着用していない人に逆ギレされる可能性はあるものの、誰でもできる仕事です。その結果、妻は平日の日中、働いているので1人で寂しい思いをしません。筆者が「どうなったのですか?」と聞くと、拓真さんは「出張中にLINEが届かなくなったんです」と喜びます。そして1人で自宅に取り残され、不安な思いをし、イライラすることもありません。そのため、モノに当たって傷つける機会もなくなったのです。

◆妻が仕事を失い…雪解けも束の間

このように妻は働きに出ることで拓真さんとぶつかる場面が減り、夫婦の関係は急激に改善していったのです。

しかし、雪解けも束の間。また二人の間に雪が降り積もる事態が起こったのです。2023年5月、政府は新型コロナウイルスを5類感染症に移行することを発表。それに伴って今まで行われていた感染対策は大幅に縮小されたのですが、それは妻の仕事も例外ではありませんでした。勤務先は会場に声かけの人員を派遣しなくなり、妻もお役御免とばかり、仕事を失ったのです。

もちろん、妻が外へ働きに出なくなっても、過去と同じトラブルを起こさなければ良いのですが、妻は完全に元の姿に戻ってしまったようです。筆者が「最近の奥さんはどうですか?」と尋ねると、拓真さんは深いため息をつきます。

例えば、一人で自宅にいると機嫌が悪くなり、今度はまだ中身が残っているチルドコーヒーを投げつけ、壁が茶色く染まる出来事が起こったのです。さらに拓真さんが出張中に「腰が痛くて起き上がれないの。早く帰ってきて」とスケジュールの変更を求めてきたのです。

筆者は「どうするのかは井上さん次第ですが」と投げかけると、拓真さんは「この3年間はのらりくらりとやっていけると思っていたのですが、さすがにもう限界、終わりにしようと思いました」と当時の心境を振り返ります。

◆離婚を迫ると「できる限りの抵抗」を…

そこで4年前に妻が記入した誓約書を用意し、妻の目の前に置き、「そういうわけだから」と離婚を迫ったのです。「え、嘘でしょ? 冗談だと思ってた」とふざけた態度をとったり、「香菜(子の名前)のことも考えて!まだ父親が必要な年だわ」と下手に出たり、「最後にもう一回だけチャンスをください。今度はちゃんと守るから」と泣きの手に出たり。できる限りの抵抗をしたのです。

さらに「お母さんに会わせる顔がないわ。あの人がどんな人か知っているでしょ!」と肉親を活用しようとしたのですが、拓真さんは「それは違反だろ!」と一喝すると妻は何も言えなくなったそうです。

結局、「次、同じことをしたら離婚に応じる」と約束したのは他ならぬ妻本人です。どうしても、そのことを覆せず、最終的には離婚届に記入したのです。

ここまで拓真さんの苦悩を見てきました。実際のところ、離婚が「別れましょう」「そうしましょう」と二つ返事で決まることはありません。許す許さない、怒る怒らない、話す話さないなどの揺り戻しを何度か繰り返した末に、どうしようもない場合は離婚します。

拓真さんの妻の場合、夫が不在の間、どのように気持ちを整えるのか、母親との距離をどうするのかを真剣に考えていれば、また違った結果をむかえたかもしれません。

しかし、妻は最初から最後まで何も変わらなかったので拓真さんは絶望し、最後の手段(誓約書を使って離婚の同意を取り付ける)を講じざるを得なかったのです。性格の不一致の場合、離婚するかどうかは紙一重ですが、「離婚したくない人」が離婚しなくてもいいように努力をしなければ、最終的に離婚は避けられないと言って良いでしょう。

<TEXT/露木幸彦>

【露木幸彦】
1980年生まれ。国学院大学卒。行政書士・FP。男の離婚に特化し開業。6年目で相談7千件、「離婚サポートnet」会員は6千人を突破。「ノンストップ」(フジテレビ)、「ホンマでっかTV」(フジテレビ)、「市民のミカタ」などに出演。著書は「男のための最強離婚術」(7刷)「男の離婚」(4刷)など11冊。

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