[画像] なぜ川崎は優勝争いへ負けられなかった町田に快勝できたのか。背景にあった新布陣4−4−2の効果とチームの成長

[J1第33節]町田 1−4 川崎/10月5日/町田GIONスタジアム

 雨が降りしきるアウェーの地で川崎が見せたのは気持ち良いようなゴールラッシュだった。

 前節、首位攻防戦であった広島とのアウェー戦に敗れていた町田は、初昇格でのJ1制覇という偉業へ負けられない一戦だった。しかも、町田は今季、一度も連敗を喫していない。今季は昨年以上の苦戦で降格圏に近い順位も彷徨っていた川崎にとってはかなり苦しい試合になることが予想された。

 もっとも前節の新潟戦(○5−1/その後にはACLの光州戦も戦った)から取り入れた4−4−2システムがこの日も川崎の背を押した。

 エリソン、山田新というフィジカルに長けた2トップを配置し、ボックス型の中盤で左サイドには快速のマルシーニョを置き、右サイドハーフの脇坂泰斗、ボランチの山本悠樹、河原創らでバランスを取るこのシステムは、よりパワーとスピードという個の力を発揮しやすい。

 試合序盤も2トップらを中心に町田陣内に攻め込んだ。しかし、13分には右サイドで一本のロングパスから藤本一輝に起点を作られ、中島裕希に決められる痛い展開。警戒していたはずの形で失点したダメージがあったはずで、鬼木達監督が激しいジェスチャーをチームに送っていたのも印象深い。

 だが、「シーズンを通して上手くいかない試合が多いですし、そういった時にみんながしっかり修正するような声、声掛けする選手も増えてきたので、そういう結果なのかなと」と、CB佐々木旭が振り返ったように、ここで町田に流れを渡さなかったのは大きい。

 佐々木曰く「実は昨日、練習で全然上手くいかなくて、雰囲気もちょっとみたいな感じだったんです」と、チームとして不安もあったようだが、事前の予想通り町田がそこまで高い位置からプレスをかけてこないことをしっかり確認すると、落ち着いて逆転への道筋を描いていった。

 28分に左SB三浦颯太の豪快な一発で同点に追いついた後に、CB高井幸大が負傷で丸山祐市と交代するアクシデントにも見舞われたが、相手のミスを突いて38分に山田、50分にPKでエリソン、71分にマルシーニョがネットを揺らして逆転を勝利を収めたのだ。
【動画】川崎FW山田新の鮮やかなループ
 ボランチの山本は語る。

「今日は特に、相手の誰がプレスに来ていて、どこまで掴みにきているかを、ボランチだけでなくCBも含めて意識しながら動かせていたと思いますし、その時にうちの2トップのところで優位に立てるシーンが多々あったので、そこも意識しながら動かせたのは良かったと思います。

(前節の)新潟戦から続いている、奪って速く攻めるところが良いバランスというか、相手の嫌がることを常にできている感覚はあるので、それをもう少し得点につなげられれば、もっと試合展開は良くなるのかなとは思います。

 ただ、相手SBがどこまでくるか、相手のボランチがどこまでついてくるかをゲームの序盤で観察して、特にボランチの選手があまりこなかったので、SBを上げたり、自分が落ちるなどして安定したビルドアップで前に進めたと思いますし、あとは(相手の)サイドハーフが前に出てくるタイミングでその背中のスペースが空いていることは、(左SBの三浦)颯太に伝えていましたし、恐らくマルちゃん(マルシーニョ)も分かっていたはずなので、そこから左は特にスムーズに前進できたというのは一番大きかったと思います。

 CBも(相手が)来ていると思ったら飛ばしてくれたり、そのへんの判断はできたのかなと。また(山田)新とエリソンのところで時間ができ、タメが作れて、前向きにサポートに入れていると、手応えがありますし、前に向かって蹴るのが別に悪いことではないという感覚があると思うし、そこから若干疑似カウンターっぽく攻撃に入れているシーンもあるので、下からつなぐところと相手を引っ張り出してひっくり返すところは、バランスよく使っていけばより脅威になるはずです」

 そこは鬼木達監督にも想いを訊くと今後への展望を語る。

「柔軟にやれるようになってきたと思っています。パワーとスピードのある選手を活かしながらも、徐々に全体でボールを動かせるようになってきました。速い攻撃だけ、ボールを握るだけのどちらかひとつではなく、ふたつが徐々に混ざり合って相手が捕まえづらい状況になってきていると思います。そこでもっと安定感が出てくればという思いもありますが、進歩している途中なのでいろいろなエラーから改善していければと思っています。非常に前向きになれる試合でした。」

 さらに脇坂、佐々木も続ける。

「(山本)悠樹と(河原)創も、今年移籍してきた選手で、コミュニケーションもまじえながら、よりやりやすく連係を取れるようになっているので楽しいです」(脇坂)

「自分と(高井)幸大、マルくん(丸山)、や(三浦)颯太らで後ろを3枚にして、相手をズラすことができた。そこで上手く段差を作りながら前進できました。あそこで慌てて蹴ってしまったり、長いボールが主体になってしまうと。(0−2で敗れた)名古屋戦のような試合になってしまったはずで、本当に自信を持って後ろからつなげたので、それは良かったです。

 自分たち(最終ライン)と(山田)新、エリソンとの距離が長くなってしまうと、相手のペースになってしまうと思っていたので、なるべく上手く運んだり、近場でつなぎながら前進しようという話はしていました。それが上手くハマったのかなと」(佐々木)。

 この日の町田は守備強度にいつものようなパワーがなかったのは気がかりだが、川崎にとっては大きな勝利になったと言えるだろう。川崎“らしさ”を追い求める部分と、個々のパワーとスピードを融合させたサッカーは、進化の途上にあるが、今後、どんな形に昇華されていくのかは興味深い。
 
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)