[画像] 効果的な腸活には「野菜よりお米」が欠かせない


日本人の食物繊維の摂取量は10%以上がお米由来だという(写真:プラナ/PIXTA)

私たち人間の体内には、1000種類以上、100兆個にも及ぶ腸内細菌が棲んでおり、その重さはなんと約1.5キログラムにもなるといいます。そんな腸内の環境を整える「腸活」は健康長寿のための必須科目ともいえますが、文教大学健康栄養学部教授の笠岡誠一氏によれば、日本人の多くは「腸活」について大きな誤解をしているそうです。

効果的な「腸活」のために欠かせない炭水化物がもたらす驚きの効果とは。

※本稿は、笠岡氏の著書『9割の人が間違っている炭水化物の摂り方』から、一部を抜粋・編集してお届けします。

「サラダで食物繊維を補おう!」は大きな間違い

腸を健康にするためには、腸の中にいる腸内細菌を元気にしてあげることがとても重要です。本稿では腸内細菌とは何なのかについて、見ていきましょう。

腸には、1000種類以上、100兆個にも及ぶ腸内細菌が棲んでいます。重さにして約1.5キログラムというから驚きです。私たちは、1.5キログラムもの腸内細菌とともに生きているんです。

腸内細菌は多種多様なグループに分かれて花畑のように群生していることから、「腸内フローラ」とも呼ばれ、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3種類に大別されます。

ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌は文字通り、からだによい作用をもたらし、悪玉菌は体内で有害な物質を増やします。悪玉菌をできるだけ減らし、善玉菌が優勢な状態を作り出すのが「腸活」の目指すところです。

そのためにできることは次の2つと覚えておいてください。

1.納豆やキムチなどの発酵食品に含まれる善玉菌そのものを、腸に送り届けることです。

これをプロバイオティクスといいます。「共生」を意味する「プロバイオシス」が語源の言葉です。善玉菌と一緒に生きようというわけです。

2.善玉菌のエサとなる食物繊維を送り届けることです。

これはプレバイオティクスと呼ばれています。「プレ」というのは「先立って」という意味です。食物繊維が善玉菌のエサになり、善玉菌を増やすことに貢献します。

プロバイオティクスもプレバイオティクスも、「腸活」には欠かせないものです。本稿で詳しく触れるのは、2つめのプレバイオティクスについて、つまり「食物繊維」の重要性についてです。

突然ですが、ここでクイズです。食物繊維をたくさん摂取しようと思った場合、どちらの食事法がよいでしょうか?

・1日3食、お皿いっぱいのグリーンサラダを食べる
・1日3食、ご飯を食べる

答えは、「1日3食、ご飯を食べる」です。

「ええ! 食物繊維の量でいえば、野菜のほうが多いんだから、サラダで食物繊維を摂ったほうがいいのでは?」と思う方がいらっしゃるかもしれませんね。

レタスやキャベツ、ホウレンソウといったグリーンサラダの主役たちはどれも食物繊維たっぷりに思われますが、こうした葉物野菜の90%は水分です。ミネラルなどの栄養成分や食物繊維が含まれているのは、残りの10%程度でしかないのです。しかも、水分でお腹が膨れてしまい、それほど多くは食べられません。量を食べられなければ、食物繊維の摂取量は自ずと限られてしまうのです。

また、「ベジ・ファースト」という、ご飯やおかずよりも野菜を先に食べる考え方がありますが、特に年齢が高くなってきている方には注意していただきたいのです。というのは、野菜でお腹が膨れてしまって、ご飯やほかのおかずが入らなくなってしまうと、食物繊維はもちろん、ほかの重要な栄養まで摂取量が減ってしまいかねないのです。

炭水化物は日本人の重要な「食物繊維供給源」

伝統的に日本人は食物繊維をお米から一番多く摂ってきました。日本人が摂取している食物繊維量のうち10%以上がお米由来で、これは全品目の中で1位です。主食として毎日のように食べるため、結果としてお米から食物繊維をもっとも摂取していることになるのです。

ところが、現代人は食物繊維の摂取量が足りていません。戦後まもない1947年の日本人の食物繊維の摂取量は約27グラムでした。それが1955年になると約20グラムに減少。以後、日本人の食物繊維の摂取量は年々低下し、現在では14グラム程度になっています。

摂取目安量は18〜21グラム以上ですから、4〜7グラム程度不足していることになります。

減少傾向の背景にあるのは、かつてに比べて、主食としてきた米や麦といった穀類の摂取量が減った食生活の変化です。ご飯、つまり炭水化物を食べる量が減っていることが、そのまま日本人の食物繊維不足の原因になっているのです。

これだけ世の中に健康情報が発信され、腸活ブームといわれるほど、腸活の重要性が叫ばれながら、なぜ、食物繊維の摂取量が足りていないのか。

最近は、なにやら炭水化物を「悪者」として、できるだけ減らしたほうがいいという主張をあちこちで目にします。何事もそうですが、過剰に摂取しすぎることが健康に悪影響を及ぼすこともありますが、足りないことによる弊害も大きいことをよく知っておいていただきたいと思います。

そもそも人類は、炭水化物を食べて進化してきたのです。

つい最近まで、石器時代の人類は肉を主食にしていたと考えられていました。しかし、バルセロナ自治大学のカレン・ハーディ博士の研究により、この定説はくつがえされています。

石器時代の人類の歯石を調べたハーディ博士によると、歯石に炭水化物の成分が確認できたといいます。私たちの遠い祖先は、木の実や地下茎などからエネルギーとなる炭水化物を摂取していたのです。

さらに、人類が火を使うようになって加熱調理を始めると、炭水化物から摂れるエネルギーが増加し、その結果、脳が大きくなり人類が進化を遂げたこともわかっています。

日本人の「ご飯を食べるのに適した」遺伝子を活かす

特に、日本人は「ご飯」を主食に選び、3000年以上にわたって食べ続けてきました。その結果、遺伝子レベルで驚くべき進化を遂げていることがわかっています。

ダートマス大学のナサニエル・ドミニー博士は、世界のさまざまな民族の唾液を調査し、そこに含まれる「アミラーゼ遺伝子」を解析しました。

アミラーゼ遺伝子には、炭水化物(でんぷん)を甘い糖に分解する働きがあります。炭水化物をあまり食べない民族はアミラーゼ遺伝子が4〜5個だったのに対し、日本人は平均7個持っていることがわかったのです。

アミラーゼ遺伝子を多く持っているほど、炭水化物を分解しやすくスムーズに利用することができます。このことは日本人が長寿であることの理由の1つとして間違いありません。私たちの祖先は、炭水化物をたっぷり食べていたから、遺伝子さえも進化させて、健康長寿を実現させてきたのです。

炭水化物をたっぷり含む米を栽培できるのは、世界でも一部の限られた地域だけです。そんな日本に住む日本人には、米を中心とした炭水化物をたっぷり食べてほしいのです。

日本人は炭水化物を分解するアミラーゼ遺伝子を多く持っていることに加え、腸内細菌も、炭水化物を分解する菌がほかの国の人々より多いことがわかっています。

安易な炭水化物の制限に伴う「大きな代償」

早稲田大学の服部正平教授らが2016年に科学雑誌『DNA リサーチ』に興味深い研究結果を発表しました。日本人106人の腸内細菌叢を解析し、アメリカやフランス、ロシア、中国など計11カ国の国民の平均的な腸内細菌叢データと比較したところ、日本人は特徴的に「ブラウチア属」が多いことが示されました。


ブラウチア属の菌の特徴を考え合わせると、日本人の腸内細菌は炭水化物の利用に適している可能性が考えられます。炭水化物に含まれる食物繊維や難消化性でんぷん、難消化性オリゴ糖などをエサにして、私たちのからだにとって有益な「短鎖脂肪酸」を効率的に生み出してくれるのでしょう。

この「短鎖脂肪酸」には、すごいパワーがあることがわかっています。

たとえば、「免疫バリア機能の強化」「血糖値を一定に保つホルモンであるインスリンの分泌促進」「脂肪の蓄積を防いで肥満や生活習慣病を予防する」といった健康効果が期待されるのです。

つまり、炭水化物はからだに悪いと思い込んで制限したりすると、腸内細菌に充分にエサが行き届かず、短鎖脂肪酸を生み出せない環境を作り出してしまうことになるのです。そうすると、先に述べた短鎖脂肪酸の恩恵は受けられなくなってしまいます。

安易なダイエットなどで炭水化物を摂らないことは、こうした代償が伴うことをよく覚えておきましょう。

(笠岡 誠一 : 文教大学健康栄養学部教授)