〈「もらってる額が違いますもん(笑)」“世界のオオタニ”がシーズン中に外食しない“意外な理由”…大谷翔平の野球一筋な素顔〉から続く
今や世界的なスター選手となった、ドジャースの大谷翔平。そんな大谷と一対一で向き合い、インタビューを続けているのが、ベースボールジャーナリストの石田雄太氏だ。大谷は石田氏とのインタビューの中で、どんな言葉を紡ぎ、どんな思いを語っているのか。
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ここでは、石田氏の著書『野球翔年II MLB編2018-2024 大谷翔平 ロングインタビュー』(文藝春秋)より一部を抜粋。メジャー2年目を終えた大谷翔平に行った独占インタビューを紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)
大谷翔平選手 ©文藝春秋
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大谷さん、凹むとどうなるんですか?
――ヒザの痛み以外の原因はどう分析しているんですか。
「結局は自分の形でしっかり振れていなかったということだと思います。こういうことができたらもっと打てるのに、と思う要素をひとつでも増やしたかったのに、その難しさを今年はいっぱい感じました。ストライクだけを打てればいいんですけど、ボール球に手を出してしまうんです」
――それが三振が多い原因にもなった?
「今の僕のポジション(3番DH)に求められているのは、フォアボールをしっかり取った上で長打を打つことです。だから変に当てにいっての内野ゴロとかシングルヒットで終わるなら、三振になってもいいから強く振るほうがいいと考えていました」
――その意識は、去年とは明らかに違うところなんですか。
「やっているレベルは上がっていますから、去年とは全然、違います。去年は捨てている部分が多かったんですけど、今年に関しては捨てる部分をなくして、全部を拾えるように意識しました。たとえばこのカウントでこの球が来たらしょうがないということが去年は多々あったんですけど、今年は頭にない球が来たとしても反応したいというか、全部の球をこなしたいと考えて、去年より広く、しかも強く振って、全部を拾おうとしていました」
――レッドソックスとの試合(8月30日)で8タコ(8打数ノーヒット)がありましたけど、さすがに凹んだんじゃないですか。
「さすがに8タコした覚えがなかったのでけっこう応えましたね。4タコ、5タコは悔しいんですけど、8タコまでいくと、しょうがないなって真っ白になっちゃう。この先、4タコ、5タコしたときに、8タコしたことがあれば、気持ち的に楽になれる要素になるじゃないですか(苦笑)」
――大谷さん、凹むとどうなるんですか。
「直後はイライラして、荒れますね。その先、いい波が来るまで打てるイメージが湧かないというか、守ってる人が十何人もいるみたいだなと思ったりします」
――今年最後のホームランとなった18号(9月11日、インディアンスの右腕、アダム・プルッコのスライダーを弾丸ライナーでライトスタンドへ突き刺した)を打ったとき、「頭にない球種だったのに反応して突発的にいいスイングができた」とコメントしていました。ようやくいい手応えが残ったということだったんでしょうか。
「そうですね。基本的には何も考えずに打てるようにするというのがベストだと思っているので、それを今年はずっと練習してきました。去年よりも数字は下がっていますけど、それが成長にがっていないということではなくて、むしろよくなっていると思っているんです。自分のレベルが上がれば、見つけることも多くなりますから」
大谷翔平のピッチャーとしての理想
――メジャー2年目はバッター一本で出続けたわけですが、毎日、試合に出ることでメジャーのピッチャーの技術やレベルを思い知らされたということはありましたか。
「それはありました。ピッチャーによって感じることは違うんですけど、たとえばヒューストン(アストロズ)の3人はそれぞれの持ち味が違って厄介でしたね。(ザック・)グレインキー投手のコマンド力(狙い通りに投げる能力)はすごくて、力のあるボールで三振させられるというより打ちあぐねるというイメージがあります。(ゲリット・)コール投手は一個一個のボールの力がすごいので、甘かったとしてもファウルにさせられる感じですね。バーランダー投手はその中間のイメージで、両方とも持っているハイレベルなピッチャーです」
――そういうピッチャーをバッターとして見続けて、ピッチャーとしての理想が進化したり、変わったりはしませんでしたか。
「こういうボールが投げられればもっと打ちにくくなるのかなというのはありました。全部を持っていればそれは打たれないピッチャーなんですけど、自分がどういうタイプなのかなということも合わせて考えながら、こういうピッチャーを目指すのがいいのかなということは出てきました」
――アストロズの3人を見て、ピッチャーとしてどうなりたいと思いましたか。
「まだ僕はグレインキー投手のようにコマンド力で勝負するイメージではないと思います。もちろんそういう能力が必要ないということではなくて、今は一個ずつのボールの力で抑えていくコール投手のような雰囲気のほうが近いのかなと思います。そのためには、4つ(ストレート、カーブ、スライダー、フォーク)のボールの精度を上げていくことが大前提になりますね」
――ヒザを手術する前、あわせて14度、ブルペンに入りましたが、どのくらいまで戻せていたという感覚だったんですか。
「85マイルまで投げたので、単純に言えば85%だと考えられますけど、実戦となるとそうもいかないので、60%くらいだったんじゃないですかね。まっすぐが投げられる腕の振りが出てくればどの球種もある程度は投げられますから、そこまで戻れば、あとは指先の感覚とか握りの問題になってきます」
――ここから先の不安はありますか。
「球速が戻るかどうかじゃないですか」
――バッター一本のシーズンを過ごしてみて、二刀流に対する意識が変わったということはありませんでしたか。
「ここまで2つやってきて、やらないなんてもったいないじゃないですか。やるべきだな、目指すべきだなと思っています」
「僕、きっと野球をやめちゃうと思いますよ」
――それにしてもこのオフもリハビリの日々で、時間が余っちゃうんじゃないですか。
「だから家で電気治療をしながらテレビ見てますね。『アメトーーク!』は必ず見てますし、『水曜日のダウンタウン』も欠かしません。『こち亀』も変わらず見てます。あと英語版のマンガ『ドラゴンボール』を読んでます。
僕、『ドラゴンボールZ』しか見たことなくて、最初のシリーズの『ドラゴンボール』はストーリーを知らないので、それを英語で読んだらどうなのかなと思ったんです。わからないところは調べながらですけど、おもしろいなと思って読んでますよ。この英語でいいのかよって突っ込みどころも多かったりして(笑)」
――食事はどうしているんですか。
「食べているのはほとんどUber Eatsです。アジア系からメキシカンまで、一通り頼みましたよ。お気に入りはポキボウル(ハワイ料理で、味つけした魚介をタマネギやナッツ類、ゴマなどと和えて白飯に乗せて食べる、魚介の丼)かな。美味しいし、わりと楽に必要な栄養素が取れるんです」
――メジャー2年目を終えて、得たものを言葉にするとどうなりますか。
「得たものですか……それは、今年はプロ野球生活の中で一番悔しいシーズンだったので、残っている数字はそんなに悪くなくても、目指しているところが高くなっていることを実感できたということは言えると思います。こういう成績に対してすごく悔しいなと強く思えることが、何よりもいいことだったと思っています」
――メジャーに来て最初の頃は「できないことがある」ことに嬉しそうだったのに、「できなくて嬉しい」が「できなくて悔しい」に変わったということですか。
「そこは表裏一体ですからね。楽しいから悔しくないわけじゃないし、悔しいから楽しくないということでもない。できないことに向かっていくのは楽しいし、今年もいろいろ見つかりました。オフにそれを一個一個潰して、来年、どのくらいできるのかなということの繰り返しで野球が終わっていくものなのかなと思っています」
――もう終わっていくんですか(笑)。
「野球人生ってそういうものじゃないですか。これだというものが見つかればいいなと思ってやってますし、もし本当にそれが見つかってしまったら、僕、きっと野球をやめちゃうと思いますよ」
(石田 雄太/Number Books)