特殊詐欺やサイバー犯罪などの振込先に使われる口座の売買が横行している。犯罪グループに口座を販売したなどとして書類送検された静岡県中部の20歳代男性会社員が読売新聞の取材に応じ、「末端」ながら被害者側から高額な被害弁償を請求された体験を語り、「軽はずみな行為が重たい結果となってしまった」と後悔を口にした。(貞広慎太朗)
1か月で6口座売却、高いものは3万円に
男性は昨年、給与の未払いが続き困窮し、SNSでヤミ金融から借金をした。厳しい催促に悩まされる中、インスタグラムで口座を買い取る投稿を見つけた。金融機関ごとに数千円から数万円の報酬が記載され、連絡をとって開設を始めた。
ネットでの口座開設は簡単だ。住所、職業、顔写真つきの身分証明書などを登録し、メールか電話で認証を受ける。早くて5分、2、3日で登録完了の連絡が来た。
その後、販売先から指示され、秘匿性が高い通信アプリ「テレグラム」を使って口座情報を伝えると、自分の口座に報酬が振り込まれた。「こんなにもらえるのか」。念のため、使用目的を尋ねると「税金対策」と返ってきた。約1か月で6口座を開いて売却した。高いものは3万円になったという。
「軽率な行動、申し訳ない」
約1か月後、住所登録した実家に、開設した口座のキャッシュカードが次々と届き、不審に思った親から連絡が来て口座を作るのはやめた。だが、その後、犯罪に悪用されたことが明らかになり、不正送金事件に関与したとして詐欺と犯罪収益移転防止法違反の容疑で書類送検された。
被害者側からは計1000万円以上の弁償を求める請求書が届いた。「これから何年働けばいいんだ」と頭が真っ白になった。男性は弁護士と対応を協議中で「軽率な行動で、被害者に申し訳ないことをした」と反省している。
県弁護士会の消費者問題委員会で委員長を務める青柳恵仁弁護士は「複数人が絡む犯罪では、一部の行為でも加担している人に全額請求できる。犯罪グループの黒幕まで追いかけるのは簡単ではなく、被害者の立場に立てば、個人を特定できる口座の売り主に全額請求するのは当然の流れだ」と指摘する。
口座売買は「大きな犯罪に加担」
県警サイバー犯罪対策課によると、正当な理由なく、口座情報を譲り渡して犯罪収益移転防止法違反容疑で検挙された件数は、今年10月末までに20件と前年の9件をすでに上回る。背景には、フィッシングを手口とするインターネットバンキングを悪用した不正送金事件が急増していることがあるという。2023年の被害件数は114件(前年比85件増)、被害額は2億800万円(同約1億8000万円増)に上る。
同課の永田央次席は口座の売買について「罪の意識は低いかもしれないが、大きな犯罪に加担することになる」として注意を呼びかけている。