夢にまで見た「新車購入」
きっかけは1台の新型アルファードだった。
昨年夏頃、馴染みのディーラーを通して新車の購入を決意したA氏。注文したのはハイブリットのZクラスで、売買代金の総額は759万5670円にものぼる。
当初、ディーラーから伝えられた納車日は今年4月だったが、同年3月に変更の連絡を受ける。A氏は支払いのため、自身が顧問を務める会社の社長に前倒しでの資金の用立てをするようにお願いしたという。安堵したのもつかの間、再びディーラーから告げられたのは「工場の停止によって納車が5月へずれ込む」というものだった。
前編記事『アルファードを760万円で購入するつもりが「損害賠償200万円」を請求されて…!半導体不足の車業界で起きた「まさかの納車トラブル」』につづき、新車購入を巡ってA氏を襲った悲劇と旧知のディーラーから送られた驚愕の郵便物の中身をお伝えする。
A氏が語る(以下、「」はA氏)。
「コロナ禍では半導体不足が叫ばれていた業界ですから予定の変更は仕方ないと覚悟はしていました。でも、まさか1度も乗っていない車に200万円を要求されるとは思ってもみませんでした」
A氏を襲った悲劇
5月での納車を控えたA氏を襲い掛かったのが顧問役となっていた会社の乗っ取りトラブルだった。
「今年の3月頃に元地方銀行員を名乗る男性が会社に接触し、言葉巧みに会社登記の書類に印鑑を押させるように仕向けた。しかも共同代表となった男は銀行のコンプライアンスに引っかかる人物で、そのせいで会社のメインバイクを使えなくなってしまった。
私も顧問として会社に在籍していましたから地元の警察に乗っ取りについて相談するなど対応に当たりました。結果として7月には無事に男性を代表から外すことができましたが、銀行もすぐに口座を動かすわけにはいかず、現在もメインバイク再開の調整をつけているところです」
新車購入を目前で企業乗っ取りという思わぬ災難に見舞われたA氏。だが、その影響は会社だけにはとどまらなかったという。
「当然ながら会社としては銀行口座が使えない間も社員たちを食わせなければいけない。社長らも手元にあった資金を切り崩して社員たちの給与に充てるようにしました。もちろん用意していた車の購入費用もその原資の一つです」
アクシデントの発生で用意していた購入費用を諦めるしかなかったA氏。その事情はすべてディーラー側にも説明したという。
納車トラブルの顛末
「ディーラーの店長に連絡して、ことの経緯は説明しました。代案として顧問の会社で車のローンを組んで購入し、のちに私が会社に対して支払うというプランを提示したが、先方は『購入はAさんの登録があるからダメだ』の一点張り。ならばと社長にも打ち合わせに出てもらい『今は資金繰りが苦しいので、もう少しだけ待ってほしい』と頭を下げて、了承してもらいました」
迎えた5月の納車ではA氏がおよそ30万円を支払い、車の登録を行う。宙に浮いたアルファードはディーラー側が管理していたという。
「登録後も私は一度も車に乗っていません。その期間もどうにか会社の銀行口座が動くように働きかけを行っていました」
事態が急変したのは今年9月のことだった。
「ディーラー側から『9月半ばまでに売買代金の支払いがなければ印鑑証明と判を押した譲渡証明書を送ってほしい』との連絡を受けました。こちらとしては『月末まで待ってほしい』とは伝えましたが、トヨペットの答えはNO。それならば仕方ないと言われた通りの書類を用意して、先方に送りました。登録費用は水の泡となってしまいましたが、身から出たサビですから目をつぶるしかなかった」
かくして新車購入は夢へと散ったA氏。しかし、トラブルはこれだけでは終わらない。譲渡書類の送付から数週間後となる9月末、A氏はディーラー側から届いた書面に我が目を疑った。
ディーラーから送られた「衝撃の請求書」
「トヨペットから送られてきた内容証明には『アルファードの購入費用が期日までに支払われず、売買契約を解除する』という言葉とともに『債務不履行の損害賠償として212万円を請求する』『14日以内に銀行口座にお支払い下さい』と書かれていました。書類を読んで唖然としました」
金額の根拠とされるのが新型アルファードの査定額だ。書面でディーラー側は新車の評価額が約550万円と説明。本来の売買価格だった約760万から差し引いた約212万円が賠償額となるとの理屈だった。
「納車から数ヵ月しか経っておらず、おまけに1度も乗ったこともない車が新車価格より200万円以上も値下がるなんて本当にあり得るのでしょうか。特にアルファードは人気車種ですし、ネットで調べる限りでも新車よりも中古車での取引価格のほうが高くなっている。
こちらも迷惑をかけたのは重々理解しているつもりですが、いくらなんでもこの根拠はおかしい。これなら会社名義のローンに切り替えてさせてもらって購入したほうがまだマシです。でもそれも私の名前で登録されているからダメの一辺倒です。どうしたらよかったのか…」
ディーラーに真相を尋ねると…
詳しい説明を聞こうと大阪トヨペット本社に電話をかけたA氏。しかし、そこで聞かされたのは「名義の切り替えの判断も含め各支店に任せていますので、そちらにお問合せください」との言葉だった。A氏が続ける。
「こちらも支払いが遅れてしまった非はあります。でも納車時期を二転三転させたディーラーの責任だってある。せめてトヨペット側も200万円という費用の根拠をきちんと明示してほしい。新型のアルファードの査定額が550万なんて信じがたい。評価額という理由をつけて賠償を請求するやり方には納得ができません」
果たしてディーラーはA氏の主張にどう答えるか。大阪トヨペット販売店に取材を申し込むと「弊社としましては個別のお客様との取引に関しては回答できません」との返答があった。
世界規模で起こった半導体恐慌。その影響は日本にも大きな影を落としている。
【つづきを読む】『【トヨタ・ホンダ・日産】いま買うならどの自動車がいいのか?実際にディーラーを回って聞いてみた「驚きの結果」』