上田桃子がツアー生活に別れ
女子ゴルフの国内ツアー・大王製紙エリエールレディス第2日が15日、愛媛・エリエールGC松山(6575ヤード、パー71)で行われ、今季限りで第一線から退く38歳の上田桃子(ZOZO)が4バーディー、3ボギーの70で回り、通算4オーバーの88位で予選落ちした。次週の今季最終戦には進めず、この日でツアー生活に別れ。ツアー通算17勝(米1勝を含む)の名ゴルファーは若手に「練習しろ」と伝える通り、自身もゴルフと真摯に向き合い続けてきた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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負けん気に溢れ、とにかく練習する。「イケイケ娘」。勢いと恐れを知らぬ若い頃の上田はこう表現された。2007年に初優勝から年間5勝を挙げ、21歳156日で最年少賞金女王に。ゴルフの上達以外のことは受けつけない。「本当に生意気だった」と自ら言う。近寄りがたい。以前はそんな空気すらあった。
勝負に入り込んだ時のギラついた目は印象深い。
熊本開催の2017年4月KKT杯バンテリンレディス。1年前の熊本地震から復興を目指す地元で優勝を狙った。「何があっても下を向かない」。最終日の最終18番、決めれば優勝だった1メートル弱のパーパットを外した。プレーオフは攻めた一打が池に落ち、悔やみきれない敗戦。「熊本県民として情けない」。人前では気丈に振る舞ったが、クラブハウスの隅で涙をこぼした。
同年10月には最終日の中止で優勝した。第3日を終えて単独首位。台風接近により、最終日は降水確率100%で中止濃厚だった。他のプロ、夕食で出かけた飲食店、2位の選手のキャディーにまで「おめでとう!」と言われた。「いやいや、ちょっと待ってよ。最後までわからない」。逆転負けした故郷の光景がよぎる。ホテルの部屋でたった一人、ブレずにパットを打ち続けた。
王貞治氏と対面の機会があり、サイン色紙に書いてもらった「度胸」の2文字を大切にする。「私は諦めが悪い」。だから、常に「アグレッシブにチャレンジ」を貫いた。ラウンド中は冷静、かつ強気。ダメな時は悔しさをしっかり出す。それは努力が濃いことの証しだろう。人間味があるから人を惹きつけた。
予選落ちした後の日曜も会場の練習場でクラブを振る。コースの中でも外でも、生活の全てがゴルフの上達に繋がるように。そんな“練習の虫”を地で行くアスリートが意外な趣味を始めたと聞いて驚いた。
今、後輩たちに残す言葉「自分の人生に責任を持って挑戦を」
20代後半から通ったのが料理教室。自己管理はもちろん、気分転換にもなり「カニクリームコロッケは自慢できるくらい美味しい。花嫁修業になれば」と照れ笑いしていた。気分転換は若手にも勧めるのか。そんな問いに「いや、練習しろって言いますよ」と即答された。
「若いうちは鬼のように練習した方がいい。年を取ると練習ができなくなるんですよ。若い頃はとにかくゴルフのことだけを考えることが大事だと思っていましたけど、今はやりたくてもできない。だから、ゴルフ以外のことも大切。そこで違うことを考えるのがまたゴルフにも繋がるから」
ゴルフ漬けの生活は変わらなかった。2008年から約5年間米ツアーに挑戦。デビューイヤーの2005年と国内ツアーの出場数が少なかった2012年以外、計16年もシードを守ってきた。年齢を重ねても高精度のショット、アプローチでスコアメークしてきた。若い頃に意地で磨き続けた技術は簡単に錆びない。
毎年、新世代が台頭する女子ゴルフ界。「若いっていいな」と羨みつつ、プレーを見れば「負けないぞ」と火が付く。「ゴルフをやっている時は一度も年齢を気にしたことがない」。仲のいい後輩が2位で惜敗した時、LINEを送った。「私も悔しい負けをした。強くなれるよ」
いつしか柔らかい雰囲気も出て、求められれば助言する。「桃子さんみたいなプロになりたい」。目標に掲げる若手は1人や2人ではない。この日のラウンド後、特製Tシャツを着た多くの後輩たちに囲まれた。
今、次世代に残す言葉とは。
「みんな自分で好きでプロになっていると思う。小さい時は親に言われて始めた人も、プロになったらそれが自分の人生になる。だから自分の人生に責任を持って、いつもチャレンジしてほしい。
私はいい時も悪い時も逃げずにやってきたつもり。思うようにいかない日があったけど、上手くなりたいという気持ちがいつもあった。逃げずに正面から向き合うことで経験をもとに成長できた。常に学びのゴルフ生活だった。
正面から向き合うことでわかる答えもある。今、次のステップを迎えようとしている時にそれがよかったなと思えるので、正面から自分のゴルフに向き合ってほしい」
個性に溢れたゴルファーがまた一人、ツアーから去る。ゴルフと真摯に、全力で、真正面からぶつかった20年のプロ生活。そろそろ足を休めたっていい。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)