少子高齢化に伴う人手不足などを追い風に、就職内定率が過去最高を更新している。他方で、入社3年以内の離職率も過去最高水準に達しており、若者がすぐに転職する時代でもある。そんな中、転職エージェント会社が爆増しているというが、その質の低下を嘆く声も聞こえてくる。
【画像】爆発的に増える転職エージェント会社、その数はなんと…
内定率も離職率も高水準
10月1日、毎年恒例の秋の内定式が、多くの企業で行なわれた。3週間後の24日には、大手人材情報会社・キャリタスが、内定式翌日の2日から9日にかけて行なった就活状況の調査結果を公表。これによると、10月現在の内定率は93.1%と、過去最高を記録している。
「就職氷河期」なる言葉が流行った頃に比べると、なんとも隔世の感があるこの話題。しかし、翌25日には、厚生労働省が“離職率”の高まりを示すデータも公開した。
厚労省が公開したのは、今年で3年目にあたる21年新卒者における離職率。
データによると、新卒3年以内を指すこの3年間での離職率は、3人に1人を超える34.9%。これは、「就職氷河期」と呼ばれた2004年の新卒が記録した過去最高の36.6%に匹敵する数字だ。
この離職率の高さの背景には、どのような要因が考えられるのか。
かつてマイナビやリクルートキャリアなどで新卒事業に携わり、現在は転職情報メディア『転職アンテナ』も運営するHIRED株式会社代表取締役・戸塚俊介氏に分析してもらった。
「人材不足により求人数が増えたこと、転職という選択肢が身近になったこと、出戻りやフリーランスなどの多様な働き方が増えたことなどが、離職率に影響したのではないかと考えています」(戸塚氏)
“多様な働き方”という時代の変化を指摘したのは、転職事業を手掛ける株式会社WAY代表取締役・岡本光司氏も同様だ。岡本氏は、転職を決断する人の特徴にも触れながら、「3年は我慢しろ」という“決まり文句”が古くなっていると指摘する。
「時代が変わったことで、一社に勤め続けることや『3年は我慢』などの風潮が古くなり、『転職が当たり前』とハードルが下がったのは一番大きいと思います。そのことで『転職している人が多いから自分にもできそう』と踏み出す人も増加しています。
情報感度が高い人は『一定のキャリアを積んだから、これ以上ここにいてもしょうがないな』と思ったら辞めますし、逆に、忍耐力がない人も辞めるので、両極端な人が転職し、中間層だけが残っています」(岡本氏)
転職エージェント利用企業の増加で利用者も増加?
昨今、離職後の転職活動に関しては、自身で求人応募するだけでなく、キャリア相談などに乗りながら会社を紹介する“転職エージェント”を頼る人も少なくない。近年はTVやウェブでも、転職エージェントの広告は日々目にする。
ある種、転職業界は“流行っている”ようにも見えるが、前出の戸塚氏は「転職エージェントが流行しているという認識はない」と指摘する。
しかし、続けて「人材不足であるため、これまでの転職サイトによる募集や自社での募集だけでは人材確保が難しくなり、転職エージェントを利用する企業が増え、結果としてユーザー側が使う機会も増えたと捉えています」と、利用者が増加しているとの認識も示している。
また、前出の岡本氏は、転職エージェントを利用する企業だけでなく、エージェント会社そのものも爆発的に増えていると語る。
「今、有料職業紹介所(転職エージェント)は3万社を超えていて、これは全国のセブン-イレブンよりも多いんですよ。
実は、経営者界隈では『転職エージェントは儲かる』というのが認知されてしまって、今はもう遅いのに、新規に参入する会社がすごく多いんです。3万社のうち1万社以上は東京にあり、大手が利用者も求人も多いので、少ないパイを奪い合う、生き残りの厳しい業界でもあります」(岡本氏)
この生き残りの厳しさについては、ある現役の転職エージェントが、匿名を条件に話してくれた。
「転職エージェントって自社で持ってる求人だけじゃなくて、業者のデータベースがあるんですね。そこの求人はお金を払って契約したら紹介できるのですが、月25万円くらい、年間だと300万円ぐらいかかる。結局そういうところにマージンを持っていかれ、人材会社は実は全く儲からない、みたいな構造になってます。ウチももうヒーヒーですよ…。
大手なんて新卒からキャリアアドバイザーをやったりしますし、よくわかってないのにアドバイスをする業者も大量にあります。新卒が面談したって、説得力には欠けるのに」(現役転職エージェントのAさん)
ネット上では転職エージェントに対して辛辣な評価もあがっており、検索サジェストには「使わないほうがいい」と直球なワードが並ぶ。
SNSにも〈調子のいい話ばかり聞かされる〉〈エージェントによっては転職活動の邪魔にしかならない〉〈転職サイトのアドバイザーとかいう謎職業の人「元SEなので技術者目線で話せますよ!」とか言っといて、JavaとJavaScriptを同じ言語として扱うのやめてほしい〉といった体験談があがっているが、Aさんいわく、これには収益モデルが影響しているという。
利用者・エージェント・企業で三つ巴の化かし合い
「転職エージェントは、利用者を企業に入社させると年収の何割かを企業側から得るビジネスモデルなので、利用者の意向を無視してちょっとでもバックの高いところにあてがおうとする業者もいます。
悪徳に近い会社もあって、ノルマがすごいんですよ。例えば月に200万のノルマを与えられて、達成するためには月2件の転職をさせなきゃいけないとします。でも、20人面談しても2件決まらないこともありますし、そうなると無理やり決めるようなことになってしまう。
KPI(重要業績評価指標)を追いまくってるような会社だと、『とにかく応募数を増やせ!』『書類通過率は20パーだから、とりあえず20社出せば1次面接に4社行くから20社応募させろ』『売上のためにそういう人を何人も作れ』みたいなところは結構多いです。
でも、それって利用者から見たらすごく微妙なサービスですよね。売上至上主義じゃなくて、個人の人生をちゃんと考えてそれに寄り添うエージェントが増えたら、『相談しても無駄』『あいつら自分のことしか考えてない』みたいな業界へのヘイトも減るのでは」(Aさん)
しかし、利用者側にもエージェントを悩ませる人は多い。今や、転職業界は三つ巴の“化かし合い”に入っているという。
「利用者にもめちゃくちゃ経歴を盛ってる人とかいて(笑)。前職の年収とかほぼ確認されないので、500万って言ったら500万になっちゃう。だからその人を本当に500万で雇っていいのか、という目利きはすごく大事です。
全体的に嘘が多いと思いますね。企業側もブラックな条件を隠したり、不採用にしたことにして実は採ってるみたいなこともあります。エージェント側も『めっちゃいいよこの求人』とか嘘ついたり。ある種、お互い様というか、情報戦で化かし合ってるというか。
就活だと、学生がガクチカ(「学生時代に力を入れたこと」という質問項目)で盛ったことを話して、企業側もブラックな条件を曖昧に隠したりして騙し合ったりしてるじゃないですか? 転職だと、そこにエージェントも加わって、三つ巴のさらに高度な情報戦になるっていう」
離職率が高いほど、転職エージェントにとってビジネスチャンスであることは間違いない。しかし、その裏ではさまざまな攻防が繰り広げられているようだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班