ますますその活用方法に注目が集まるドローン。ロシアによるウクライナ侵攻においても大きな威力を発揮していた。そのドローンを日本は正しく活用できているのだろうか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。
ドローンは戦争だけじゃなくて災害にも役立つ
ロシアによるウクライナ侵略戦争において、ウクライナ軍とロシア軍の両軍で使用されている軍事ドローンは「ゲームチェンジャー」とも呼ばれ、戦争の在り方そのものを変える存在となっている。偵察や索敵、さらには爆弾を搭載して戦車・艦隊・交通の要衝などを破壊するドローンの活躍を目にした人も多いだろう。
戦争で使用されると聞くと、「ドローンは危険なものだ」と捉える人もいるかもしれないが、それは誤解である。日本以外の諸外国では、ドローンは災害時にも大いに役立っている。
いくつかの実例を挙げよう。
2023年2月6日にトルコ南部とシリア北部で発生したマグニチュード7.8の「トルコ・シリア大地震」では、ドローンが重要な役割を果たした。広範囲にわたる被災地では多くの建物が倒壊し、道路や通信インフラも破壊されたため、救助活動は困難を極めたが、ドローンは上空から高解像度の映像や写真を撮影し、被害の全体像を迅速に把握することができた。
さらに、赤外線カメラを搭載したドローンは倒壊した建物や瓦礫の下にいる生存者の体温を検知できたため、限られた人的リソースの中でも効率的に生存者の位置を特定し、救助活動を行うことができた。
また、通信網が寸断された地域では、ドローンを中継器として活用し、一時的な通信ネットワークを構築する試みも行われた。これにより、被災地と指揮センターとの情報伝達が改善され、救助活動の質が向上した。
さらに、道路が破壊され車両でのアクセスが困難な地域に対しては、ドローンを使って医療物資や食料、水などの緊急物資を輸送する取り組みも実施された。これにより、孤立した被災者への迅速な支援が可能となった。
加えて、ドローンが撮影した映像は、被災地の現状を世界中に伝える役割も果たした。この結果、国際的な関心が高まり、支援物資や寄付の増加につながったのである。他にも、2022年に発生したトンガ海底火山の大規模噴火に対する国際的な支援活動では、ドローンが被害状況の把握や孤立した島々への物資輸送に活用された。
ヘリで飛んで行けるのに、わざわざドローンを使う理由
また、2021年にドイツやベルギーで発生した豪雨災害では、ヨーロッパ中部を襲った記録的な豪雨により洪水や土砂崩れが発生した。この際、ドローンは被害地域の地形変化をマッピングし、被災者の捜索やインフラの損傷評価に使用された。特に、地上からアクセスできない地域での情報収集において、その有用性が高く評価されている。
多くの人命が救われ、救助物資の迅速な配分が可能となり、救助隊員が赴く地域の安全性も確認できるようになった。こうしたドローン技術が、2024年1月と9月に能登半島を襲った大災害に活用されていたなら、どれほど多くの人が助かったかは想像に難くない。
次に、日本のドローン活用状況を見ていこう。日本を代表するドローン関連の組織として、「日本UAS産業振興協議会(JUIDA)」がある。この協議会は大学教授や元陸上自衛官などで構成され、国内のドローン事業者の多くが加盟している。
2024年1月1日に発生した能登半島地震の後、1月8日には、700人以上が孤立状態となっていた輪島市鵠巣地区に向けて、中心部からドローンで薬が配送された。ドローンには、地区内の避難所にいる住民3人分の持病薬が入った箱が積まれ、約3キロ離れた小学校の校庭まで10分かけて飛行し、無事に薬が届けられたとされる(NHKニュースより、1月9日)。
この報道では美談のように描かれているが、 ニュース映像を見ると、ドローンの着地点にも人員が配置されていることが分かる。さらに、後日談として「ドローンを飛ばせる場所かどうかを、上空から確認したい。自衛隊の所に行って、ヘリコプターに乗っていって現地の状況を調べることをしたのですが」(https://star.uas-japan.org/interview0018/)と操縦者本人が語っている。もし、人がその場所に行けるのであれば、もしヘリで飛んで行けるのであれば、わざわざドローンを使って少量の薬を送る必要があるのだろうか、という疑問が生じる。
国内外でドローンやAIの研究や開発に携わり、与野党議員や防衛省に対して助言をするハッカー「量産型カスタム師」(https://x.com/Master_R_C)に日本の災害時におけるドローン活用について話を聞いた。
緊急を要しているはずなのに…
ーー諸外国の事例を見ると、日本のドローンはパフォーマンスに過ぎず、救助・支援活動には何のプラスにもなっていないように見えます。ニュースでは「住民3人の持病の薬が入った箱」が届けられたとありますが、着地点に人が配置されていたとのこと。この人が直接薬箱を届ければよかったのではないでしょうか。
量産型カスタム師(ex氏):
そもそもヘリでドローンが飛ばせるかどうかを偵察するのもどうかと思いますが、そのヘリで視察にも行ってるわけです。ヘリも人も先行して行けるのであれば、常識的に考えて、その時に人が持って行きますよね。緊急を要するわけですから。自分が薬を待っている人の立場だったら、確実にそう思うでしょう。結果的に翌日に届けた、とココ(https://star.uas-japan.org/interview0018/)に書いてありますが…絶句ですね。
ーー2024年9月21日に能登を襲った豪雨災害でも、同じようなことが起きています。発災から時間が経った9月27日、自衛隊やドローン業界の関係者ら10人ほどが鵜入町の漁港に集まり、ドローンを使って孤立した集落に物資を運んだというニュースがありました。この時も着地点に自衛隊のヘリで人員を送ってます。
量産型カスタム師(ex氏):
その通りです。JUIDAの参与である嶋本学氏がX(9月29日)で「1月のニュースの時は、ドローンを飛ばしてくれた業者の補助者が徒歩で行ってくれました。今回は、自衛隊がヘリで行ってくれました。そして、避難者の方にーここでこの様に物資を受け取ってくださいーとお伝えし、次回以降はご自分で取りに来て頂くと言う事でした。」(https://x.com/ma_na_tyan/status/1840134298076332038)
と認めていますが、今回は自衛隊がヘリで先行して、荷物を受け取る住民に説明しに行ってるわけです。この時にヘリに荷物を乗せて届ければ良かった筈です。
しかし、このドローンによる孤立地域への物資輸送については、県が孤立解消を発表する数時間前に報道されたもので、2回目の輸送については情報がありません。
ーーJUIDAのドローンが運んだものは、レトルトがゆやパン、牛乳、野菜ジュースといったものでしたが、ヘリで十分運べそうですね。
量産型カスタム師(ex氏):
海外の事例を見ると災害時には、まずドローンが飛び、現地の状況を確認した上でヘリを飛ばすものですが、日本のJUIDAの対応は逆で、ヘリを飛ばして安全が確認されてからドローンを飛ばすそうです(笑)。しかも、運んでいるのは2.5キロ離れた地点への軽い物資です。そもそも被災地まで赴いてドローンで行う必要があるのか本当に疑問です。さらに、基地局の通信状況も悪い中で携帯電波(LTE)を使って飛ばす機体を使用するため、ドローンが着陸直前に映像が途絶えた、と関係者が語ってることからも明らかに運用上の判断ミスです。
今でも自衛隊のドローン活用は遅れている
ーーJUIDAは実績を作りたかったのでしょうか。<JUIDAでは災害現場での豊富な活動実績を活かし、「ドローン防災スペシャリスト教育」を近日リリース予定だ。能登半島地震などの災害支援活動でドローンがどのように活用されてきたのか、そのノウハウを収録している>(https://www.drone.jp/special/20241011194945100154.html#juida)と、ビジネスチャンスを狙っているようにも見えます。
量産型カスタム師(ex氏):
これまでに判明している事実を総合すると、JUIDAが定める「ドローン防災スペシャリスト」がどれほどの専門性や経験、さらには有用性と実用性を持っているのか、非常に疑問です。まずは諸外国並みに災害時にドローンをフル活用できるように、法律や規制で技術的な安全性を保ちながら平時、有事問わずドローンの運用全体を見直す必要があります。
そもそもJUIDAで参与を務め、被災地でのドローン運用の指揮を執る元陸上自衛隊の嶋本学氏については、今年の3月に発生した護衛艦いずもの上空をドローンが空撮した事件の際の読売テレビ報道番組の取材に対して「まずはレーザー開発を進めていき、早めの対処のために今開発が進んでいるレールガンも対ドローン向けにも考えていくべき」と不審なドローンの発見、検知という辺りをすっ飛ばした上に開発中の実用化されていない装備品で破壊する案を持ち出すなんて滅茶苦茶です。ロシアもウクライナもそんな事してません。たとえドローンの商業利用に関する団体だとしてもドローンに関係する技術の隙を突くなど、他に言うべきことを熟知していて欲しいもんですが、そうではないのでしょう。
まあ、今でも自衛隊のドローン活用は遅れていて、彼が在籍していた時に今よりもドローンが活用されているわけではないので仕方ないのかも知れませんが…。
本来彼らのような利権団体が行うべきは、例えば、能登地震で、能登半島全域が救助ヘリコプターとの事故を防ぐために緊急用務空域に指定され、県もしくは自衛隊の要請を受けたJUIDAの関連事業者含め一部のドローン事業者を除いてドローンの飛行が原則禁止されました。この結果、例えば復旧作業において屋根や高い所の修理を行う業者が独自にドローンを活用する事が出来ない、という話題がありましたが、このような個別の運用についての手続きの仕組みなりを提言してナビゲートする事だと思います。
国内外でドローンを運用する立場からみて、特に日本は安全の為にも電波や運用に関するルールを見直して、ドローン自体が持つ機能を十分に使い、真に防災に役立てて欲しいです。