

旋風を巻き起こした都知事選での石丸氏

「地域政党と言えば、大阪維新の会と都民ファーストの会が有名です。ところが両党とも以前のような存在感を発揮できていません。まず維新ですが、国政政党である日本維新の会は明確な退潮傾向にあります。今回の衆院選で議席を減らしたのは自民、公明、共産、そして維新でした。とはいえ、大阪の全19選挙区では勝利しています。大阪維新の会としては地元で底力を見せつけた格好ではありますが、万博問題などで逆風が吹いているのは事実であり、屋台骨が揺らいでいる印象は拭えません」

 大阪維新の会は、何とか土俵際でとどまっているとは言えるかもしれない。だが、都民ファーストの会となると凋落が鮮明だ。

 2016年の都知事選でブームを巻き起こして小池百合子氏が初当選すると、小池氏は都の選挙管理委員会に政治団体・都民ファーストの会の設立を届け出た。そして翌17年の都議選で公認候補を50人擁立すると、49人が当選するという圧勝だった。

地域政党は消去法の可能性

「2017年9月に自民党が衆院解散で動き出したため、25日に『日本ファーストの会』を母体とする希望の党が誕生し、当時の民進党が合流することが決まりました。ところが小池氏が29日、民進党の“リベラル派”議員を『排除する』と明言してしまいます。この居丈高なトーンに多くの有権者が反発しました。排除された枝野幸男氏らが立憲民主党を結成すると、同情票も集まって10月22日の総選挙では何と55議席を獲得して第2党に躍進、希望の党は50議席にとどまって第3党という結果に終わったのです」(同・記者)

 このつまずきは尾を引いた。都議補選などで敗北が相次ぎ、落選者の中には「ブームは終わった」と公言する者も出た。東京都議会の公式サイトには10月16日現在として、都民ファーストの会の所属都議は27人と表示している。

 石丸新党にそれほど支持が集まらない可能性も否定できない。安芸高田市長時代から石丸氏のネット戦略に注視してきたITジャーナリストの井上トシユキ氏は「石丸氏は積極的な判断から新党の立ち上げを発表したのではなく、消去法で残ったのが地域政党の設立だったのではないでしょうか」と指摘する。

石橋を叩いた石丸氏

「大前提として石丸さんが自民党や立憲民主党など、既存政党の公認候補となる選択肢はあり得ません。石丸さんを応援する有権者層は既存政党に不信感を抱いており、だからこそ石丸さんを支持しているからです。知事や市長など首長選に立候補しても話題にはなるでしょうが、石丸さんは『日本を変える』という考えを常に表明しています。地方自治体のトップに就任したとしても“孤軍奮闘”では変革が難しい。共に改革を進める仲間が必要だと考えるのは当然でしょう」(井上氏)

 キーワードは「消去法」という井上氏の指摘に従って、それぞれの可能性を検討してみよう。例えば新党を結成するにしても、国政に打って出る選択肢はなかったのだろうか。来年2025年7月28日には参議院議員の半分が任期満了を迎えるため、6月から7月までの間に参院選が行われる予定だ。

 2019年7月の参院選ではれいわ新選組、22年7月の参院選では参政党が当選者を出し、今では衆議院でも議席を確保している。成功した前例はあるのだ。

「石丸さんは石橋を叩き、消去法の選択を優先したのだと思います。国政新党となると、たとえ少数精鋭の候補者で挑戦したとしても、やはり全国の有権者に訴えかける必要があります。資金も労力も膨大なコストが必要なのは明らかです」(同・井上氏)

都議選惨敗の可能性

 石丸氏が国政新党に全力を投入したとしても、どれだけの支持を得られるかは誰にも分からない。

「国政新党で確実に当選者を出せるかどうかは未知数なのです。一方、石丸さんは都知事選で都民の有権者に鮮烈な印象を残しました。顔と名前は確実に覚えてもらいましたから、東京都に地盤と看板を確保したようなものです。新党で都議選に挑戦すれば高いコストパフォーマンスが期待できます」(同・井上氏)

 ただし、石丸氏に期待する声が強いのは当たり前にしても、新党の候補者が自動的に支持を得られるとは限らない。そもそも地域政党に落胆させられる理由の一つに、候補者の顔ぶれが指摘できる。候補者の公募に応じた人々の顔ぶれを報道で知り、げんなりした経験のある有権者は少なくないだろう。

「国民の政治不信は根強く、今や政治の世界に飛び込もうとする人は相当の変わり者です。率直に言って、現在の政治状況で本気で政治家になろうとする人は、『東大を筆頭に高学歴だが、人の心が全く分からないエリート層』か『売れない芸能人や著名人』くらいでしょう。いくら石丸氏が時の人でも、『候補者を募集します』と呼びかけたら、多くの埋もれていた俊英が我も我もと応募する、ということはあり得ません。都議選に出馬する石丸新党の顔ぶれを見て有権者が落胆する可能性はありますし、実際のところ、新党が都議選で惨敗しても全く不思議ではないと思っています」(同・井上氏)

都民ファが石丸新党に参加!?

 惨敗する可能性があるのなら、やはり石丸新党は悪手なのではないか──こう考えるのが普通だが、そうとも言い切れないという。

「今、石丸氏にとって最も必要なものは“橋頭堡”です。1人で国政選挙や首長選に挑戦しても仲間がいませんし、国政政党はコスパが悪い。ところが東京都を基盤とする地域政党なら高いコスパが期待できますし、最悪の場合、石丸さんと仲間1人の2議席でも充分です。表面的には惨敗に終わっても、石丸さんが都議になれば周りが放っておきません。マスコミは連日のように動向を報じるはずですし、大阪維新の会は必ず連携を呼びかけるでしょう。都議選の結果がどうであっても、石丸さんにスポットライトが当たる可能性は高いと考えられます」(同・井上氏)

 しかもネット上では「惨敗はあり得ない」という指摘が散見される。都民ファーストの会が退潮に苦しんでいることは先に触れた。つまり都民ファの都議が雪崩を打つようにして石丸新党に駆け込んでも不思議ではない。

 石丸氏の消去法をベースにした選択は、少なくとも現時点では間違っていないというわけだ。しかしながら、それでも“惨敗”の内容は極めて重要だという。

敗北してもカリスマ性を維持できる秘策

「善戦の上で惨敗したのなら、石丸さんの支持層は揺らがないでしょう。石丸新党にとって最悪の結末は、支持者が納得できない選挙戦を展開して敗北した場合です。石丸新党が都議選で、どう戦うかを考えてみましょう。都知事選で石丸さんは“ふわっとした公約”を掲げ、“ふわっとした民意”を掴むことに成功しました。ただし、この手法は1回限りです。石丸新党は明確な公約を掲げて都議選に挑む必要がありますが、既存政党のような総花的な内容では有権者は失望するでしょう。国民民主党が103万円の壁撤廃を訴えて躍進したように、有権者に分かりやすい“ワンイシュー政治(単一論点政治)”を展開する必要があります」(同・井上氏)

 ちなみにSmart FLASHが国民民主党の代表、玉木雄一郎氏の交際問題についてスクープ記事を配信したのは11月11日。そして石丸氏が新党を発表したのが12日。井上氏は「石丸さんは、玉木さんの報道を意識した可能性がある」と指摘する。“第三極を担うのは玉木氏ではなく俺だ”と宣言したというわけだ。

 いずれにしても、都民の有権者が「そうだ!」と熱狂するワンイシューを掲げて都議選を戦えば、たとえ獲得議席が期待を裏切ったとしても石丸氏の“カリスマ性”は保持される。一方、都議選で有権者の心を掴むことに失敗すると、石丸氏の“名声”が音を立てて崩れるかもしれない。

デイリー新潮編集部