[画像] 鉄道各社の「計画運休」に不満の声が集まる理由 現場からは「天気予報が当たってほしいと願うばかり」の声も

鉄道の計画運休、乱発されすぎ?

 近年、盛んに実施されるようになった、鉄道の“計画運休”。今年の8月には台風10号の接近に伴い、東海道新幹線と山陽新幹線の計画運休が実施された。ところが、台風の進路は刻一刻と変化。その都度、計画変更が繰り返され、利用者は振り回されることに。台風は各地で被害をもたらしたが、結局、新幹線の沿線では想定していたほどの被害には見舞われなかった。

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 そのため、駅で足止めをくった旅行客の中からは、「これなら運行できたのではないのか」「沿線はそれほど暴風雨に見舞われていない」「途中駅まででもいいから運転を再開してほしい」などと、様々な意見が飛び交う事態に発展した。一連の混乱を受けて、JR東海の丹羽俊介社長は釈明会見を行うことになってしまった。

以前より回数が増えた?(写真はイメージです)

 計画運休は2014年にJR西日本が本格的に行ったことで、広く知られるようになった。以後、事前に台風などの大災害が予測される際には事前に運休を決めれば、利用者があらかじめ振替え乗車や旅程の変更を検討できるし、帰宅困難者の発生を防ぐこともできる。利用者、鉄道会社の双方にメリットが多いと考えられ、JRグループ各社が取り入れた。

 当初はSNSを中心に、鉄道会社に対する称賛の声が相次いでいた。ところが、このところ大きな台風が接近するたびに計画運休が行われるようになったためか、利用者の不満が高まっている印象を受ける。2018年には、JR東日本が台風24号接近に際して行った計画運休が、実施の8時間前に発表されて大混乱を招いたのは記憶に新しい。

駅員「天気予報が当たってほしい」

 台風やゲリラ豪雨、地震などで鉄道のダイヤが乱れると、そのたびに駅員は対応に追われる。みどりの窓口は切符を払い戻す客でごった返し、長時間にわたって行列に並ばされた人からは怒号が発せられることもままある。計画運休はこうした事態を少しでも緩和し、鉄道会社の負担を減らす効果もあると言われてきた。本当のところはどうなのか。

 現役の鉄道会社の駅員T氏に話を聞いてみると、「現場がしんどいのは変わりない」という意見が返ってきた。鉄道の場合、一度決定したことを簡単に覆すこともできないため、万が一天気予報が外れると、ひたすら現場は謝罪対応に追われる羽目になるという。駅員の苦悩をT氏はこう話す。

「私としては、計画運休が決まったからには、とにかく天気予報が当たってほしいと願うばかり。事前に計画運休の通達を出したのに、天気予報が外れ、想定したほどの悪天候にならなかったりすると、一部のお客様が『なんで動かないんだ!』と怒りを爆発させることがあるのです…。SNSは駅員に同情的だったりしますが、現場は修羅場ですよ」

 計画運休は実施日のわずか1〜2日前に決定される。鉄道会社はテレビやネットなどを使って広報に努めるが、十分に周知されないことも少なくない。今年の計画運休でも、何も気にせずに駅に行ったら、新幹線が止まっていたという乗客が数多く見られたようだ。彼らからすれば「そんなの聞いてない!」ということなのだろう。結果、駅員に不満をまき散らすことになるのだ。

計画運休は“伝家の宝刀”

 JRグループの場合、一社が計画運休を決めると、他の鉄道会社に与える影響も少なくないことを忘れてはならない。例えば、宮城県の仙台駅から愛知県の名古屋駅まで、東北新幹線と、東海道新幹線を乗り継いで向かう旅行客がいたとする。東北新幹線はJR東日本、東海道新幹線はJR東海の管轄だ。

 東北新幹線は動いているのに、東海道新幹線は計画運休で止まっている。当たり前だが、こうなると旅行客はすべての計画が狂ってしまうのだ。鉄道ファンならいくらでも代替手段を検討できるかもしれないが、ほとんどの旅行客は鉄道事情に詳しくない。そのため、時には駅のみどりの窓口や改札口で駅員に詰め寄り、代替案を聞くことになる。

 T氏によれば、「他社が決めた計画運休のクレームを、なぜ当社が受けなければならないのか…と不満をもつ駅員もいる」そうである。そのため、T氏は「計画運休はいわば“伝家の宝刀”。本音では、よほどのことでない限り、出してほしくない」と話す。

「仙台では晴れているのに名古屋では雨のため計画運休、というケースがあると最悪です。『今、ここでは晴れているのに、なぜ東京から先の新幹線を動かさないのか!』と無茶苦茶なことを言われるんです。確かに予定の計画が狂い、混乱してしまう気持ちはわかります。ただ、駅員に不満を言っても解決しないので、冷静になっていただきたいですね…」

駅員に怒りをぶつけても意味がない

 鉄道会社の職員が今も昔も悩まされるのは、こうした利用者からのカスハラだ。列車が止まったり、遅れたりする場合は、明らかに鉄道会社に非がある場合もあるが、地震や台風などの気象問題で利用者から理不尽な怒りをぶつけられる駅員はさすがに気の毒である。計画運休が広まった当初は、カスハラを抑止する一定の効果も期待されたといわれる。

 だが、取材をすればするほど、カスハラの根本的な解決になっているのかというと、微妙に思える。今年の計画運休でも現場で駅員に対する暴言はあったようだし、JR東海が会見を開いたことからも混乱ぶりがよくわかる。結局、計画運休をしても地獄、しなくても地獄というのが本当のところなのかもしれない。

 海外を旅してみるとわかるが、諸外国の鉄道はいい意味で時間にルーズである。ところが、日本人は鉄道に対して異常なほどの厳格さを求める。1分遅れるだけで駅員に食って掛かる人もいる。乱発される計画運休は、そうしたカスハラやクレームの産物と言っていいかもしれない。計画運休をしてほしくないのであれば、とにかく駅員に対する暴言や暴力をなくすことが先決ではないかと思う。

ライター・宮原多可志

デイリー新潮編集部