現在は荷物量が少ない状況が続く。ECの荷物も委託せずにセールスドライバーが運ぶなど、費用を考慮して調整をかけている(撮影:今井康一)
4期連続の営業減益、4期連続の下方修正。当初から懸念されていたとおり、やはり計画達成には無理があった。
宅配便大手のヤマトホールディングス(HD)は11月5日、2024年4〜9月期の決算を発表した。売上高に相当する営業収益は前年同期比3%減の8404億円、本業の儲けとなる営業損益は150億円の赤字(前年同期は123億円の黒字)。当期純損益も111億円の赤字(同53億円の黒字)に転落した。
消費マインドが盛り上がらない中で営業を強化したが、宅配便の収入は想定を下回り、コスト削減も追いつかなかった。ヤマトが上期に赤字を計上するのは、残業代の未払い費用の影響があった2018年以来となる。
従来の業績予想は下期に過去最高水準の利益を出す計画だったが、ヤマトは決算と同時にこれを下方修正。2025年3月期の通期営業収益は1兆7300億円(前期比1.6%減)、営業利益は100億円(同75%減)とした。実に4期連続の下方修正となる。
法人向けの値下げが響く
苦戦の背景には、主に2つの要因がある。
1つ目は、荷物の量を確保するために値下げを進めたことだ。宅配便(宅急便・宅急便コンパクト・EC事業者向けの「EAZY」)の個数は9.4億個で前年同期比3.5%増となった。大口法人向けで新規獲得が進んだためだ。
しかしこれは、強力な値下げを武器に営業した影響が大きい。値下げの副作用はきつく、単価は708円と同12円減少。個人や小口法人向けの数量もふるわず、宅配便事業は減収に終わった。ロジスティクス事業も減収となり、国際輸送事業は微増で宅配便の苦戦を補うことはできなかった。
2つ目はコスト面だ。ラストワンマイルの領域でコスト削減を進めたが、宅配便の単価が下落したことに加え、一部の輸送コストの増加、今期に就航した貨物専用機の導入費用と赤字影響(71億円)も響いた。
数年前からヤマトは、期初に強気計画を発表しては下方修正を繰り返してきた。栗栖利蔵副社長は「現場からの報告を基に数字を積み上げたが、多少ストレッチがあったかもしれない」としつつ、「新規顧客を安めに獲得したことで収益が追い付かなかった。単価はストレートに利益に直結するので大きく影響した。積載効率が落ち、コストも思うようにコントロールできなかった」などと説明した。
下期は一段と効率化を進め、全社でコスト削減を急ぐ。ネットワークの構造改革に伴う拠点の投資や改修、デジタル化等の投資計画も縮小し、黒字化を目指す方針だ。
構造改革に着手
関連して、2021年以降進めてきたネットワークの構造改革について10月に役員の人事異動を行った。
2022年5月にヤマトに入社し、構造改革を進めてきた鹿妻明弘専務執行役員。ロジスティクス事業を統括する立場に変わっている(撮影:尾方文繁)
作業コストの改善や拠点間輸送の効率化に向けて、元アマゾンジャパン副社長の鹿妻明弘・専務執行役員を中心にプロジェクトを進めてきた。以前から担当してきた柴崎安利・執行役員に加えて、阿波誠一・専務執行役員と阿部珠樹・常務執行役員も担当する体制に変わった。「(改革が)そうとう実行フェーズに入っており、多くのベース(拠点)の動きを見ていかなければならないこともあり、役員を増やしている」(栗栖副社長)。
ネットワークの構造改革について、ヤマトは前期も、その前の期も「効果が出てきている」と説明してきた。数年間をかけ投資した以上の効果を出していく構えだが、業績は前述のとおり厳しい。より明確な成果が求められるフェーズといえそうだ。
一方、ヤマトは攻めのM&Aも打ち出した。ロジスティクス事業の強化に向けて、3PL(物流業務の一括受託)や不動産事業を展開するナカノ商会を12月に買収する。
ナカノ商会は1988年に設立、アマゾンの物流センター業務や拠点間の輸送を担当し、急成長してきた会社だ。近年のヤマトは倉庫と配送ネットワークを組み合わせた提案で法人顧客の獲得に力を入れている。ナカノ商会からノウハウを獲得し、配送面でのシナジーも狙う。
買収額は469億円。純資産との差額であるのれんは約380億円になる。償却年数は未定だが、ナカノ商会は2023年9月期に46億円の営業利益を計上している。多少なりとも利益貢献はありそうだ。
難しい舵取り
鹿妻氏は10月からヤマトのロジスティクス事業を統括する役割となっている。ロジスティクスはヤマトの成長戦略の一つ。鹿妻氏はナカノ商会との連携含め、引き続き重責を担うことになる。
4期連続の営業減益、下方修正となり、利益率も大幅に低下したヤマト。構造改革の途上とはいえ、長尾裕社長を含め経営陣の責任を指摘されかねない事態だ。新規顧客の開拓と採算、改革の成果と投資費用のバランスなど、極めて難しい舵取りが続きそうだ。
(田邉 佳介 : 東洋経済 記者)