[画像] 「虫が大量発生のゴミ屋敷」少女が1人で暮らす理由


ゴキブリやクモが大量発生した部屋の中で、1人佇む少女(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

大阪市内にある古いアパートの一室。ドアを開けると、中から出てきたのは服にゴキブリが数匹付いたままの10代後半の少女だった。

本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。

YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信するゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)が、ゴミ屋敷に1人で住む少女を救う。彼女の身に一体何があったのか。

動画:家主直撃!ゴミ屋敷で一人取り残された女の子【1日の片付けに密着】

※本記事には、虫が写り込んでいる画像が掲載されています(次ページ以降)。閲覧にはご注意ください※

【写真】「天井からゴキブリやクモが落ちてくる…」少女が1人きりで暮らしていた“過酷すぎるゴミ屋敷”(21枚)

ゴキブリと共存していた少女

「ゴキブリの量だけで言ったら過去最大じゃないかと。10年以上ゴミ屋敷の現場に立ち会ってきましたが、この部屋は本当に想像を絶する状態でした」

片付けの現場にいたイーブイ代表の二見文直氏がそう振り返る。部屋の間取りは2K。食事は弁当や惣菜をその日に買って食べるような生活で、調理をしていた様子はない。食べ残しにラップをせず、冷蔵庫にも入れず、放置していた。ゴミ出しができず、掃除もしていなかった。

しかし、そんなゴミ屋敷はこれまでにいくつも見てきたし、特段珍しいわけではない。では、なぜこの現場だけが異常にゴキブリが多いのか。それは、ゴキブリの駆除をまったくと言っていいほどしていなかったからである。


キッチンダイニングに置かれたテーブルの上にはゴミが散乱していた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

「もはや共存していたと言ってもいいくらいです。ゴキブリも逃げる必要性を感じていなかったんじゃないでしょうか。床、壁、天井、テーブル、至る所が一面ゴキブリで埋め尽くされていたんです」(文直氏)

作業の序盤、片付けにあたっていた文直氏の弟・信定氏が、押し入れのモノをゴミ袋に詰めながら、「今までで一番虫の量が多かった現場は?」という問いに対し、こんなことを話していた。

「団地の現場だったんですが、冗談抜きで千匹以上。いろんな種類のゴキブリがいました。住人の方が生ゴミを袋に入れたまま長年放置していたようです。見積もりのときは気づかなかったんですが、作業当日まで人がいない状態が続き、その間にものすごい数のゴキブリが袋から出てきた。人が見る一生分のゴキブリをそこで見たと思います。

作業する前にバルサンを焚いたんですけど、ゴキブリって弱ると上に登っていく習性があるんです。なので、作業中は、天井で力尽きたゴキブリが肩にボトボトと落ちてきました」


天井にはゴキブリの幼虫やそれを捕食するクモが蠢いている(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

ゴキブリを捕食するクモも大量発生

しかし、今回の現場は、その団地の一室をはるかに上回った。

キッチンに置かれた大型冷蔵庫を持ち上げると、現場にいたスタッフたちは凍りついた。床は冷蔵庫の形に四角く真っ黒になっていた。まるでコーヒーの粉を丸ごとこぼしてしまったかのようだ。だが、それはすべてゴキブリの子どもと卵だったのだ。

前出の団地の現場が千匹だとすれば、「あれは1万匹の世界だった」と文直氏は言う。

片付けの最中、ゴキブリを捕食することで知られる「アシダカグモ」がゴミの上を頻繁に行き来していた。本来、このアシダカグモはゴキブリを駆逐してくれる存在なので見つけてもそのままにしておく人も多い。しかし、ゴキブリの量があまりにも多すぎて、クモにとっても圧倒的に供給過多だった。

そんな状態ではゴキブリが減るばかりか、ただただクモの量も増えていくばかりだった。


シンク下は予想通り、ゴキブリの温床となっていた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


モノがなくなったキッチン。しかし、虫の死骸が大量に残り、クモが闊歩していた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

この家に住んでいた10代後半の少女は、長らく父親と2人で暮らしていた。両親は早くに離婚。親権は父親に渡り、母親は実家のある九州地方に移った。

父親は現役で働いていたものの、病に倒れ入院。その間は近くに住んでいる親戚が少女の生活をフォローしていたが、部屋の状況までうかがい知ることはなかったのだろう。

入院してから約1カ月後、父親は他界。通夜なり、葬式なりを済ませ、母親が8年ぶりに元夫と暮らした部屋を訪れてみると、服にゴキブリが付いたままの娘が中から出てきた。家中を虫が飛び回り、想像を絶するような酷い状態だった。

母親はバルサンを何度も焚き、1人でゴキブリの駆除をしていたが、とてもじゃないがやりきれない。家具やゴミの処分もあるし、家賃の支払いも続いている。そうして、イーブイに片付けの依頼をしたというのがことの顛末だ。


少女が1人で暮らしていた部屋。かなり環境の悪い状態だったようだ(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

「ゴミ屋敷」は子どもにとって悪影響なのか

娘が1人で住んでいた1カ月足らずでは、どんな生活をしていてもここまでゴキブリが湧くようなことは考えられない。死人に口なしだが、原因はほぼ間違いなく亡くなった父親にあった。


ベッドの下を掃除。いつ虫が飛び出してくるかという緊張感であふれる(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

ゴミ屋敷に住む子どものことを考える際、文直氏と話していると度々こんなテーマが話題に上がる。

“ゴミ屋敷は子どもの成長に悪影響を及ぼすのか”

一般的な感覚からすれば、言うまでもなく悪影響かもしれない。ただ、現場を見ている文直氏は少し違った見方をしている。

「シングルマザーでゴミ屋敷になってしまう家庭を多く見てきましたが、そういう家庭でも子どもはちゃんとお母さんのことが大好きなんですよ。お母さんも決して育児放棄をしているわけではない。ただ、片付けられないだけで、子どもに愛情はきちんと注がれているんです」


部屋のあちこちにクモの巣が張り、虫が天井から落ちてくるような状況だ(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

とはいえ、「悪影響はない」とは言い切れない。イーブイが京都に住むシングルマザーの家庭から依頼を受けて片付けをしたときのことだ。

小学校に通う子どもが母親にベッタリだった。甘えるというより、依存していると言ってもよかった。その要因は、家がゴミ屋敷になっていることにあったという。

子ども同士は気にしていないものの、同級生の親が「あの家はゴミ屋敷だから」と気にしていた。それによって、子どもが学校で孤立状態に陥っていたのだ。


離婚後、8年ぶりに家に入って驚いたという母親。娘の荷物を仕分ける(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

小学生のまま、時が止まった娘の部屋


この連載の一覧はこちら

ただ、今回の現場に関しては「悪影響か否か」判断しかねるレベルからは逸脱している。2Kのうち1つの部屋はリビング兼父の寝室。もう1つの部屋を娘が使っていたが、「娘さんの部屋はどこか様子が変だった」と文直氏が話す。

「娘さんは17〜18歳だったと思うのですが、ベッドや机、使っているモノ、身につけている服が、何もかも小学生の持つようなものだったんです。普通、成長とともに好みが変わったり、使うモノも大人っぽくなったりするじゃないですか。でも、そういうのが一切ないんです。小学生の部屋に17〜18歳が暮らしているので、違和感を覚えました」


時が止まったかのような娘の持ち物にも、ゴキブリの糞がこびりついていた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

ずっとゴキブリと共存するような生活が続き、そこに“慣れ”まで生じていたのであれば、父親が娘にモノを買い与える余裕もなければ、娘自身も「自分の好み」といったものを意識する心理状態にもなれなかったのかもしれない。

現場に入ったスタッフは全部で6人。片付け開始からわずか1時間で、部屋は跡形もなく空になった。

「娘を連れて九州の実家に戻ります」(母親)

現在、母と子は大阪を後にし、九州地方で新たな生活を始めている。ゴキブリが1万匹出ようと、部屋で人が亡くなったわけでもない。おそらく大家によるリフォームを経て、何事もなかったかのように別の誰かが住んでいるはずだ。


ゴミや虫が一掃されたキッチン(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


少女のいた部屋もきれいに片付いた。これで前を向けるだろうか(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

【写真】「天井からゴキブリやクモが落ちてくる…」少女が1人きりで暮らしていた“過酷すぎるゴミ屋敷”(21枚)

(國友 公司 : ルポライター)