成長戦略に「M&A」を掲げる企業が増えてきています。プロモーション支援や接客支援を中心に、リアルとデジタルを融合した幅広いセールスコンサルティングサービスを手がける株式会社ピアズは、わずか2年の準備期間を経て2019年6月、東証マザーズ市場(現:東証グロース市場)へのIPOを果たし、10件以上のM&Aを実施してきました。近年では「おもてなしテック」企業を標榜し、AIを活用した接客関連システムの開発にも力を入れています。
今回は同社代表取締役社長の桑野隆司氏と、2024年にグループジョインした株式会社ワイヤードパッケージの元代表取締役山口真氏(現:ピアズ システム開発部 部長)と、元取締役の鈴木孝政氏(現:ピアズ 人材ソリューション事業部 部長 )にインタビュー。なぜピアズはスピード感のあるM&Aを実現できたのでしょうか。その秘訣とは――。
――現在、幅広いセールスコンサルティングサービスを展開しているピアズですが、もともとは携帯電話販売店舗への人材派遣からスタートしたと伺いました。
桑野:その通りです。学生時代から携帯電話の販売経験を積んでいたこともあって、まずは人材派遣を通して店舗の販売促進をサポートしようと思ったんですよね。ただ、人材派遣はなかなか競争が激しかったこともあり、ガラケーからスマートフォンへと切り替わるタイミングで人材育成に切り替えました。その後、さらに店舗のコンサルティングやオペレーション改善による業務効率化も支援するようになったんです。
また、DXに注目が集まり始めたタイミングで、それまでリアルで提供していたサービスのオンライン化に着手しました。その一例が、オンライン接客システムです。現在は、そこで蓄積された接客データをもとに、AIロールプレイングトレーニングシステムも手がけており、通信業界に限らず、金融・保険などの他業界でも顧客が増えつつあります。
――時代の変化に合わせてビジネスモデルを柔軟に変更し、事業拡大してきたことが伺えます。その中で、M&Aをどのように活用してきたのでしょうか。
桑野:M&Aは、成長戦略のど真ん中という位置付けです。当社のパーパスは、「NEW NORMAL ACCELERATION いつかの未来を、いつもの日々に」。先端技術やイノベーションの社会実装を目標としているので、新しい領域へと常にステップアップしていく必要があります。言ってしまえば、今まで行ってきた事業はすべて“踏み台”に過ぎないということですね。
とはいえ、社内での新規事業開発はうまくいかないこともある。だからこそ、M&Aの重要性が増してきます。2019年に上場したのも、M&Aのための資金調達が大きな目的でした。そして実際、上場後から現在まで、計12件のM&Aを実施してきました。譲受したのは、通信業界向けの人材派遣会社やイベント制作会社など、既存事業の関連領域が多いですね。一方、この件数には譲渡も含まれており、当社以外と協業したほうがシナジーを生み出せると判断した事業は、手放すこともあります。
――わずか数年で計12件ということは、M&Aにコンスタントに取り組める体制を築いているということでしょうか。
桑野:はい。当社にとって、M&Aは日常業務なんです。もちろん、重要度が低いという意味ではなく、いつも当たり前のように取り組んでいるという意味ですよ。経営企画室にM&A専門の人材がいますし、各事業部も日頃からM&A先を探すなど、自発的に動いています。
たとえばソーシングは、経営企画室がM&A仲介会社や金融機関、リファラルで紹介を受けた案件を事業部に共有することもあれば、事業部がM&Aプラットフォームなどで興味を持った案件を経営企画室に相談することもあり、双方向のやり取りで進めています。M&Aの交渉やDD(デューデリジェンス)は専門の人材が担当しますが、PMIとなると事業部も主体的に動いていますね。
――ピアズは2024年6月、ワイヤードパッケージのSES事業とエンジニアスクール事業を譲受しました。セールスコンサルティングには直接関わらない事業ですが、どのような意図があったのでしょうか。
桑野:オンラインのサービスやプロダクトの開発に着手して以降、自社の開発力を強化したいと思っていたんです。とはいえ、エンジニアは圧倒的な売り手市場。スキルと市場価格が一致しないことも多く、採用もM&Aもコストが高いという印象を持っていました。こうなったら自社で育成したほうがよいのではと考えていたときに、ちょうど経営企画室からワイヤードパッケージの話を聞いたというわけです。SES事業だけでなく、未経験の人材をエンジニアに育てるスクール事業があると知って、これはいいぞと(笑)。社内のエンジニア人材を拡充しつつビジネスの売上も見込める、まさに理想の案件だと思って、オーナーと面談することにしました。
その後、他社と価格競争になって交渉がまとまらなくなりそうになったこともありましたが、「御社となら、私にとっても社員にとってもいいM&Aになると信じている」というオーナーの一言があり、「そこまで言ってもらえるなら」と覚悟を決めたんですよね。
――そうしてオーナーとの合意形成に至ったと。一方、ワイヤードパッケージの代表取締役だった山口さん、取締役だった鈴木さんとは、いつお話をされたんですか。
桑野:確か、オーナーと最終的に合意形成できたその日に、ワイヤードパッケージのオフィスに向かったんですよ。そのときに初めて会いましたよね。
山口:いきなり対面することになったので、正直なところびっくりしましたね(笑)。オーナーがM&Aを検討していることは知っていましたが、相手はもちろん知らなかったので。
鈴木:しかも、プレスリリース発表が2日後と聞いてまた驚いて(笑)。
――なかなか早急な進め方ですね。
桑野:もちろん、何の考えもなく急いでいたわけではないですよ。実は、当社としては異例ながら、成約段階ではなく、基本合意書の締結段階でプレスリリースを発表することにしたんです。意向表明のフェーズとはいえ、一旦発表してしまったら、当社はほぼ後には引き返せない。ただ、ワイヤードパッケージの両事業は、社員と顧客の引き継ぎが肝ですから、情報開示をしたほうが、ワイヤードパッケージ側も動きやすいだろうと考えたんです。
山口さんと鈴木さんに実際出会って、信頼できそうだと思ったのも、決め手かもしれないですね。山口さんは、やや戸惑いながらも「一生懸命がんばります!」という感じでしたし、鈴木さんは「むしろチャンスだぞ」と考えているように見えました。
――山口さんと鈴木さんにとっては急展開だったと思いますが、どのような心境でしたか。
山口:最初は少しうろたえたこともありましたが、だんだん期待が膨らんでいきましたね。ピアズは規模も大きく、若手社員が多くて勢いがある。開発力しか持たない組織に、セールスコンサルティングというコンテンツやサービスが組み合わさることで、新しいことができるのではと思いました。
鈴木:私も、楽しみだという気持ちが大きかったです。ワイヤードパッケージでは、エンジニア派遣先でチームビルディングを行い、ビジネス開発で利益を生むというビジネスモデルを確立できた上に、教育機能も加えて組織を拡大することもできた。SESとしてはある程度完結させられたと感じていました。ただ、社員たちに100億円の世界を見せることはできなかった。本当は、社員たちにさまざまなチャレンジをしてもらいたかったのに、それを実現できるような環境を用意できなかったんです。新しい挑戦ができないことを理由に辞めていく社員もいて、大きな心残りとなっていました。
一方ピアズは、携帯販売店への人材派遣を祖業としつつ、外部環境の変化を先取りして、変革を続けてきた会社。通信業界だけでなく、他の様々な業界でも顧客が増えている。その上、「AI×セールス」という独自の成長戦略を描いているので、ゆくゆくは世界で戦っていける可能性もある。もう、チャレンジできることしかないだろうと思いましたね。しかも、これはピアズに参画してから感じたことですが、今回のディールと同様、事業変革のスピードもとにかく早くて(笑)。私自身、大手企業やスタートアップに在籍してきましたが、ここまで早いのは初めてです。むしろそれが、当社の若手社員にとっては面白さになるだろうと感じました。
――PMIは、どのようなスケジュールで進めたのですか。
山口:本当にすごいんですよ。100名以上の社員と約50社の顧客の引き継ぎを、2週間で完了させたんです。
――2週間ですか!
桑野:M&Aについては、すでにプレスリリースで発表しているので、あとは関わる人や企業の心をいかに迅速につかみ、契約を継続できるかが勝負なわけです。だからこそ、2週間という期限を設けました。特に社員については、事業譲受という特性上、雇用契約自体が変わります。不安もあったと思いますが、結果的には98%の社員が契約を継続してくれたんですよね。
山口:一番の難所でしたが、全体に対して説明するだけでなく、一人ひとり時間を取って説明したので、納得してもらいやすかったのかなと思います。ピアズの経営企画室や管理本部、人事部のみなさんも総出で手伝ってくださったのが心強かったですね。また、顧客の契約継続率は100%でした。人材はこれまでと変わらず提供し続けること、さらにピアズの組織に入ると顧客をサポートする営業人材が増えるので、サービス品質も上がることを、1社1社に対してアピールできた結果だと考えています。
――社員にも顧客にも、個別で丁寧に対応したからこそ、短い引き継ぎ期間で高い継続率を維持できたということですね。他にも、PMIでポイントとなったことはありますか。
桑野:組織変更ですね。まず、山口さんをピアズのシステム開発部の部長に据えました。今後はSES事業から離れ、ピアズのシステム開発を担ってもらうことにしたんです。一人だと心細いだろうと思い、SES事業から優秀なエンジニア仲間を選んでメンバーに加えてもよいと伝えました。
一方、鈴木さんには、当社の人材派遣事業全体をお任せしました。先ほどもお伝えした通り、人材派遣は当社の祖業です。2022年にM&Aし、2023年に吸収合併した株式会社ウィルも通信業界向けの人材派遣を行っていたので、双方を合わせて数百名規模の派遣人材を抱えていました。それに今回、ワイヤードパッケージのSES事業を統合させて人材ソリューション事業部とし、鈴木さんに統括してもらうことにしたんです。つまり、ワイヤードパッケージが当社の人材派遣事業を吸収したということですね。鈴木さんの貪欲さに期待しての抜擢です(笑)。
――山口さんと鈴木さんは、異なる部署に配属されながらも、ピアズの中心的なポジションを担うことになったと。それについて、ピアズの社員たちの反応はいかがですか。
桑野:ピアズは関連会社からの出向や異動で、人材が頻繁に出入りする組織なので、特に抵抗感を持ってはいないと思います。私自身、山口さんも鈴木さんも、もともとピアズにいたような気がしていますし(笑)。ただ、あえて言うなら、エンジニアという毛色の違う人材が入ってきたことで、興味を持っている社員が多いかもしれません。
――今回のM&Aを経て、今後目指す目標を教えてください。
桑野:数値的なものでいうと、時価総額300億円ですね。まもなく創業20周年を迎えるので、パーパスである「NEW NORMAL ACCELERATION」の実現を早めたい。ただ、当社が思い描いているプロダクトを作るにはそれなりの投資が必要なので、時価総額を上げて資金調達を容易にしたうえで、新たな経営フェーズに進もうと考えています。その中で今後も、M&Aは積極的に行っていきます。出身が違っても、目指すところが一緒であれば問題ない。地元の公立高校ではなく、さまざまな地域の生徒が集まる私立高校でも、甲子園という目標があればまとまりますから。
山口:私は目下、オンライン接客システムやAIを活用した人材育成システムなどをアップデート中です。ピアズのセールスコンサルティングにシステム開発力をかけ合わせて、新しいサービスを生み出すことが、時価総額300億円という目標に対する貢献方法だと考えています。これまでも仕事にはやりがいを持ってきましたが、ピアズに参画してパーパスへの理解を深めるにつれ、自分がやらなければならないことが明確かつシンプルに見えるようになった気がしますね。
鈴木:私はひとまず、桑野さんの期待を受けつつ(笑)、人材ソリューション事業部の売上を150%に拡大することを目指しています。既存メンバーのみでこれまでの実績を超えるための道筋は描けたので、あとはいくら上乗せできるかが勝負。ワイヤードパッケージのSES事業とは異なり、ピアズでは一次請け案件が多いので、法人営業に特化した人材を拡充しようと考えています。
山口も言っているように、ピアズへの参画を通して、私たちの“ストーリー”を持てるようになったことは、今後大きな強みになるはずです。「NEW NORMAL ACCELERATION」というパーパスがあるからこそ、どのような顧客に、どのようなサービスを、どのような姿勢で提供すべきかがわかりやすくなる。そして、顧客と同じ方向を向いて走れる企業だと、説得しやすくなると考えています。
――今後はどんな領域のM&Aを検討していますか。
桑野:「オンライン接客事業」と「AIボーディング事業(AIによる人材育成)」の強化を図るためのM&Aを検討しています。具体的に言うと、顧客との接客・商談および販売育成ノウハウを有している企業です。当社が有するノウハウは、現状では通信業界向けが中心ですが、今後これを横展開していくうえで、他業界の販売ノウハウや商談データが欠かせません。そこで、接客販売や営業ノウハウを有しているあらゆる業界の企業に、仲間に加わっていただきたいと考えています。
――最後に、みなさんにとってM&Aの成功とは?
山口:私にとっては、ピアズにM&Aが成功だったと思ってもらうことが成功です。現在はまだ、成功に至るまでの途中の段階ですね。
鈴木:私たちのジョインによって、全体的に顧客に喜んでもらえる範囲が広くなれば、M&Aは成功と言えると思います。
桑野:シンプルに事業成長ですね。売上面で1+1が10になるようなM&Aが理想です。ただ、今回は事業というよりも人を譲り受けたM&Aとして捉えているので、ジョインした社員たちが新たな領域にチャレンジするようになること、それを見て刺激を受けた当社の社員たちも頑張るようになることが、成功なのかもしれません。それが、結果的には事業成長にもつながっていくことでしょう。
「Update M&A」は、M&Aマッチングプラットフォーム「M&Aクラウド」がお届けするM&A特化型メディアです。近年、市場の変化とともにM&Aへの関心が高まっており、よりリアルで最新の情報が求められるようになってきました。当メディアでは、「M&AをUpdateしよう」をタグラインとして、M&AやPMI(M&A後の統合プロセス)に関するオリジナルの連載企画やインタビュー、関連ニュースの解説記事など、読者の皆様にとって有益となるリアルな情報を発信しています。
ーー「Update M&Aはこちら」
今回は同社代表取締役社長の桑野隆司氏と、2024年にグループジョインした株式会社ワイヤードパッケージの元代表取締役山口真氏(現:ピアズ システム開発部 部長)と、元取締役の鈴木孝政氏(現:ピアズ 人材ソリューション事業部 部長 )にインタビュー。なぜピアズはスピード感のあるM&Aを実現できたのでしょうか。その秘訣とは――。
(写真右から)
桑野隆司(くわの・たかし) 株式会社ピアズ 代表取締役社長
1976年京都市生まれ。NUCB修士号取得。2005年に株式会社ピアズを創業。携帯電話販売店舗における人材派遣や人材育成、プロモーションの支援から始め、適正販売・組織活性化に向けたコンサルティングへと事業を拡大したのち、2019年6月に東証マザーズ市場(現:東証グロース市場)上場。現在、M&Aを中心とした事業拡大に注力している。
山口真(やまぐち・まこと) 株式会社ピアズ システム開発部 部長
デザイン専門学校を卒業後、Webデザインや動画制作に従事。その後、スマートフォンや動画制作のアプリケーション開発においてプロジェクトマネジメントに携わる。2014年、システム開発に携わるBPOを中心とした株式会社ワイヤードパッケージを起業。2024年、同社SES事業およびエンジニアスクール事業の譲渡を機に、株式会社ピアズに参画。現在、システム開発部の部長として、ピアズのシステム開発を率いている。
鈴木孝政(すずき・たかまさ) 株式会社ピアズ 人材ソリューション事業部 部長
2017年、株式会社ワイヤードパッケージに入社し、執行役員としてSES事業の法人営業に従事。2018年、同社取締役に就任。2024年、同社SES事業およびエンジニアスクール事業の譲渡を機に、株式会社ピアズに参画。現在、人材ソリューション事業部の部長として、ピアズの人材派遣ビジネスを統括している。
「既存事業はすべて踏み台」成長戦略のど真ん中に据えるM&A
――現在、幅広いセールスコンサルティングサービスを展開しているピアズですが、もともとは携帯電話販売店舗への人材派遣からスタートしたと伺いました。
桑野:その通りです。学生時代から携帯電話の販売経験を積んでいたこともあって、まずは人材派遣を通して店舗の販売促進をサポートしようと思ったんですよね。ただ、人材派遣はなかなか競争が激しかったこともあり、ガラケーからスマートフォンへと切り替わるタイミングで人材育成に切り替えました。その後、さらに店舗のコンサルティングやオペレーション改善による業務効率化も支援するようになったんです。
また、DXに注目が集まり始めたタイミングで、それまでリアルで提供していたサービスのオンライン化に着手しました。その一例が、オンライン接客システムです。現在は、そこで蓄積された接客データをもとに、AIロールプレイングトレーニングシステムも手がけており、通信業界に限らず、金融・保険などの他業界でも顧客が増えつつあります。
――時代の変化に合わせてビジネスモデルを柔軟に変更し、事業拡大してきたことが伺えます。その中で、M&Aをどのように活用してきたのでしょうか。
桑野:M&Aは、成長戦略のど真ん中という位置付けです。当社のパーパスは、「NEW NORMAL ACCELERATION いつかの未来を、いつもの日々に」。先端技術やイノベーションの社会実装を目標としているので、新しい領域へと常にステップアップしていく必要があります。言ってしまえば、今まで行ってきた事業はすべて“踏み台”に過ぎないということですね。
とはいえ、社内での新規事業開発はうまくいかないこともある。だからこそ、M&Aの重要性が増してきます。2019年に上場したのも、M&Aのための資金調達が大きな目的でした。そして実際、上場後から現在まで、計12件のM&Aを実施してきました。譲受したのは、通信業界向けの人材派遣会社やイベント制作会社など、既存事業の関連領域が多いですね。一方、この件数には譲渡も含まれており、当社以外と協業したほうがシナジーを生み出せると判断した事業は、手放すこともあります。
――わずか数年で計12件ということは、M&Aにコンスタントに取り組める体制を築いているということでしょうか。
株式会社ピアズ 代表取締役社長 桑野隆司氏
桑野:はい。当社にとって、M&Aは日常業務なんです。もちろん、重要度が低いという意味ではなく、いつも当たり前のように取り組んでいるという意味ですよ。経営企画室にM&A専門の人材がいますし、各事業部も日頃からM&A先を探すなど、自発的に動いています。
たとえばソーシングは、経営企画室がM&A仲介会社や金融機関、リファラルで紹介を受けた案件を事業部に共有することもあれば、事業部がM&Aプラットフォームなどで興味を持った案件を経営企画室に相談することもあり、双方向のやり取りで進めています。M&Aの交渉やDD(デューデリジェンス)は専門の人材が担当しますが、PMIとなると事業部も主体的に動いていますね。
出会って2日後プレスリリース スピードM&Aの舞台裏
――ピアズは2024年6月、ワイヤードパッケージのSES事業とエンジニアスクール事業を譲受しました。セールスコンサルティングには直接関わらない事業ですが、どのような意図があったのでしょうか。
桑野:オンラインのサービスやプロダクトの開発に着手して以降、自社の開発力を強化したいと思っていたんです。とはいえ、エンジニアは圧倒的な売り手市場。スキルと市場価格が一致しないことも多く、採用もM&Aもコストが高いという印象を持っていました。こうなったら自社で育成したほうがよいのではと考えていたときに、ちょうど経営企画室からワイヤードパッケージの話を聞いたというわけです。SES事業だけでなく、未経験の人材をエンジニアに育てるスクール事業があると知って、これはいいぞと(笑)。社内のエンジニア人材を拡充しつつビジネスの売上も見込める、まさに理想の案件だと思って、オーナーと面談することにしました。
その後、他社と価格競争になって交渉がまとまらなくなりそうになったこともありましたが、「御社となら、私にとっても社員にとってもいいM&Aになると信じている」というオーナーの一言があり、「そこまで言ってもらえるなら」と覚悟を決めたんですよね。
――そうしてオーナーとの合意形成に至ったと。一方、ワイヤードパッケージの代表取締役だった山口さん、取締役だった鈴木さんとは、いつお話をされたんですか。
桑野:確か、オーナーと最終的に合意形成できたその日に、ワイヤードパッケージのオフィスに向かったんですよ。そのときに初めて会いましたよね。
山口:いきなり対面することになったので、正直なところびっくりしましたね(笑)。オーナーがM&Aを検討していることは知っていましたが、相手はもちろん知らなかったので。
鈴木:しかも、プレスリリース発表が2日後と聞いてまた驚いて(笑)。
――なかなか早急な進め方ですね。
桑野:もちろん、何の考えもなく急いでいたわけではないですよ。実は、当社としては異例ながら、成約段階ではなく、基本合意書の締結段階でプレスリリースを発表することにしたんです。意向表明のフェーズとはいえ、一旦発表してしまったら、当社はほぼ後には引き返せない。ただ、ワイヤードパッケージの両事業は、社員と顧客の引き継ぎが肝ですから、情報開示をしたほうが、ワイヤードパッケージ側も動きやすいだろうと考えたんです。
山口さんと鈴木さんに実際出会って、信頼できそうだと思ったのも、決め手かもしれないですね。山口さんは、やや戸惑いながらも「一生懸命がんばります!」という感じでしたし、鈴木さんは「むしろチャンスだぞ」と考えているように見えました。
――山口さんと鈴木さんにとっては急展開だったと思いますが、どのような心境でしたか。
株式会社ピアズ システム開発部 部長 山口真氏
山口:最初は少しうろたえたこともありましたが、だんだん期待が膨らんでいきましたね。ピアズは規模も大きく、若手社員が多くて勢いがある。開発力しか持たない組織に、セールスコンサルティングというコンテンツやサービスが組み合わさることで、新しいことができるのではと思いました。
鈴木:私も、楽しみだという気持ちが大きかったです。ワイヤードパッケージでは、エンジニア派遣先でチームビルディングを行い、ビジネス開発で利益を生むというビジネスモデルを確立できた上に、教育機能も加えて組織を拡大することもできた。SESとしてはある程度完結させられたと感じていました。ただ、社員たちに100億円の世界を見せることはできなかった。本当は、社員たちにさまざまなチャレンジをしてもらいたかったのに、それを実現できるような環境を用意できなかったんです。新しい挑戦ができないことを理由に辞めていく社員もいて、大きな心残りとなっていました。
一方ピアズは、携帯販売店への人材派遣を祖業としつつ、外部環境の変化を先取りして、変革を続けてきた会社。通信業界だけでなく、他の様々な業界でも顧客が増えている。その上、「AI×セールス」という独自の成長戦略を描いているので、ゆくゆくは世界で戦っていける可能性もある。もう、チャレンジできることしかないだろうと思いましたね。しかも、これはピアズに参画してから感じたことですが、今回のディールと同様、事業変革のスピードもとにかく早くて(笑)。私自身、大手企業やスタートアップに在籍してきましたが、ここまで早いのは初めてです。むしろそれが、当社の若手社員にとっては面白さになるだろうと感じました。
社員と顧客の引き継ぎ期間は2週間 それでも高継続率を維持できたわけ
――PMIは、どのようなスケジュールで進めたのですか。
山口:本当にすごいんですよ。100名以上の社員と約50社の顧客の引き継ぎを、2週間で完了させたんです。
――2週間ですか!
桑野:M&Aについては、すでにプレスリリースで発表しているので、あとは関わる人や企業の心をいかに迅速につかみ、契約を継続できるかが勝負なわけです。だからこそ、2週間という期限を設けました。特に社員については、事業譲受という特性上、雇用契約自体が変わります。不安もあったと思いますが、結果的には98%の社員が契約を継続してくれたんですよね。
山口:一番の難所でしたが、全体に対して説明するだけでなく、一人ひとり時間を取って説明したので、納得してもらいやすかったのかなと思います。ピアズの経営企画室や管理本部、人事部のみなさんも総出で手伝ってくださったのが心強かったですね。また、顧客の契約継続率は100%でした。人材はこれまでと変わらず提供し続けること、さらにピアズの組織に入ると顧客をサポートする営業人材が増えるので、サービス品質も上がることを、1社1社に対してアピールできた結果だと考えています。
――社員にも顧客にも、個別で丁寧に対応したからこそ、短い引き継ぎ期間で高い継続率を維持できたということですね。他にも、PMIでポイントとなったことはありますか。
桑野:組織変更ですね。まず、山口さんをピアズのシステム開発部の部長に据えました。今後はSES事業から離れ、ピアズのシステム開発を担ってもらうことにしたんです。一人だと心細いだろうと思い、SES事業から優秀なエンジニア仲間を選んでメンバーに加えてもよいと伝えました。
一方、鈴木さんには、当社の人材派遣事業全体をお任せしました。先ほどもお伝えした通り、人材派遣は当社の祖業です。2022年にM&Aし、2023年に吸収合併した株式会社ウィルも通信業界向けの人材派遣を行っていたので、双方を合わせて数百名規模の派遣人材を抱えていました。それに今回、ワイヤードパッケージのSES事業を統合させて人材ソリューション事業部とし、鈴木さんに統括してもらうことにしたんです。つまり、ワイヤードパッケージが当社の人材派遣事業を吸収したということですね。鈴木さんの貪欲さに期待しての抜擢です(笑)。
――山口さんと鈴木さんは、異なる部署に配属されながらも、ピアズの中心的なポジションを担うことになったと。それについて、ピアズの社員たちの反応はいかがですか。
桑野:ピアズは関連会社からの出向や異動で、人材が頻繁に出入りする組織なので、特に抵抗感を持ってはいないと思います。私自身、山口さんも鈴木さんも、もともとピアズにいたような気がしていますし(笑)。ただ、あえて言うなら、エンジニアという毛色の違う人材が入ってきたことで、興味を持っている社員が多いかもしれません。
“人”のM&Aにおける成功は、双方の社員たちの成長
――今回のM&Aを経て、今後目指す目標を教えてください。
桑野:数値的なものでいうと、時価総額300億円ですね。まもなく創業20周年を迎えるので、パーパスである「NEW NORMAL ACCELERATION」の実現を早めたい。ただ、当社が思い描いているプロダクトを作るにはそれなりの投資が必要なので、時価総額を上げて資金調達を容易にしたうえで、新たな経営フェーズに進もうと考えています。その中で今後も、M&Aは積極的に行っていきます。出身が違っても、目指すところが一緒であれば問題ない。地元の公立高校ではなく、さまざまな地域の生徒が集まる私立高校でも、甲子園という目標があればまとまりますから。
山口:私は目下、オンライン接客システムやAIを活用した人材育成システムなどをアップデート中です。ピアズのセールスコンサルティングにシステム開発力をかけ合わせて、新しいサービスを生み出すことが、時価総額300億円という目標に対する貢献方法だと考えています。これまでも仕事にはやりがいを持ってきましたが、ピアズに参画してパーパスへの理解を深めるにつれ、自分がやらなければならないことが明確かつシンプルに見えるようになった気がしますね。
株式会社ピアズ 人材ソリューション事業部 部長 鈴木孝政氏
鈴木:私はひとまず、桑野さんの期待を受けつつ(笑)、人材ソリューション事業部の売上を150%に拡大することを目指しています。既存メンバーのみでこれまでの実績を超えるための道筋は描けたので、あとはいくら上乗せできるかが勝負。ワイヤードパッケージのSES事業とは異なり、ピアズでは一次請け案件が多いので、法人営業に特化した人材を拡充しようと考えています。
山口も言っているように、ピアズへの参画を通して、私たちの“ストーリー”を持てるようになったことは、今後大きな強みになるはずです。「NEW NORMAL ACCELERATION」というパーパスがあるからこそ、どのような顧客に、どのようなサービスを、どのような姿勢で提供すべきかがわかりやすくなる。そして、顧客と同じ方向を向いて走れる企業だと、説得しやすくなると考えています。
――今後はどんな領域のM&Aを検討していますか。
桑野:「オンライン接客事業」と「AIボーディング事業(AIによる人材育成)」の強化を図るためのM&Aを検討しています。具体的に言うと、顧客との接客・商談および販売育成ノウハウを有している企業です。当社が有するノウハウは、現状では通信業界向けが中心ですが、今後これを横展開していくうえで、他業界の販売ノウハウや商談データが欠かせません。そこで、接客販売や営業ノウハウを有しているあらゆる業界の企業に、仲間に加わっていただきたいと考えています。
――最後に、みなさんにとってM&Aの成功とは?
山口:私にとっては、ピアズにM&Aが成功だったと思ってもらうことが成功です。現在はまだ、成功に至るまでの途中の段階ですね。
鈴木:私たちのジョインによって、全体的に顧客に喜んでもらえる範囲が広くなれば、M&Aは成功と言えると思います。
桑野:シンプルに事業成長ですね。売上面で1+1が10になるようなM&Aが理想です。ただ、今回は事業というよりも人を譲り受けたM&Aとして捉えているので、ジョインした社員たちが新たな領域にチャレンジするようになること、それを見て刺激を受けた当社の社員たちも頑張るようになることが、成功なのかもしれません。それが、結果的には事業成長にもつながっていくことでしょう。
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「Update M&A」は、M&Aマッチングプラットフォーム「M&Aクラウド」がお届けするM&A特化型メディアです。近年、市場の変化とともにM&Aへの関心が高まっており、よりリアルで最新の情報が求められるようになってきました。当メディアでは、「M&AをUpdateしよう」をタグラインとして、M&AやPMI(M&A後の統合プロセス)に関するオリジナルの連載企画やインタビュー、関連ニュースの解説記事など、読者の皆様にとって有益となるリアルな情報を発信しています。
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